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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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帝国の勇胤 ⑤

 ヨシュの案内で訪れたのは村外れにある小高い丘。


 ヨシュはそこに突き出た平たい岩に腰掛けヒーリアに隣に座るよう促した。


「あなたはどうして子供達に勉強を教えているの?」

「えっと、遠い未来の世に神の信仰を…」

「あなたの考えが聞きたいわ。思うところがあって智慧派にいるんでしょう?」


 思わぬ返しに目を丸くする。そんなことを聞かれたのは初めてだからだ。


 自分の考え、自分だけの理由…。


「私には両親がいません」

「まぁ」

「物心つく頃にはヤクラートスにいて智慧派の一員として勉学に励んでいました」


 両親の話はベリス達にもしたことがない。


「その中で学んだのは生きていくための知識と教養、そしてそれを学べた幸福でした」

「幸福?」

「今の私があるのは私が恵まれていたからです。でも、誰もがそうではありません」


 ヨシュは納得したような声を漏らす。


「どこの国にも字が読めないというだけでまともな仕事に就けない人がたくさんいます。私はそんな人達を一人でも減らすお手伝いがしたいんです。それが私を育ててくれた皆への恩返しだと思っています」

「とても素晴らしい考えだわ」

「ありがとうございます!」

「私の目的と似ているかもしれないわね」

「目的…?」

「この村を作ろうって思ったのはね…次代の統治のあり方を模索するためよ」

「…はい?」


 あまりの規模の大きさに固まるヒーリアのことなどお構いなしに話を続ける。


「大昔のアメレア大陸は天のヤクラエ、地のバセツと言われたように信仰が民を導いていたわ。バセツはもう聞かなくなったけどね」

「そんな時代もあったそうですね」


 今となっては信じられないが遥か昔のアメレア大陸を支配していたのは天と風を信仰するヤクラエ教と地と豊穣を信仰するバセツ教という二大宗教だった。


「時代の変遷の中で信仰は求心力を失い今度は広大な領地と莫大な資産を持つ領主が各地を治めるようになったわ」

「それが今のお貴族様ですね」

「えぇ。そしてより強い力を持った貴族が王や皇帝を名乗って領地を束ね国を作った。これが今の時代よ」

「次はどのような時代が来ると考えているんですか?」

「皆には内緒よ」


 ヨシュは声を潜めてヒーリアの耳元に顔を近づけ囁くようにそっと耳打ちをした。


()()()()()()()()()()よ」

「っっっ!!???」


 皇女が打ち明けてくれた秘密の話はあまりにも荒唐無稽だった。


「そ、そんなの無理ですよ!王様なしでどうやって国を治めるんですか!?」

「国民が選んだ代表者が同じように選ばれた側近の力を借りて運営していくの。みんなが選んだ人だもの。文句はないはずよ」

「選ぶってどうやってですか?」

「選挙で選ぶの」

「せんきょ?」

「遥か昔に栄えた国で行われていたという制度よ。簡単に言うと国民が代表になって欲しい人を指名して一番多く指名された人が代表になるの」

「それでも厳しくないですか?国民が代表を選ぶってことは国民全員が政治について理解…あっ」

「気付いたようね」


 あることに気付いて言葉を詰まらせたヒーリアにヨシュはにやりと微笑む。


「そのために教育を…?」

「その通り!国民全員にある程度の知識が備わっていれば政治や代表者についても考えられるでしょう?その仮説を実証するためにこの村を用意したの」


 彼女の言葉はあまりにもめちゃくちゃだった。


 強い力を持った誰かが世を治めなければ人が乱れ弱者が虐げられるだけの世界になってしまう。


 それを知っているはずの皇女自身が王を否定しているのだ。


 分からないことだらけだがこれだけははっきりと理解できた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「それってヨシュ様が生きてるうちに叶うことなんですか?」

「無理ね」

「ですよねぇ!?」


 今度は夢の成就すらも否定した。


「孫の孫の…遠い子孫がようやく叶えてくれるかもってところかしら?」

「き、気の長い話ですね…」

「でもそれってすっごく楽しくない?」

「どうしてですか?夢を叶えられないんですよ?」


 ヨシュは徐ろに立ち上がると数歩歩いて大きく伸びをした。


「私が忘れられても私の夢はずっと生き続けるのよ?そう思えば今叶わなくたって頑張れるわ」

「…」


 突然斬りかかってベリス達を殺そうとしたかと思えば自分を連れ去り意味の分からない無駄に壮大な夢の話をぶつけてくる。


 何から何までめちゃくちゃで破天荒。


 優しくて誠実なベリスとは全く違う強欲でわがままで残酷なお姫様。


 本来なら恨みつらみをぶつけるべきなのだろうが不思議とそんな気持ちが湧いてこない。


 ヒーリアの中にあるのはもっとその話が聞きたい、その先の世界が見たいという純粋な好奇心だけだった。


「ねぇ、ヒーリア」


 ヨシュは肩越しに振り返りその背をヒーリアに見せつける。


「私の同志にならない?あなたなら大歓迎よ」


 まるで追いかけてこいと言っているかのように。

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