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第1話 『彼女』との出会い

「お前気持ちわりぃんだよ」

「こっちに来ないで!」

「あなたは他人と違うんだから」


何を言っても、誰に文句を言っても時間の無駄。そんな希望もないことに慣れてしまったのは一体いつからだろうか。今思い返せば、小学校に入学した段階であんな言葉を掛けられた記憶がある。俺が一体何をしたんだ、他人の物を壊したか?他人を傷つけたりしたか?俺が何か悪いことをしたか?そんな自分で答えが出せないような問題を自らに問い続けてきた結果が今の自分。本当に嫌になる。

「人間というのは嫌な思い出を忘れられるようにできている」なんて言葉を聞いたことがあるが、心に深く刺さった棘はたとえどんなに小さなものでも痛みは続き、それを忘れることはできない。きっとあんな言葉を投げつけてきたやつらは、自分を正当化しもう忘れてしまっているのだろう。理不尽だ。


なんて、恨み節をいつものように自室に投げつける午前6時半。日課が終わりこの時間に今日の自分と別れを告げる。2年間の引きこもり生活を続けた俺の今が、これだ。中学を卒業し仲間がいないながらも高校受験はし地元から少し離れた第1希望に合格はした。あの高校からなら今まで俺を貶してきたやつはいない、そう思っていた。思わないと耐えられなかったから。

だが、現実はあまりにも非情で高校に行こうとも変わらなかった。むしろ悪化したともいえる。見た目だけ一丁前に大人になったふりをして、精神はまだ子供のまま。そこからは言わずもがな、俺は不登校への道を歩み始めた。


ピンポー――ン


布団に入ったところで丁度普段はならない家のインターホンが鳴った。こんな朝早く来るなんてどんな常識のないセールスだ、なんて考えながら玄関先に向かう。今はちょうど夏休み期間だ。俺は高校に行ってもないから夏休みなんてあってないようなものなのだが、家族はお盆で長期休暇を取得して海外旅行に行っている。勿論俺は誘われなかったのだが、前日の夜にパスポートと1週間分の洋服が大量にリビングに集合していたから間違いないだろう。つまり、今この家にいて応対するのは俺だけなのだ。嫌々ながらも階段を降り、玄関の扉を開ける。久々に直射日光を浴びて思わず「うっ」と狼狽するが視界がすぐに慣れ始めた。目の前に現れたのはうちの制服を着た見知らぬ少女だった。


「今から学校に行かない?凪君」

「......?」


何言ってるんだ、こいつ。しかもなぜ俺の下の名前を知っているんだ?自分はこんなやつを見たこともないし、もちろん話したこともない。新手の宗教勧誘か何かか?


「行かない」


そういって俺は扉を閉めようとした。その瞬間、扉の端をつかみ蝶番が壊れそうなほどにこじ開けようとした。引きこもりの俺と言えど筋トレくらいはしているから、特段力が弱いわけではないのだが、華奢な見た目とは裏腹に馬鹿力を出してくるこいつには敵わなかった。


「ちょちょちょ、ちょーい!ちょっと待って凪君!一回話でもしない?お茶でも飲みながらさっ!」

「その茶を出すのは誰なんだ?」

「凪君」

「無理。ナチュラルに勝手に家に入ってお茶出させようとするな!」


体全身で扉を押すが彼女は力を緩めない。むしろ段々力が強くなっている気が......。


バキッ


「あっ」「あっ」


そうか、玄関の扉ってこんな脆かったんだ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだ?」


倉庫から金槌とくぎを持ってきて、壊れた玄関扉の蝶番の修理にいそしんでいる。修復しないという選択肢は、俺が家族に「いきなり女の子が家に入り込もうとして扉が壊れた」なんて突飛な現実を受け入れてくれることが絶対にないからはなから持っていない。今は8月だ、当然外からの熱気は容赦なく俺の体を蝕んでいく。引きこもりの俺には十分にダメージが蓄積されていた。

そうして30分後。修復完了。

リビングに戻るとエアコンから出る涼しい風と共に「よっ」という嫌な声がした。


「凪君ごめんねー、ちょっと力入れたらまさか扉が壊れるなんて思ってなくて~。にしても修理にどれだけ時間かかってるの?遅すぎたから冷蔵庫のアイス勝手に食べちゃったよ」


なんだこいつは。

家主が修理にいそしむ中、勝手に家へと侵入し、冷蔵庫からハーゲン〇ッツを強奪しおいしそうに食べていやがる。しかもむかつくような声出して、ソファーに寝そべりながら。


「何やってるんだ、お前。警察呼ぶぞ」

「おっと、それは勘弁してもらいたいなぁ。私もアイスまではいただく予定じゃなかったんだけどね?でも、凪君も冷凍庫にこれ見よがしにこんなお高い高級アイス入ってたら食べたくなるでしょ?」

「それが他人のものでなければな!」


そういって彼女の手元から、アイスを奪い返した。見ると全部平らげてしまった後のようだった。


「あ、ご馳走様でした」


もはやかける言葉もない。目的もわからないし、もしかしたら本当にヤバい奴かクスリをキメているような奴なのかもしれない。そう思った俺は、すぐさまポケットからスマホを取り出した。


「あぁぁ!ちゃんと君に用があって会いに来たんだから!お願いだから警察だけは!」


そういって俺の腰をつかむ彼女の腕力は成人男性のものを優に越しているように感じた。


「じゃあ用ってなんだ」

「えーっと、私のパートナーになってくれないかな?」


何言ってるんだコイツ。

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