理由
「…………ふぅ」
ある日の、穏やかなお昼の頃。
パステルカラーのお家が並ぶ鮮やかな街の中を、ぼんやりと眺めながら一人で歩いていく。そんなぼくの視界には、カフェでくつろいでいる若い男の人と女の人。お花に水をあげているおばあちゃん。追いかけっこをしている男の子達。他にもたくさんの人達がいて、その中にはお互いに知り合いの人もそうじゃない人もいるんだろう。だけど、一つ言えることは――みんな、まぶしいほどにキラキラ輝く笑顔だということ。……うん、なんて素晴らしい世界。こんな素敵な世界における異物は、ぼくだけで……うん、ぼくなんていっそのこと――
「――おい、大変だ! 向こうで、女の子が溺れてるらしいぞ!」
「…………へっ?」
突然、鋭い声が耳をつらぬく。そして、その声に多くの人が急いで川の方へと走っていく。……まあ、ぼくには関係ないけど。かわいそうではあるけど、ぼくには何も――
「…………はぁ、はぁ」
それから、ほどなくして。
関係のないはずなのに、どうしてか川の畔で息を切らすぼく。視界には、速い流れの中かろうじて岩にしがみつく赤い髪の女の子。見たことのない女の子だ。
……そう、僕には関係ない。かわいそうだけど、彼女は見ず知らずの女の子……命を危険にさらしてまで助けにいく理由はどこにもない。実際、同じく畔や橋の上から見ている人達も、心配そうではあるけど自ら助けに行こうとする人はいない。きっと、誰かが勇気を出して飛び込むのを待っていて。
……そう、助ける理由なんてない。命を危険にさらしてまで助ける理由なんて、どこにも――
「――捕まって!!」
「……へっ!?」
「早く!!」
「……へっ、あっ……うん!」
それから、ややあって。
そう、ポカンと目を見開く女の子。まあ、それもそうだよね。突然、同い年くらいの男の子が激流の中で自分の方へと手を伸ばしてるんだから。
……そう、助ける理由なんてない。それも、命を危険にさらしてまで。……でも、そもそもそんなことを恐れる必要なんてない。だって、ぼくは死んだっていいんだから。それなら……せめて、ダメ元で人助けをして最期を迎えるのも悪くないかなって。
その後、彼女を抱え川の中を進んでいく。幸い――本当に幸い、川の流れが少し緩やかになったのでその間にどうにか進み、そして――
「――うわああああああああああぁん!!!!」
畔にて、ぼくをぎゅっと抱きしめ叫ぶ女の子。底の知れない恐怖から解放されて、ふっと緊張の糸が切れたのだろう。そして、四方八方から大きな拍手が……あの、恥ずかしいのでどうか止めてください。そもそも、今のこの状況自体すごく恥ずかしいのに。
あっ、ちなみにだけど川に飛び込むのは危険なので良い子は……いや、良い子も悪い子も子どもも大人もみんな真似しないでね? ほんとに、ほんとに危険だから。




