帝国の勇胤 ③
鋭利な牙が生えた強靭な顎とナイフの如き爪を持った細く短い四肢、細長い尻尾をぴんと立て二対四枚の翼を高速で羽ばたかせながら飛んでいるそれにベリスは見覚えがあった。
「ワイバーン!?」
咄嗟に王家の剣を呼び出しシャムルと共に有事に備える。
-ワイバーン-
討伐ランクはフルール。
それは人間では到底及ばないほど圧倒的な力を持つ上位存在、ドラゴンの一種だが最弱の竜と揶揄されるほど弱い。
ドラゴン特有の武器である自然の力を纏った強力な攻撃、ブレスを使えず力もドラゴンの中では最弱。
地を這う速度はとても遅く地上ならフルール級でなくても討伐できるだろう。
だが、特筆すべきは多彩な飛行技術とその飛行速度、そして飛びながら繰り出される噛みつきだ。
その最高速度は視認できないほど早く急停止や急旋回、空中での停滞等多彩な飛行技術を有している。
その牙は下手な鎧を食い破り犠牲者の肉を容易く千切り取る。
そんな強敵の襲来に警戒する二人だったがクラフは警戒するどころかワイバーンに向けて手を振った。
「おーい!こっちや!」
「危ないよ!」
咄嗟に隠そうとクラフの肩を掴んだが手遅れだったらしい。
ワイバーンは急降下してこちらに向かってきた。
シャムルとクラフを背に隠すように立ってワイバーンを警戒していたベリスはあることに気付く。
「人…?」
ワイバーンの背には鞍が備え付けられそこに二人の人間が乗っていたのだ。
ワイバーンはベリスのすぐ前で着陸し背に乗っていた二人の人間が降りてきた。
「…」
ワイバーンの動向を注視するも襲ってくるような素振りはなくとても人馴れしていることが窺える。
ワイバーンを降りた二人は両耳を覆うような形の帽子にゴーグルをかけ、軍服のような装いに身を包んでいた。
一人は草原のような緑の髪を首元辺りで切り揃えた人間。服の上から見えるシルエットからするに恐らく女性だろう。
もう一人はその女性の胸ほどの身長しかなく子供と言った方がいいほど小さい。
毛先に紫が混ざった金髪を肩ほどまで伸ばしておりこちらもシルエットから察するに女性かもしれない。
緑髪の女性は軽く一礼するとゴーグルを外す。
その下にはつい数時間前まで頭上に広がっていた大空のような清廉な青い瞳が隠れていた。
「鉱話ありがとうございます!飛竜郵便です」
「そらびんだぞー!」
「飛竜郵便?」
「ワイバーンで空飛んで手紙や荷物を運ぶ仕事や」
「空を飛ぶ!?そんなお仕事あるの!?」
「お久しぶりですクラフさん!本日はどのようなご用件でしょうか?」
「この子らにあんたのこと紹介しよう思てな」
クラフが手でベリス達を紹介するとポーフと呼ばれた緑髪の女性が帽子を取ってベリス達に一礼する。
「初めまして。ボクは配達員のポーネシルフと申します」
「ベルナリスです!」
「シャムル」
ワイバーンの襲来に備えていたがどうやら杞憂だったらしい。
王家の剣を戻してポーネシルフと握手を交わすべく近づいていく。
もうすぐ手が届くというその時、王家の剣が共鳴を始めた。
「っ!?」
「えっ?何?」
「どしたのポーフ?」
それはポーネシルフにも聞こえたらしくしきりに辺りを見渡していた。
この子も勇胤…?
世界は自分が思う以上に狭いらしい。
一日に二人の妹に会えた奇跡に驚いているとこちらに視線が向けられていることに気付く。
視線を追うとポーネシルフの横にいた小さな少女がじっとこちらを見ていた。
既に帽子とゴーグルを脱いでおり紫の瞳がベリスに向けられている。
「何?」
「さっきの剣もっかい見せて!」
「剣?」
「見せて見せてーー!!」
「わぁっ!?」
少女はベリスに飛びつき剣を見せろと駄々をこねる。
見かねたポーネシルフが慌てて少女を引き剥がした。
「ティーカ!お客さんに何するの!」
「やだー!離してよー!!」
ティーカと呼ばれた少女はポーネシルフに取り押さえられ腕の中でじたばたと暴れていた。
「すみません。ティーカが失礼なことを…」
「いいよ。それよりその子は?」
「この子はテイルマニーカ。ボクの…なんだろ?」
「家族とかししょーとかあるでしょ!?」
「じゃあ居候」
「ひどくない?」
結局どういう関係かは分からないが軽口を叩き合えるほど仲がいいのは確からしい。
自己紹介が済んだところで二人にヨシュテアの正体等を伏せて事の経緯を説明した。
「なるほど…。事情は分かりました」
事のあらましを聞いたポーネシルフは静かに頷いた。
「人の輸送には申請が必要なので今から掛け合ってみます」
「よろしくね。アシュロウタまでどれくらいかかるの?」
「許可が降りたとしてワイバーンの手配や入国審査のことを考えると10日はかかるかと」
「だってさ。それくらいなら十分じゃない?」
確かに十分過ぎるほどの時間短縮だ。
だが、それはあくまで平時の話。
仲間の命がかかっているかもしれない非常時にそれはあまりにも遅い。
かと言ってそれ以上時間を短縮する術は思いつかずただ思案に耽るしかできないでいた。
「おーい!無視すんなー!」
「わぁっ!?ご、ごめん!」
「ちょっ!ティーカ!」
いつまでも返事をしないベリスに痺れを切らしたのかティーカがベリスの体をぐらぐらと揺らす。
小さい体に反してとても力持ちのようだ。
「…」
そんなベリスを静かに観察していたポーネシルフは思案に耽るように口元に手を当てて黙り込むとクラフの方を向いた。
「クラフさん。お二人を連れていっても大丈夫でしょうか?」
「ええで。ベリスはん、シャムルはん。ほんまにありがとうな」
「ごめんね。途中で投げ出しちゃって…」
「しゃあない言うたやろ?うちの依頼を蹴ったんや。ヒーリアはんを連れ戻さな許さへんで!」
「うん!」
「埋め合わせは必ずする」
「気にせんでええって。その代わりアガーフォ商会を贔屓にしたってや!」
「うん!ありがとうクラフ!」
二人はクラフと別れの握手を交わしてしばしの別れを告げる。
「行こう。ポーネシルフさん」
「ポーフでいいですよ」
「私もティーカでいーよ!」
「じゃあわたしもベリスで!」
ポーフはワイバーンにその場で待機するよう指示してベリス達を街道の外れへと誘った。
たどり着いたのは街道を逸れた場所にある林。
ポーフは周囲を見渡して誰もいないことを確認すると真剣な表情でベリスに問いかける。
「ヒーリアさん、でしたっけ?どうしてもその人を助けたいんですか?」
「うん。今度はわたし達が助ける番だから」
「こうなったのもあたしのせいだからどうにかして助けたい」
「…分かりました。かかる費用を全て負担しこれから見るものを誰にも言わない。これらを約束できますか?」
「うん?…うん」
何を言っているのか分からないがその程度ならと承諾する。
二人の思いが嘘偽りのないものだと確信したのかポーフは満足げな笑みを浮かべながらある提案をする。
「本当はいけないことなんですが人の命がかかった緊急事態です。ここからは飛竜郵便の配達員ではなくボクの個人的なおせっかいで動きます。何が起きるか分かりませんがその覚悟はありますか?」
「それでヒーリアが取り戻せるなら…」
「分かりました。では…」
そしてポーフは指を三本立て、
「3日でアシュロウタまでお届けします」
とんでもないことを言い出した。
よろしければ高評価とブックマークをお願いします
感想もお待ちしています




