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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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3人目は左手を差し出す ②

 話は三日前の夜に遡る。


 乗ってきたワイバーンを飛竜郵便の支部に戻らせたポーフは3日でアシュロウタに着く方法を実践してくれた。


 それはワイバーンよりも速く大人数が乗れる乗り物を用意して国境を強行突破するというとてもシンプルかつ大胆なものだった。


 その夜


 野営をするベリス一行はポーフが用意した「乗り物」を無の境地で眺めていた。


「う~ん!おいしーい!!」


 目の前で繰り広げられるは血塗られた惨劇。


 ベリス達が狩り集めてきた魔物や野獣を片っ端から腹に納めていくそれは5mはあろうかという巨大なドラゴンだった。


 雷のような黄色を基調とした鱗の所々に紫が差しているドラゴンが哀れな犠牲者達を貪り食っていても誰も逃げたり怯えたりはしない。


「本当にティーカなんだねぇ…」


 このドラゴンの正体がティーカだと知っているからだ。


「人間になれるドラゴンなんて聞いたことない…。なんなのこいつ」

「ふっふっふ~!聞いて驚け!私は叡竜(えいりゅう)だぞーー!!」

「うるさーーい!!上から目線で喋るなー!」

「ごめん…」


 カイラに怒られてしゅんと項垂れるティーカ。


 見た目は恐ろしいドラゴンだがこうしているとティーカの面影を感じられる。


「叡竜って何?」

「詳しいことは分かりませんがティーカみたいに言葉を話せて他の生き物の姿を取れるドラゴンのことらしいです」

「ふーん…。ん?それってまずくない?」

「おしゃべりできるお利口さんなドラゴンちゃんなんて皆欲しがるよねぇ」

「そういうことなのでティーカのことは内密にお願いします」

「内緒だよー」


 ティーカが立てた人差し指を口元に当てる。


 見た目は恐ろしいがこういう仕草は可愛らしい。


「うん!」

「いいよ」

「はい!情報料でボロ儲けさせてもらいまっす!!」

「ティーカ。これ追加の肉」

「わーい!」

「わぁーー!すんません冗談です許してくだせぇーーっ!!」


 シャムルに肩を叩かれ必死に平謝りするカイラ。


 その様子を見つめるシャムルの視線は冷ややかなものだった。


「っていうかなんであんたいるの?」

「だってこっちの方が面白そうじゃん?ドラゴンに乗ってタダでパパーっと帝国に行けちゃう機会なんてこの先絶対ないしこんなの乗り得でしょ?」

「あんたも払うんだからね」

「HAHAHA!!無茶を仰る!ドラゴンの食費なんて払えるわけないじゃないっすっかぁ」

「お店で買ってたら破産してたね…」


 ティーカの豪快な食べっぷりを見ながらしみじみと呟くベリス。


 ポーフが言っていたかかる費用とはティーカの食費だったのだ。


 さっきからさも当たり前のように輪に加わっているが今のベリス達にとってカイラはまさに予想外の珍客だった。


 ティーカに乗って出発する直前に半ば強引に乗り込んでついてきたカイラは何も考えていないようなヘラヘラした笑みを浮かべながらシャムルの苛立ちをのらりくらりとかわす。


「じゃあ片道でいいよね?不法入国で捕まると思うけど」

「ベリスちゃーん。シャムルがいじめるよぉ」

「あははっ…」


 じゃれついてくるカイラをやんわりと引き剥がしながらカイラに対する考えを述べる。


「わたしはいいと思うな。魔物を狩るのにも協力してくれたし」

「ベリスちゃん…!」

「置いてった方が得じゃない?」

「損得で命を語るなー!」

「それ知ってる!れーけつかんってやつだよね?」

「ティーカ。それ男の人だよ」


 俄に騒がしくなり始めた場が静まるのを待ってから口を開く。


「ヒーリアを助けるためにも人手は多い方が助かるしね」

「役に立つと思う?」

「もっちろん!ほら見てよ!この磨き上げられた竜骸晶のように澄みき…」

「うーん…多分?」

「やめて!それ一番心に来るやつ!」

「じゃあ私もズババーン!って助けてあげるね!」

「ありがとう。気持ちだけでいいからね…」


 今のティーカが暴れたら洒落にならない。


 これから帝国に乗り込んで仲間を救出するという緊迫した場面に似合わない和気あいあいとした空気の中で時間は穏やかに流れていく。


「ねぇベリス」

「何?」

「作戦とかってあるの?できることがあったら何でも言って」

「ん?今なんでもって言った?じゃあ金貸してくんちょ。この間のレースでペガサスちゃんと一緒に飛んでっちゃってさぁ…」

「デザートいる?」

「欲しいっ!!」

「はいすんませんでしたー!」


 わざとらしく両手で口を塞いでそろそろと後退するカイラ。


 そのひょうきんな姿に苦笑しつつシャムルの目をまっすぐ見据えて大きく頷いてみせる。


「その時が来たらお願いね」

「了解」


 シャムルは小さく頷いて了承する。


 皆を不安にさせないよう余裕を装ったが実際は策など何もない。


 縁に惹かれた旅人達の夜は賑やかに、そして静かに過ぎていった。



 夜の帳が降りた平野は一寸先を見渡すことができないほどに暗く、焚き火だけが唯一の光源として揺らめいている。


「…」


 ベリスは焚き火の番をしながら一人思案を巡らせていた。


「ちょっとは寝た方がいいんじゃない?」


 希薄な気配に振り返るとカイラが欠伸をしながらこちらに近づいてきていた。


 カイラは何も言わず隣に腰掛ける。


「徹夜はよくないよぉ」

「そうはいきません。魔物が来るかもしれませんし」

「ないない!ドラゴンの夜食になりたい物好きいるわけないって」


 そう言って少し遠くに視線を向ける。


 カイラの視線の先ではティーカがドラゴンの姿で眠っておりポーフもその傍らで気持ちよさそうに眠っていた。


 野営において最も警戒すべきは夜になって動きが活発になる魔物や野獣だが流石にドラゴンが怖いのか今のところ一度も遭遇していない。


「さっぶ…!北は冷えるねぇ」


 体を震わせながら焚き火に当たるカイラに被っていた毛布を譲る。


 毛布を被せられたカイラはきょとんとした表情でこちらを見つめた後、らしくない静かな声で問いかけてきた。


「いいの?」

「はい。ずっと火に当たってましたから」

「…ありがと」


 小さく礼を言って毛布を纏うカイラ。


 そんな彼女を横目に火の番を続けているとカイラが徐に口を開いた。


「作戦なんてないんでしょ?」

「…分かります?」

「すっごい顔に出てるもん。もうばっちり分かっちゃうよ」


 やはりこの人は一筋縄にはいかないらしい。


 ややあって腹を括ったベリスはカイラに向き直り…


「少しお話しませんか?」


 彼女に相談することにした。



「なるほどなるほど…」


 話を聞いたカイラは腕組みしながらうんうんと頷く。


 ヨシュテアの正体を話してもなおその表情に驚愕の色は浮かばない。


「皇女サマに勝てるの?」

「無理だと思います…。皇女殿下は本気を出していませんでした」


 実際に戦ったからこそ分かる。


 ヨシュテアはまるで本気を出していなかった。


 戦うというよりもこちらの反応を見て楽しんでいる節すらあったほどだ。


 そんな状態のヨシュテア相手に本気を出してあの様だったのだ。


 向こうが本気を出せばひとたまりもない。


「んー、じゃあさぁ




いっそ全部ぶん投げて逃げちゃわない?」

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