4.教会騎士ゲラーシー・ダヴィトキン
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「おぉ、聖女ルー! ようやくお目見えか。王城とは名ばかりの悪魔の巣窟より貴女様を救い出すべく、教会騎士ゲラーシー・ダヴィトキンが馳せ参じましたぞ」
態度と口はかなり悪いが、目はいいのだろう。
まだそれほど近くはないゴルドに向かって、ゲラーシー・ダヴィトキンと名乗った教会騎士が、門番に突き付けていた聖杖をくるりと廻して背中側にあて、礼を執ってみせた。
敵意はないことを表しているのだろうが、ここに来るまで散々ゲラーシーとやらの罵声が聞こえていたゴルドは眉を顰めた。
睨んでいるゴルドの視線をなにやら勘違いしたらしいゲラーシーが得意げににやりと笑った。
すっかり視界から外され先ほどまで掛けられていた威圧もまるで無かったようにされてしまったが、すぐ目の前での教会騎士のあまりにも無礼な発言に、門番がついに怒りを露わにした。定型文ではない抗議の声を上げる。
「悪魔の巣窟とはなんたる侮辱! なんという暴言! ここは、魔族を退けた勇者であるアレクサンドル大王様と、その忠実なる臣下ゴルド・ドルバガ様がおわす王城である。即刻、今の発言を撤回して頂こう」
教会が、魔族の手から信徒すら救わずひたすら閉じこもってやり過ごしていたことを知っている門番がカッとなって叫んだ。
国境を超えて魔族と戦ったのは王族とそれに従う家臣、騎士たちだ。
民草を護るべく戦っていた王を、その護られている民草の陰に隠れるようにして最奥で閉じこもっていた教会が、なぜ王を馬鹿にできるのか。
「何もわかっていない只の駒にすぎない一兵卒が。聖女の前だからこそ温情をかけて許しを与えてやったというのに。いい気になりおって」
そう言い放つやいなや、ゲラーシーはゴルドに向けて執っていた礼を崩し、背中に当てていた聖杖を、門番に狙いを向け振り上げた。
「!」
ガッ。
「痛っ!」
手首を押さえたゲラーシーの足元へ、ゴルドが愛用している木剣が、カランと音を立てて落ちた。
「大丈夫か! すまない」
ようやく近付いて声を掛けたゴルドに、ゲラーシーは声を荒立て怒りを露わにした。
「大丈夫な訳がない! こんなモノを投げつけておいて、まずは謝罪であろう」
「本当にすまない。遅くなってしまって。怖かっただろう」
赤く腫れあがった手首を押さえて荒れ狂うゲラーシーを、けれどもゴルドは視界にすら入れようとしなかった。
「だが安心するがいい。すぐに騎士団がくる。よく職務に努めてくれた。明日は特別に休養日にして貰えるように計らってやろう」
「ありがとうございます、騎士団長さま。しかし、休養など必要ありません! 私は門番という務めを果たしたにすぎません。只今、無礼な不審者がこうして開門を求めてきておりますが、なぁに絶対に通したりしませんよ!」
門番たちが、大きく頷く。その顔は誉れに輝いている。
ゴルドは誇らしそうに、目元を弛めて微笑んだ。
「そうか。我が国はいい兵士を持った。そう自慢にしよう」
「何よりのお言葉。ありがとうございます」
「うむ。これからもいっそう励めよ」
「俺を無視して会話を進めるな!」
割り込んでくる教会騎士へ、ゴルドはようやく視線を向けた。
さらりと、全力疾走でほつれた銀の髪が頬を撫でた。
全力で走ってきたからだろう。滑らかな頬は上気して、むりやり押しつぶしているようだが、それでも分かる豊かな胸のふくらみが荒げた呼吸に合わせて上下する様は、清潔な色気を醸していた。
ぴったりと細い腰のラインに沿う服は、まるで男物のようだが、むしろ背徳の香りがした。
吐く息すら、甘い香りがするようだ。
ゲラーシーはつかの間、怒りすら忘れてその美しい少女の姿を観賞した。
ゴクリと咽喉が鳴る。
夜明け前の空のような濃い藍色に金色の星が飛ぶ美しい瞳が、ゲラーシーを見上げていた。強い視線だ。
ピンク色をした花弁のような唇が、ゆっくりと開く。
その動きに誘われるように、ゲラーシーが二人の間にある門へと近寄った。




