第三章: あなたの色
駅前のカフェで待っていると、真理が小走りでやってきた。
いつもは快活な彼女が、今日は少し俯き気味だ。
「ごめん、遅れちゃって」
その声も、どこか元気がない。
注文を終えたあと、澪はそっと聞いた。
「…何かあった?」
真理は一瞬迷ったけれど、苦笑しながら言った。
「仕事、うまくいかなくてさ。私って、何も取り柄がない気がする」
***
澪はストローで氷をくるくる回しながら考えた。
真理は、私が会議で言葉を詰まらせたとき、すぐフォローしてくれた。
新しいお店を見つけると必ず誘ってくれる。
——そんな人が、自分に何もないなんて言うはずない。
「真理の取り柄?」澪は少し笑った。
「いっぱいあるよ。私が思いつくだけでも、三つは言える」
真理が驚いた顔でこちらを見る。
「まず、困ってる人を見つけるのが早い。次に、笑わせるのが上手い。
そして……私が迷ってるとき、必ず背中を押してくれる」
***
「そんなふうに思ってくれてたんだ…」と、真理が小さく笑った。
その笑顔は、最初に会ったときの彼女の色に戻っていた。
澪は心の中で思う。
——私を支えてくれたように、今度は私があなたの色を守る番だ。
カフェを出るころ、真理は肩の力が抜けたように、いつもの歩幅に戻っていた。