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第十一話「どこが好き?」

 訓練場の真ん中で、オデルとフロージェに挟まれたシルディアは、このままベンチに戻ってもいいのか頭を悩ませていた。

 離れるとまた二人は決闘を再開するだろう。


(これはどうするのが正解なのかしら……?)


 シルディアが戸惑っていると、背中に衝撃が走る。

 視界の端に白い髪が見え、それがフロージェだと悟った。

 ほっとしたシルディアはぎゅうぎゅうと抱き着いてくるフロージェの頭を撫でる。

 満足そうに目を細めるフロージェは幼い子どものようだ。


「お姉様はね、優しいのよ! それはもう、世界を包み込んじゃうくらいに!」

「シルディアが優しいのは知っている。それがどうした?」

「あんた、お姉様のどこが好きなのよ!! 私からお姉様を奪って……!!」


 フロージェがオデルを睨む。

 その瞳にはうっすら涙が滲んでいた。

 女の涙は武器だとも言うが、それはオデルに効果はない。


「どこがって、決まっている」


 その言葉と同時だろうか。

 シルディアはいつの間にかオデルの腕の中に納まっていた。


「全部だ」


 そう言い切ったオデルは不敵な笑みを浮かべ、シルディアの頬へ口づけを落とす。

 恥ずかしさにシルディアは抗議の視線を送るが、オデルの気遣うような目と目が合ってしまった。

 気まずさに目を逸らしてしまう。


「可愛い。あぁ、そうだ。こういうところも好きだな。赤くなる頬が美味そうだ」


 頬を食まれてしまったシルディアは慌てて声を上げる。

 脳裏によぎったのは、初代竜王に支配され首筋を噛まれた瞬間のことだ。

 しかし覚悟していた痛みは来ず、シルディアは目を丸くする。


「お姉様は食べ物じゃないわよ! ついでに貴方のものでもないわ!」

「食べ物でもものでもないけど、俺の可愛い可愛いお嫁さんではあるね」

「お姉様の気持ちを考えたことあるの!? 私と間違えられて結婚を申し込まれたお姉様の気持ちを!」

「? 俺はシルディアだと分かっていて結婚を申し込んだんだがな? 妖精姫は何か勘違いをしているようだ」


 その言葉にフロージェが目を見開いた。

 シルディアにしか聞こえないぐらいの小声でオデルがぼそりと呟く。


「あの様子だと、妖精姫はあの日々の記憶がないようだな」


 オデルが言っているのは、幼少期にアルムヘイヤ王国で遊んだ日々のことだろう。

 シルディアのための温室に遊びに来ていたのはオデルだけではなく、フロージェもいたのだ。

 オデルに対して敵対心を向ける姿があの頃とまるで変っていなかったため、彼女も記憶を持ち合わせているものだと思っていた。


「魔法って妖精姫にも有効なの? 効かないとばかり……」

「俺もそう思っていたんだが……。まぁ、あれが無くても、俺と妖精姫は元々相性が悪かったらしい」

「ふふっ、そうみたいね」

「もう!! 二人でコソコソなに話してるのよ!?」


 気に食わないと顔に出ているフロージェが、シルディアを感情のままに取り戻そうと妖法を繰り出した。

 何かが絡みつくかのように体に巻き付く。

 引っ張られたと認識した瞬間、ぐわっと空へと放り出される。


「ひゃっ!? きゃああああ!!!??」

「シルディア! ちっ。くそっ」


 目には見えない何かが巻き付いているため、落ちることはないはずだが、怖いものは怖い。

 フロージェはシルディアをオデルに取られたくない一心なのだろう。

 天高く掲げられてしまったシルディアの耳には、フロージェとオデルの会話は聞こえない。

 しかし、フロージェがシルディアを落とすはずがないという確信から、心を落ち着かせることにした。

 大きく息を吸い込み、深呼吸を繰り返す。


「はぁ。あの子は一度ああなったら聞く耳を持たないんだから」


 フロージェの心はとても広い。

 だが、広い心を持っているからといって、全てを許しているわけではない。

 そのためこうして溜め込んだ不満が定期的に爆発してしまうのだ。


「にしても今回の癇癪は盛大ね」


 高さに慣れてきたシルディアの下で魔法と妖法が飛び交っていた。

 時たま空中に浮こうとしたオデルが、フロージェの猛攻撃を受けて悔しそうにシルディアに視線を向ける。


「さて、どうしましょう。ここからじゃ声は届かない。何か使える物と言えば、髪を束ねてるリボンぐらいなものだし……」


 思考を巡らしていれば視界の端で何かが光った。


「あら?」


 目を凝らせば、そこには短剣を構えて隙を狙う不届き者が一人いた。

 オデル達は互いの攻防に集中しているのか、気が付いていないようだ。

 じりじりと近づいていく不届き者だったが、覚悟を決めたのか駆けだしていく。


「っ、もう! なるようになれだわ!」


 体を流れる魔力を自身に巻き付いている何かにぶつける。

 バチバチと火花が散っているが、気にしない。


(妖法と魔法は相性が悪い。なら、同じぐらいの魔力をぶつければ……)


 徐々に魔力を大きくする余裕はなく、ありったけの魔力を放出する。

 するとそれは弾け飛び――


 消失した。

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