第21話「忠誠の意志は私のもの」
「標的は、グロスタン侯」
私は言った。
ファランがわずかに眉を上げる。
「……中枢の重鎮を、ついに、ですか」
「そう。“古き秩序”にしがみつき、
自らは動かず、ただ下を潰して座を保っている。
力も才もない者が、権威という鎧だけを纏って座り続けている――
そういう者を、まず崩すのよ」
ルウェナがすぐに頷いた。
「証人と記録の一部は、すでに確保済みです。
領地の財務帳簿に改竄の跡があり、
帝国への裏献金の記録も、使える形で残っています」
「それで充分。
あとは“どう崩れるか”を演出するだけ」
私は地図を広げ、王都の中枢――
グロスタン家の邸宅に印をつけた。
「貴族たちは、“誰が罰せられるのか”を見て判断する。
この国に必要なのは、見せしめの刑じゃない。
“沈黙している者こそ危うい”という理解」
「……静かな恐怖、ですね」
ファランが笑う。
「それが一番、よく効く」
私は頷いた。
* * *
翌日、地下拠点に数通の密書が届いた。
いずれも、“忠誠”を仄めかす文面を含んだものだった。
それを読みながら、私はふと笑った。
「みんな、“自分の意志”でこちらに与したと思ってる」
「違うんですか?」
ルウェナが問いかける。
「違わないわ。でも、それだけじゃない。
彼らの選択は、“私が誘導した未来”に乗っただけ」
「誘導、ですか」
「そう。“誰が倒れるか”“何が起きるか”――
彼らは先に知っていたつもりになってる。
けれど、その情報すら、私たちが撒いた種よ」
私は密書を封じた。
「意志すら、私のもの。
そう思っておく方が、統治は楽」
ルウェナは、何も言わなかった。
けれど、少しだけ笑っていた。
* * *
帝国・王都監察院。
レイ・カシエルは一枚の地図を眺めていた。
黒い印が点在するその地図は、王都における“黒衣の令嬢”の目撃情報と
密かに発見された支援者の動向を記したものだった。
「――ここまで構造的に動いているのに、“名前”が残らない。
これは、ただの反乱ではない」
背後に控えていた副官が問いかける。
「接触されますか?」
「いや、今はまだ早い。
だが、相手はこちらの出方を測っているはずだ。
だから――こちらも、“情報”という手札を先に切る」
レイは小さく微笑んだ。
「“宰相”は、力より構造を恐れる。
なら、構造の一部になったふりをして近づくほうが、効果的だ」
副官が一礼し、静かに退室する。
レイは椅子に深く身を沈めながら、呟いた。
「さて――君が本当に“影”であるなら、
こちらから光を当てれば、自然と姿が見えるはずだろう?」




