第二章: 澪の歩幅
(親友:真理視点)
澪とは、高校からの付き合いだ。
大人になっても変わらないのは、彼女が真面目で、どこか不器用なところ。
でも私は、その不器用さが好きだった。
だって澪は、一つのことを大切にするために全力を尽くす人だから。
***
仕事帰りに駅前のカフェで会ったとき、澪は少し疲れた顔をしていた。
「今日、会議で想定外の質問があってさ…」と笑うけれど、
テーブルに置かれた手は、まだ少し緊張を覚えているようだった。
私はコーヒーを一口飲みながら、ふと口に出した。
「澪って、困ったときもちゃんと立ち止まって考えるよね」
彼女は目を丸くして、「そんなふうに見える?」と聞く。
もちろんだ。焦って投げ出す人は多いけど、澪は違う。
時間がかかっても、自分のやり方で進む。
***
澪が資料作りに何時間もかけるのを知っている。
色や配置にこだわり抜いて、最後に小さく「完成!」と笑う姿も。
それはたぶん、彼女にとっては生きるための工夫であり、誇れる仕事の仕方だ。
だから私は言った。
「澪のそういうところ、すごく好きだよ」
彼女は少し恥ずかしそうに笑ったけれど、その笑顔は柔らかくて、
見ている私まで安心させる。
***
帰り道、澪が「明日も頑張れそう」と呟いた。
私は心の中で思う。
——澪の歩幅は、たとえゆっくりでも、確実に前へ進んでいる。
その歩き方こそが、彼女らしさなんだ。