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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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帝国の勇胤 ⑥

 背負うものがなければその背を追いかける者の一人となっていただろう。


 だが、それはできない。


「大変光栄ですが、私には成すべきことがあります」

「イルタのことなら心配いらないわ。私が探してあげる」

「…っ!?どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「それだけの能力を持ってるからよ」

「能力?」


 振り返ったヨシュは微笑みながら小さく頷く。


「優しくて人当たりがいいのはもちろんだけど人にものを教えられるだけの知識と教養がある。療術が使えるのも大きいわ。村を発展させるのに医者は必要だもの」

「はぁ…」

「あなたにはそれだけの価値があるわ。もっと胸を張りなさい」


 青い双眸がヒーリアを真っ直ぐに見据える。爛々と煌く瞳を見ているだけで本当にそんな力があるような気分になってくる。


「もちろん給金は払うし家も用意するわ。どうかしら?」


 至れり尽くせりとはまさにこのことだろう。


 共に過ごした時間は短いが自分はこの人に惹かれている。


 このままヨシュの臣下になってこの村で教師兼療術士として暮らすのも悪くない。何よりヨシュが語る統治が作る未来を見てみたい。


 ここまで材料が揃っているのだ。否定する理由などどこにも…。


「ヤクラートスを出た私はしばらくの間1人で旅をしていました。ですがその途上で悪い人達に攫われそうになりました」

「大変だったわね」

「そんな私を助けてくれたのがベリスさんだったんです…」


 ヨシュは口を挟まず続けろと目で訴えてきた。


「ベリスさんは見ず知らずの私を助けてくれたばかりかヤクラエ教徒というだけで疎まれることもあった私を信じてくれたんです」

「…」

「ヨシュ様のお誘いはとても魅力的です。先にあなたに会っていたらきっとその手を取っていたことでしょう」


 だが、現実はそうならなかった。


「でも、私は何者でもない私を無条件で信じてくれたあの人に付いて行きたいんです。なのでそのお話は丁重にお断りさせていただきます。申し訳ありません」



 頭を下げるヒーリアにヨシュは怒った様子もなく何かを考えるかのように口元に手を当てた。


「それなら無理強いはできないわね」

「ありがとうございます!!」

「ふふっ、また振られちゃったわ」

「また?」

「皇女を振るなんていい度胸ね」

「ふぇっ!?い、いえっ!決してそのような…!!」

「冗談よ」


 そう言ってにっかりと笑うその笑顔に後ろ髪を引かれる気持ちもある。


 未練を断ち切ろうと言い聞かせているとヨシュがとんでもないことを言い出した。


「皇女と王女を手玉に取るなんて相当な悪女ね」

「だからそのようなつもりは…!王女?」

「あら?知らないの?彼女はベルナリス・グレアリオ。今は亡きグレスカンド王国の王女よ」

「えっ…?えええええええええええええっっっっ!!????お、お、王女ぉっ!?ベリスさんが!?」


 ベリスが高貴な出自かもしれないという気づきはあった。彼女が時折見せる気品に溢れた振る舞いや教養はとても平民のそれとは思えなかったからだ。


「と言っても魔王に滅ぼされ魔物の巣窟になった国のだけれどね」

「そんな…!」


 さらりと告げられたベリスの過去。


 それはヒーリアが思う以上に重く陰惨なものだった。


「もしかしたら祖国を取り戻すために冒険者をやっているのかもしれないわね」


 祖国を取り戻そうとしているのかもしれない。


 その一言にベリスの境遇を憐れんでいたヒーリアの中で別の算段が動き出す。


「…ベリスさんが祖国を取り戻したらどうなるんでしょうか?」

「他に子供がいなければ正統な王位継承者として女王になれるはずよ」

「じょ、女王!?」

「まぁ、その意志があればの話だけど」

「ベリスさんが女王…!」


 その一言がヒーリアの心に新たなる火を灯した。


「いい…!いいっ!!」

「ヒーリア?」

「ベリスさんが女王になればその仲間の私とシャムルさんは家臣?家臣になれたらヤクラエ教を国教にして智慧派の学習院なんかも建てられちゃったりする…?そこにイルタ様をお招きできればヤクラートスにも負けない新しい聖都を作れるかも!ううん待ってヒーリア。それじゃまだ足りないわ」

「おーい」

「仲間なら家臣だけどベリスさんとその…もっと関係を深められたりなんてしちゃったら…王妃になれるかも!うん!いける!完璧だよ!ベリスさんのこと好きだし何も問題ないよね!好きな人と結ばれて王妃になれるなんて夢みたい!」

「夢よ」

「王妃になれたら今みたいな…ううん!もっと贅沢な暮らしができちゃうかも!政治にも関われるから理想を叶えられるし…よし!!」


 一瞬にして壮大な人生計画を構築したヒーリアは改めてヨシュの手を取る。


「ヨシュ様!私頑張りますね!!」

「あなたみたいな欲張りで傲慢な人大好きよ」

「そうと決まれば早くベリスさんと合流しないと…!」

「すぐには無理よ。あそこからだと半月近くかかるはずだもの」

「半月!?」


 そんな距離を一瞬で移動してきたというのか。


 改めてヨシュの力に驚かされるヒーリアだった。


「方針が決まったなら焦ることはないわ。迎えが来るまでゆっくりしていきなさい」

「いいんですか?」

「招いたのは私だもの。相応にもてなさなくちゃ家名に傷がつくわ」

「ありがとうございます!今後もよろしくお願いします!」

「本当逞しいわねあなた…」


 話も終わったところでそろそろ帰ろうかとヨシュが提案した…その時だった。


「皇女殿下!!」

「ひゃあっ!?」


 近くの茂みから腰に剣を差した大柄な男が現れた。


「ご歓談中失礼致します!」

「何かあったの?」


 男はヨシュの傍まで近づくと流れるような動きで地面に跪き…


「観測隊よりドラゴンが帝国領に侵入したとの報せが入りました!」

「ド、ドラゴン!?」


 帝国に近づく災厄を告げた。


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