恐怖たる前日
なぜだろう。アイネスが来てから自分のお菓子やら、家族の酒やらがどんどんなくなっていく。
「アイネス。僕のクッキー知らない?」
「知らないな....それより、姉が呼んでいるぞ。すぐに来てほしいとのことだ。行ってやったらどうだ」
「リスター。僕のことよんだ?」
「呼んでないけど。何?」
「うっ...」
アイネスの方を見る。アイネスの顔は真っ青でとても汗をかいていた。しかも口の周りには食べかすが付いている。確信犯じゃねえか。
「食ったよな」
「いや。食べてなどいない」
「じゃあ、その口の周りについている食べカスは何かな?」
「え。あ、ほんとだ....」
必死に口の周りの食べかすを片付ける。
アイネスが来てから、魔法の勉強が捗ったのはいいが、このように問題も多々起こす。どうしたものだろうか。
「そういえば、君の姉がそろそろ魔法学院に行く時期だったな」
「あぁ、もうすぐ13歳になるからね」
「姉がいなくなって寂しくならないのか?」
「ならないよ。一人には慣れている」
「なんだ、ぼっちなのか?どれ、先生が構ってやろう」
「ぼっちじゃない!!一人でいるのが好きなだけだ」
「でた、ぼっちが言い訳に使う言葉1位」
なんだこいつ。
「自分は魔法学院に行くことになるのか?」
「ああ、領主や貴族の息子、娘は全員行くことになっている。最低でも三年はいなきゃな。君もあと三年で魔法学院入学か」
「そうか、あと三年で行くことになってしまうのか。そしたら、アイネスはどうするんだ?」
「そうだな、ここでメイドでもするか。君が魔法学院から帰ってきたあとも監視とかしなければならないしな」
「そう」
「そういえば、明日の授業は何時からか覚えているかい?私は忘れてしまったよ」
「8時。自分で決めたことを忘れるなよ」
「8時かぁ。10時に変更で」
「どうして?」
「多分明日酔って朝早く起きれないから」
こんな家庭教師でいいのだろうか
ーーーー翌日ーーーー
10時になってもアイネスが来なかったので寝室に起こしに行くことにした。
「アイネス。もう授業の時間だぞ」
そう言いながら寝室に入るとアイネスが裸でベットに俯いていた。
「ああ、もう10時か....」
「服ぐらい来てから寝ろよ」
「めんどくさい」
「いいから早く着替えて外に出るぞ」
アイネスを急かして外に出させる。結局授業が始まったのは11時半になった。
「ところで、今日の授業内容は一切聞いてなかったが、何をやるんだ?」
「とっておきの授業さ」
「なんだとっておっきて」
「ついに、君が自分の判断で魔法を撃てるようにする特訓をする」
「おぉ!!」
「君が魔法を撃てるために、魔法の本質を学んでいたな。しかし、学ぶだけでは撃てるようにはならない。実際に使ってみなければ、いつまで経っても打てないままだ」
「確かにな。で、実際に使うと言ってもどうするんだ?」
「ここじゃできないからな。違うところ転移する」
アイネスが転移魔法を使った。転移したのはとても綺麗な平原だった。中心には大きな湖があった。
「今回は助っ人を用意した。よし、出てきてくれー」
すると、空から二人の女の人が降ってきた。また空からかよ。
「紹介しよう。私の部下の二人だ」
「アイネス様の補佐を務めさせております。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくおねがします」
「では、早速始めよう」
アイネスが二人に指示を出す。すると、二人は杖を持って空中に浮いた
「よし、ステ。逃げろ!」
「え」
二人が自分に向かって攻撃魔法を撃ってきた。
「二人には君を殺す勢いで攻撃しろと言ってある。逃げろ!でなければ死ぬぞ!」
魔法が着弾したところを見てみると、深さ1mくらいのクレーターができていた。
これガチのやつだ。
「うおおおおおおおおおお」
必死で逃げる。どこかわからない場所を必死で逃げ回る。その逃亡劇は五時間時も及んだ。
「いい逃げっぷりだな」
アイネスが疲れ果てて寝そべっている自分に煽りかどうか怪しい発言をしてきた。
「そりゃどうも」
「これを大体二ヶ月くらい毎日続けるぞ」
「死んじゃうて」
「ま、頑張れ」
アイネスはそういうと自分を置いて部下と共にどっかへと飛んでいった。
俺はどうやって帰ればいいんだよ。
ーーーー翌日ーーーー
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ーーーー二日後ーーーー
「ぎゃああああああああああああ」
ーーーー三日後ーーーー
「ピギャあああああああああああああ」
ーーーー四日後ーーーー
「ひりゃああああああああああああああ」
ーーーー五日後ーーーー
「ぐおおおおおおおおおおおおおおお」
ーーーー六日後ーーーー
「痛えええええええええええええええええええええええええええええええええ」
ーーーー七日後ーーーー
地獄の授業が始まってから一週間が過ぎた。いまだに魔法は撃てるようにならないがなんだか逃げ足だけは前よりずっと上がった気がする。
「今日はここで終いだ。午後はゆっくり休んどけ」
「え、ああ。わかった」
「では、家で待っているぞ」
アイネスはそういうとまた部下と共に飛んでいく。初日に置いて行かれて自力で家に帰った。どうやらここは家から50kmくらい離れた山の中の平原だった。大体四時間くらいで家に帰れる。ダルいて。
アイネスが部下に話す。
「一週間お疲れ様だったな。ステの至近距離に攻撃魔法を打つのは結構難しいのか?」
「ええ、難しいし、結構疲れますよ。」
「そうか。大変だったな。明日、また今日と同じのをやる。だが....」
「だが....どうしたんです?」
「次は命中させろ」
「え....そんなことしたらステ君はタダじゃ済まないですよ。少なくとも五体満足では帰れなくなってしまいます」
「それはステが心配することではない。むしろ私たちが心配した方がいい。当日は反響魔法や防御魔法を何重にもかけておけ。あと、治癒薬も用意しておいた方がいい。絶対必要になる。君たちも見ただろう。ステを殺そうとして出撃した後に、左腕を失って帰ってきたのを。彼の魔法の威力はそれほどだった。明日はおそらく、その倍の威力のやつがくるぞ」
「はい....わかりました」
アイネスの体が震えていた。