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【短編】振り向かなくても...

高校3年生の3月。卒業式を迎えた冴えない普通の男子高校生、松沢太郎。彼には好きな女の子がいるが、彼女は学校のマドンナ的存在で、高嶺の花だった。しかし、あることをきっかに彼女と仲良くなった。そして今日、彼は彼女に想いを告げることを決心した。

おれには、好きな人がいる。


その子は同い年でこの高校のマドンナ、絶世の美女、梅田さんだ。


彼女は芸能活動をしていることもあり、この学校で知らない人はいない。

スラットしたモデル体型に、抜群のルックス、そして、誰にも愛される愛嬌の良さ。こんな完璧な人がいるなんて、いまだに信じられない。


彼女が先輩、後輩問わず、何人もの男子生徒に告白されてきた、と言う話はいつ、どこでも聞く。


もちろん、おれも彼女に対して好意はあるが、演劇部の普通の男子高校生からすると、高嶺の花ってわけだ。こんなおれと梅田さんが付き合うとか、そもそも話をするだなんて、夢のまた夢と思っていた…。


それは、卒業式の3ヶ月ほど前からのことだった。突然、彼女から話しかけられることが増えた。なにがきっかけなのかはわからない。


「松沢くん!ここの問題わからないんだけど、教えてくれる?」

「松沢くん!今度の演劇部の発表会、私見にいくね!」

「松沢くん!今日学校が終わったあと映画観に行かない?」


彼女から話しかけられただけでなく、映画館でデートしたり、おれの最後の演劇部の発表会も見に来てくれた。しかも最前席で。


そして、卒業式当日の朝、彼女からこのようなメッセージが届いた。


梅田:卒業式終わったら、伝えたいことがあるから、屋上に来てくれない?


おれは布団から飛び起きた。起きた時から正直、卒業式なんてどうでもよくなっていた。高校生活最後にして、やっとおれにも春が来る。しかも相手は学校のマドンナ。今日死んでも後悔はない、そこまで思ってしまった。


ただ、正直、彼女からこのような連絡をさせてしまったのは、申し訳ないと思ったが、その時は自分から想いを伝えようと決めた。




そして、卒業式が終わり、約束より前に屋上に向かって、梅田さんを待つことにした。心臓が飛び出そうなくらいドキドキしているのと裏腹に、屋上から見える夕日は最高の眺めだ。


太陽が眠りに入るように、ゆっくりと落ちていくのがわかる。おれの恋も、はかなく終わってしまうのだろうか、そんな思いもよぎったが、ここまできたら振り向くわけにはいかない。



約束の時間から10分過ぎた頃だった。


ギィ〜、バタン!


「松沢くん!待たせてごめんね、いろんな人に声かけられて、抜け出すのに時間かかっちゃった…。待った、よね。本当にごめんね…。」


「全然!梅田さんが人気者なのは知ってるし、おれもちょうど今きたところ」


「それで、松沢くん、その、私、伝えたいことがあって…」


「うん、おれも梅田さんに伝えたいことが…」


「私と一緒に映画に出てください!!」


「ん?え、あ、ん?映画?どういうこと?」

このときのおれは動揺を隠せなかった。完全に告白される、両思いだと思い込んでいたからだ。


「実は、来年の冬頃に、主演映画が決まったの!それで、監督から『演技ができる普通の高校生を連れてきてほしい』って言われて」


「ちょ、ちょっとまってね」

梅田さんに顔も見せられないくらい顔が真っ赤になっているのがわかる。

顔を押さえてうずくまってしまった。


(うそだろ、めちゃくちゃ恥ずかしいー!!一緒に映画に行ったり、演劇見にきてくれたりしたのは、おれを出演者として見極めるためだったのかー!)


これまでの出来事が全て自分の思い込みだったと思うと、自意識過剰すぎて恥ずかしさを押さえれらなかった。


「松沢くん、だめ、かな?」

梅田さんがおれの目の前に来て、上目遣いでそう言ってきた。


こんなの断れるわけないだろ…。


「うん、わかった、映画、受けるよ」


「本当に!ありがとう!嬉しい!」


梅田さんの笑顔が夕日に照らされていることもあり、とても輝いて見えた。おれはこの笑顔のために生きてきたのかもしれない、そう思えた。


「そうそう、オーディションは明日だから、よろしくね!」

そう言って梅田さんは屋上をあとにした。


「……。」


高校生のおれは、この感情を表す言葉を持ち合わせていなかった。




おわり。

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