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地面の下の楽園に告ぐ。  作者: はじめアキラ
8/12

8「ヒーローは会議室を待たない」

 地震が起きた原因は不明。

 どうやらテンス遺跡の地下にあった熱エネルギーと無関係ではないらしい。地上からゴンゾー教官をはじめとした正規隊員たちが必死で機材をフル活用して調査を行っているが、エネルギー源の特定をすることは叶わなかった。


「……上にも連絡を入れたが、俺と同じ結論のようだ」


 ゴンゾーは険しい目で、無事だった訓練生たちと隊員たちを見た。


「前例にないトラブルだ。現在、プレート活動や火山活動による地震はある程度予期できるようになってきたが、今回の地震は完全にそれとは無関係のものらしい。まったく原因がわからないし、本震がこれから来る可能性もある。経験値が少ない訓練生は危険すぎる。お前達は、一度養成所に戻って待機だ」

「生き埋めになってしまった方々はどうするのですか?」

「上層部の指示待ちだが、恐らくは軍と連携して救出隊を組織することになる。A班とB班はなんとか別の出口から全員が脱出できた。残るはお前達が作業をしていた出口近くにいたC班だけだ。救出は難しくないだろう」


 彼の意見は間違っていない。だが、レオとしては承服できなかった。

 上層部の指示を待ち、軍の救出隊の到着を待っていては早くとも数時間はかかってしまうだろう。その間に、今生き埋めになってしまっているC班の人達が無事である保証が何処にあるのか。


「ちょっと、まっ……」

「発言をよろしいでしょうか、教官!」


 レオの言葉を遮るように、ルークが手を挙げた。ちらり、と彼と眼が合う。ここは自分にまかせておけと言いたいのだろう。

 確かに、冷静さを欠いている自分より、よほど適任なのは間違いない。どうやら彼も自分と同じ気持ちであるようだから尚更に。


「今回の地震の原因は一切不明。そして熱エネルギーが移動していることから考えて、なんらかの生物、あるいは遺跡システムの誤作動によるものを私は疑っております」

「……ほう?」


 ゴンゾーが目を細めてルークを見る。コワモテのゴンゾーに睨まれても、一切動じないのが彼の凄いところだ。


「というのも、ツース遺跡の壁の断片と思しきものが、テンス遺跡の出入り口近くで発見されているからです。ツース遺跡は少し前に大規模な崩落事故を起こしています。ひょっとしたら、元々はツース遺跡近くにあった熱反応が、地面の下を移動してテンス遺跡の下まで到達したのではないでしょうか?」

「確かに、ツース遺跡の壁の破片らしきものが見つかっているのは事実だ。しかしツース遺跡からここまでどれほどの距離があると?」

「承知しております。しかし、崩落事故が起きる前から、ツース遺跡は老朽化が進んでおり、特に発掘調査が進んでいないエリアでした。大規模な熱反応を図る装置なども運び入れることができず、実際六年前にはこの崩落事故の前に別の事故を起こして機材のロストと三人の死傷者を出していたはず。つまり、元々ツース遺跡の下に熱エネルギーがあったとしても、それが感知されなくてもなんら不思議ではないのではないでしょうか」


 流石は知識の鬼。そこまでのことは、レオも知らなかった。どうやら発掘調査を続けながら、ずっとツース遺跡の破片が見つかった理由を彼なりに考察・推理し続けていたということらしい。


「それに加えて、破片が埋まっていた周辺の土です、妙に柔らかくなっていたことが気になっていました。まるで、最近誰かに地中を耕されでもしたかのようです」


 結論として、とルークは真っ直ぐにゴンゾーを見た。


「この熱エネルギーの元は、何らかの生物、もしくはツース遺跡に残っていたロボットの類であると予想しております。そして、このテンス遺跡の直下に来てもまだ活動を続けているからこそ、先ほどの地震を起こした。地震の震源は、まさにこのテンス遺跡の地下八十メートルほどであったと聞いております。悪意があるのか、偶発的かは不明ですが。いずれにせよこのまま放置すると、再び動き出して地震を引き起こす恐れがあります。軍の救出隊編成を待っていると、さらに遺跡が崩落する可能性が高いかと」

「つまり?」

「今ならば、C班の方々は出口付近に埋もれている、もしくは救出を待っている可能性が高いはず。先ほどゴンゾー教官が述べたように、救出は難しくありません。しかし、次の地震が起きたらどうなるかわからないのも事実。その前に、周辺住民に避難指示を出した上で我々だけでも救出を試みるべきと提案いたします。私も訓練生ではありますが、微力ながらお手伝いをさせていただきます」

「教官、私もです!」


 すぐさまレオも敬礼した。ルークの最後の一言はつまり、“このままおめおめと自分達だけ帰るなんてまっぴらごめんだ”という意味でもあると気が付いたからだ。便乗しない手はない。


「……人が死ぬかもしれないってのに、見過ごすなんて自分も嫌です」

「……あたしも」


 やがて、ジョンソンとエマも控えめながら手を挙げる。


「無力かもしれないけど、足手まといにはならないようにやれるだけのことはやります。ですからどうか、あたし達にも救出を手伝わせてください」

「わ、私も!」

「私もです、教官!」

「教官、お願いします!


 それに感化されてか、他の訓練生たちからも次々声が上がった。

 本来、こういう現場では上官の指示は絶対である。逆らうなんてあってはならないことだ。教習で嫌というほど叩きこまれたから、誰もが知っているはずである。

 しかし。その中でも特に忠実で真面目に見えた、筆記テストナンバーワンのルークが真っ先に刃向ったことが大きかった。

 同時に、そもそも発掘調査隊に志願しようという人間は、お金目当ての場合もあるが大抵はそれだけではないのである。

 遺跡の秘密を解き明かしたい。人類の歴史の謎を解明したい。

 そして遺物を持ち帰り、多くの人を救う手助けがしたい。

 ここで、先輩隊員たちを見捨てて平気な人間は、誰一人とていなかったのである。


「……まったく、お前らは」


 やがて。やや困惑してざわついた正規隊員たちを制して、ゴンゾーがため息をついたのだった。


「ルーク・ハワード。救出と言うが、具体的にお前はどのような方法を考えている?」

「熱感知センサーを用いて、出口付近にいる隊員達の場所を特定しながら手動で掘り進めていきます。我々はずっと階段を広げて固めながら掘り進めておりましたので、階段そのものが崩落している可能性は低いと考えます。天井と壁の一部が崩れて埋もれてしまっただけかと。まず土砂の一部を撤去し、酸素の供給を確保。通信機での連絡を試みつつ、閉じ込められた隊員と連携をとって作業を進めるのがいいと思います」

「……なるほど」


 彼は端末を取り出して、その画面を自分達に見せてきた。


「残念ながら、さっきから中に埋もれているはずのC班のメンバーと一切連絡ができない状態である。妙な電波障害が発生しているらしい。回復を試みるが、そもそも既にC班メンバーが全員生きていない可能性もある。そして、先ほどお前が言ったように再び地震が起きて、今度はもっと大人数が閉じ込められる二次災害も考えられる。それでも、試みるべきと考えられるか?上の指示を待たないなら、場合によっては懲戒処分も考えられるぞ」

「その時が、私が全責任を取ります」

「はっ。ひよっこめ、お前のような訓練生に責任など取れるものか」


 ルークの言葉を、ゴンゾーは鼻で笑った。

 そして。


「そういうのは、俺の仕事だ。……俺はな、会議室でグダグダやっていて判断が遅いお偉方のことが、大嫌いだったんだよ」


 なんだ、と。少しだけ、レオは感動していた。人を成績でしか見ない鬼教官、規則人間かと思いきや。思った以上に、人間味のある男だったではないか、と。まあ、教官相手にこんな上から目線の感想もどうかと自分でも思うけれども。


「いいだろう。俺が許す。上の奴らには……まあ適当に誤魔化すか」

「それでこそ教官!」

「調子に乗るなよお前達。とにかく、人命が最優先だ。仲間を助け出すぞ!」

「イエス、サー!」


 上の意向や慣例に、あっさりと逆らおうとしているゴンゾー。しかしそのうしろで、正規隊員たちが着々と機材の準備を進めていた。熱感知センサーに、電磁波修復装置、発掘機材もろもろ。どう見ても、ゴンゾーと一緒に作業する気マンマンである。

 ゴンゾーという男に人望があるということが、これだけでも窺い知れるというものだ。

 同時に、仲間を助けたいのはレオ達だけではないということも。


「っ!」


 その時、足元がじわりと熱くなるような感覚を覚えた。レオはぎょっとして、地面へと視線を降ろす。


――な、なんだ?今の感覚は。


 何か。大きなものが胎動したような、そんな気がした。

 果たして地面の下にあるものは怪物か、地獄か、楽園か。

 こんな状況だというのに、どこかでレオは気分が高揚する己を感じていたのだった。




 ***




 通信機の電波は、どうあがいても回復させることができないようだった。熱感知センサーに引っかかっているのは、何かの巨大ロボットか何かなのだろうか。

 まるでSF映画みたいだ、なんてことを思う。まあそれを言ったら、この世界そのものがSF映画の一部のようなものではあるのだが。


「あんた、カッコイイじゃない」


 作業を開始してすぐ、シンディーがぽん、とレオの肩を叩いた。


「骨がある男は好きよ。……ルークよりも前に手を挙げようとしたでしょ」

「教官を説得したのは、ルークっすよ」

「でも、そのルークを動かしたのはあんただと思うわ。……あんた達みたいな仲間思いの後輩を持てて、私も先輩達も幸せ者ね」

「……あざっす」


 美人な先輩にそうやって褒められれば、悪い気はしない。ちょっと頬を熱くしながらも、レオはツルハシを振りおろし続けたのだった。

 センサーの反応からして、どうやらC班のメンバーは全員土砂に直接埋もれることは避けられたらしい。しかし、真っ暗闇の中で取り残されている不安、酸素がいつなくなるかわからない恐怖は計り知れないはずだ。一刻も早く救出してやりたい、と心の底から思う。

 暫く石を掘り続けていると、やがて腕が通るくらいの穴が空いた。レオはすぐさま“穴があきました!”と声を張り上げると同時に、真っ暗な穴の中に呼びかける。


「C班の先輩達!すぐに皆さんを救出します!怪我人はいますか?とにかく、誰かいたら返事をしてください!」


 なかなか返事がない。センサーの反応からすると、けして土砂の壁から離れていないところにいるはずなのに――そう疑問に思ったところで、向こうからがさごそと音がした。

 やはり、人がいる。安堵した時、穴の向こうから男性の声がした。


「C班リーダーのジェニスだ。ケニー、ラッソは無事だがユリカ、ゴズの二人が足を負傷している。……もしかして、訓練生が助けてくれようとしているのか?」


 少し驚いたように、ジェニスを名乗る声は言った。


「すまないが、近くに上官がいるなら報告してくれ。……何か巨大生物の気配があり、大きな音を立てられない、と」


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