第2話 治癒
パートナーってなんだ?
どうやら突然の意外な一言に「パートナー」という言葉が一瞬ゲシュタルト崩壊してしまったようだ。にしても、本当に目の前の彼女の言っていることが理解できない。いきなり家に侵入してきた、今のところ犯罪者としか認識できない彼女が俺をパートナーにしたいだって?一体全体何のパートナーにさせられるんだ?強盗か、銀行強盗か、もしかするとテロ組織への勧誘かもしれない。
「断る」
「そっかー、そういわれると思ってたよ。でも、私はどうしても君をパートナーにしたいんだよね~。だから、ちょっと痛いかもしれないけど......」
その言葉が聞こえた瞬間だった、目の前から彼女の姿が見えなくなったのは。背後からごめんねと軽い口調の声が聞こえると、視界がぐにゃりと歪みそのまま気を失った。気を失っている中でも体の感覚はほんの少しだけわかるモノだが、なんだか自分よりも一回り大きい大男に体を包み込まれているような感覚を覚えた。
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何時間経っただろうか。
眼を開けると全く知らないコンクリート製の天井が現れた。背中の感覚からは妙に硬いベッドの上に寝そべっていることが理解できる。手足を動かそうと試みると、ガシャという金属音が耳に入ってきた。どうやら手錠や鎖のようなもので完全に固定されているようだ。にしても、固定の度合いが強すぎて血液が止まり、手首足首にしびれがきている。
「...あっ、起きましたか?」
「......」
「すみません、拘束きつ過ぎますよね。あの子『一般人』の力加減があんまりわかってないみたいで皮膚にめり込むくらい......あれ、ここもう青痣になってるじゃないですか!早く処置しないと跡が残ってしまいます!」
「えぇ、あぁ、はい」
急に眼前に顔を出してきたお姉さんの突然のマシンガントークについていけず、思わず誘拐されている現状を忘れてしまいそうになった。しかし長年の引きこもり生活により、唐突な会話シーンについていく能力は完全に衰えてしまっている。
「それじゃあ、ちょっと失礼して......」
そういうと目の前の子は俺の腕を掴むと、手首を口に当てがった。生暖かく少しザラザラとした不思議な感覚に襲われた後、急に痣の痛みとともに痣もろとも消えてしまった。一体全体何が起こったのか理解できなかった。
「はい、これでもう大丈夫ですよ。痛みとかないですか?」
「ない......です。今何をして......」
「ただ傷口を舐めて治しただけですよ。ほら昔から傷に対してよく言うじゃないですか、「唾でもつけてろ」って。それの凄いバージョンみたいな感じですよ」
『舐めた』ってなんだ、唾を付けても治るわけがないじゃないか。しかしながら、事実痛みは完全に引いているわけだから嘘を言っているのではないことだけは確かだ。どうやら、俺は本格的にやばい団体か何かに連れてこられてしまったようだ。