2.強引で傲慢な招待
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「さて、どうしたものか」
教会は、大きい。
あの魔族との戦いでの行ないすら、結局信者たちは受け入れてしまった。
『教会の祈りが通じたお陰で、聖女さまの御降臨が叶った』
そう信じている者はこの国の貴族にもいる。
主に、戦場から遠くあった者たちだ。
剣をとることが不得手でも、事務仕事や折衝を得意とする者たちがいなければ、国は成り立たない。
だから戦場に立っていなかろうが、王として不遇に処することはない。
しかし、ゴルドが神の御業を宿したことにより架せられた災いすら理解することなく、その忠義を尊ぶこともなく、アレクサンドルの忠臣を都合よく扱おうという性根だけは見逃す訳にはいかない。
「ぶっ潰すか。真正面から』
ぶっ潰した後、他国からの抗議を受ける可能性は高い。いや、間違いなく受けるだろう。
しかし、とりあえずぶっ潰してしまえば、アレクサンドルの忠義者へちょっかいを出そうとする者は消せる。以降のちょっかいも減るだろう。
教会も、頭となる教皇を潰してしまえばあとは烏合の衆だ。どうとでもできる。
「これから行って、殴ってくるかな。いや、一思いに殺っちまうのも」
そこまで考えたところで、窓の外が騒がしいことに気が付いた。
廊下を駆け寄ってくる音もする。
アレクサンドルは窓に駆け寄ると、顔を出さずに目だけで外を確認した。
城門の方に、兵たちが集まっている。
眉間にしわを寄せて目を凝らすと、やたらとギラギラした装飾だらけの馬車が止まっていた。
どうやら強引に城内に入り込もうとしているようだ。
馬車の行く手を阻む門番が、白い服を着た男たちとなにやら言い合いになっているようだった。
ひとりの男が手にした棒で門番を威嚇しているのが見えて、怒りがわく。
「俺の居城でなにしてやがる。ふざけやがって」
アレクサンドルは、置いてあった愛用の剣を腰に刷いた。
バンと派手な音を立てて、執務室の扉が大きく開かれた。
ラザルはノックすることもしなかったが、中から誰何する声も上がらないことも気づかないまま、叫んだ。
「アレクサンドル様、大変です。教会が、ゴルド様を直接連れていこうとやってきました!」
階段を三段ぬかして駆けあがってきて、はあはあと上がる息を何とか抑えて報告する。
しかし、アレクサンドルが詰めているはずの執務室は、もぬけの殻だった。
その窓が大きく開けられている。
「アレクサンドルさま?! うええぇぇぇ!!!」
まさかと思って窓の外を確認したラザルは悲鳴を上げた。
大王が、窓から落ちていた。
「いや、飛んで……跳んでる?!」
アレクサンドルは、城の屋根の魔除けの飾りやら落雪防止鋲を器用に蹴っては、勢いを殺しながら空中移動していた。
「そもそもその魔除けの壁面彫刻は侵入者防止のためのはずなのに。あーもう、ホントにあの人ってば規格外だなぁ。えっと行先は……城門、か? まさか窓からあの騒動を見つけられたのか?! 嘘だろう」
嘘というなら、三階の窓から飛び降りて急勾配な屋根と外壁沿いに移動していく姿自体がまるで嘘のようだった。
「マジかよ。こんなことができる身体能力の持ち主とやり合って、勝てる訳がない」
ははは、と乾いた笑いが出てくる。
窓枠の下を覗き見ると、足場と呼べそうなものは何も見つけられない。
基本的にすべてが尖っているのだから当たり前だ。そんな盗賊や異国の間者がモノは試しだと思わないようにそれはもう念入りに設計されているのだから。
「はぁ。ホント、人外だな」
ラザルがアレクサンドルと剣を交えることになったのはつい3カ月ほど前のことだ。
かなりの手加減をして貰っていただろうに、瞬殺された。
一対一ならば魔族相手に互角で戦えるという噂は伊達ではないのだ。
「アレクサンドル大王様が教会の相手に行って下さったなら大丈夫だろう。では、俺はもうひとりの御方のところへ行って、説得を試みるとしよう」
ラザルの敬愛する上司はまっすぐな方だ。
隠れていて欲しいと頼んだとしても受け入れてくれるかは分からない。いや受け入れて貰える可能性は極めて低い。
「それでも、諦める訳にもいかないし、あの御方を教会に差し出すなんて冗談じゃない」
絶対に、禄でもないことになる。
ラザルは足早に、城の裏手にある訓練場へ向かった。




