いよいよ本番です。
「…………ふぅ」
「ふふっ。なんか前にも見たね、こういうの。ほら、リラックスリラックス」
「……うん、ありがとエルナ」
それから、一週間ほど経て。
そう、胸へ手を添え息をもらす。今までにないほど強く脈打つ、自身の左胸へと。すると、隣でおかしそうに微笑むエルナ。……うん、なんか前にも見たね、こういうの。
さて、今いるのはバロックと呼ばれる様式のオシャレな木造の劇場――いよいよ、この二週間の練習の成果を発揮するピアノコンクールの会場の前で。……ふぅ、リラックスリラックス。
「……うわぁ、やっぱりいっぱいいるね、ハイノ」
「……うん、エルナ。それに、みんなすごそう」
それから、少し経過して。
そう、感嘆をもらすぼくら。今いるのは、天井や壁の壮大な絵が印象的な会場の中。そこに、大人も子どももたくさんの人がいて……そして、みんなすごそう。なんかもう、服装や雰囲気からしてぼくとは違う。何というか、バッチリ英才教育を受けてきたお坊ちゃまお嬢さまという感じで……まあ、うらやましいとは全く思わないけど。だって、ぼくには――
「――大丈夫だよ、ハイノ。わたしがついてるから!」
「……エルナ。うん、ありがとう」
すると、ぎゅっとぼくの手を握り満面の笑顔で告げるエルナ。そんな彼女に、ぼくも笑って感謝を告げる。うん、うらやましい気持ちなんて全くない。だって……ぼくにはもう、最高の家族が……エルナがいてくれるんだから。
「…………すごい」
それから、しばらくして。
そう、ポツリとつぶやくぼく。今、心臓をバクバクさせながら順番を待っているのだけど……やっぱり、みんなすごい。みんな相当に上手で、そしてそれぞれに素敵な個性があって……うん、今更だけどとんでもないとこ来ちゃった?
「――続いて、エントリーナンバー22番。ハイノくん」
「はっ、はい!」
それから、数十分後。
司会者の人に名前を呼ばれ、ビシッと立ち上がり返事をするぼく。そして、まるでロボットのような動きで広い壇上へと上がり、ほぼ中央にあるピアノの方へ……大丈夫かな? 笑われてないかな?
それでも、どうにかピアノの前へとたどり着き腰を下ろす。チラと視線を移すと、たくさんのお客さんの中でニコッと手を振る可憐な少女の姿。……うん、ちょっと恥ずかしい。
「…………ふぅ」
深く、呼吸を整える。そして、そっと鍵盤へと手を添える。……正直、自信なんてない。ない、けれど……それでも、エルナが応援してくれている。優勝してほしいと、心から願ってくれている。だから――




