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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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苦難の道中 ⑥

 「この馬車にヨシュテアいっぞーって偽情報流して賞金稼ぎのクズ共を王女サマにぶつける!そいでもって王女サマの力を試す!」


そんな私の完璧な計画は…


「いやいやいや!本物来るとかなしでしょ!?」


 降って湧いた本物に叩き潰された。相乗り客が本物なんてそんなことある!?


「…まっ、いっか。ゴミも片付いてちょっとはいい世の中になったってことで」


 予想外すぎてびっくりしたけど1ゴードも損してないし王女サマにバレてないなら問題ない。


「そろそろ帰ろ…。王女サマ心配してるだろうなぁ」


 隠れてたことにして王女サマ達と合流しようと思い立った…その時だった。


「あら?面白そうな話をしているわね」

「っ!?」


 背後からの声に振り返るも誰もいない。けど、


「ぐぅ…っ!がはっ…!!」


 いつの間にか前に回り込んでいたそいつが、ヨシュテアが私の首を掴んで締め上げた。


 骨が折れるんじゃないかってくらいの痛みと共に空気が遮断されて意識が朦朧とする中、ヨシュテアは楽しそうに口角をつり上げて笑った。


「その話、詳しく聞かせて頂戴」






  シャムルに後ろ暗い背景があることにはなんとなく気付いていた。


 時折見せる憂いを帯びた表情やその瞳の奥に燻る仄暗い情念。そんなものを垣間見せる少女に何もないわけがない。


 そんな彼女が抱えていた苦悩。それは国家をも巻き込んだ壮大なものだった。



「シャムルが叛逆者…?」

「プリド城って知ってる?」

「帝国のお城ですよね?少し前に城主が謀反を起こしたと聞きました」


 プリド城はオランジエール帝国の西方を守護する辺境伯、オラルべ辺境伯の城だった。


 しかし去年の冬頃に謀反を起こして帝国と対立。


 数ヶ月にも及ぶ攻防の末に落城し城主一族は処刑されたと大分前に読んだ新聞に書いてあった。


 遠い異国の話でしかなかった事件が目の前の危機に繋がるなど当時の自分は夢にも思わなかっただろう。


「彼女はその残党よ」

「謀反を起こした主君が死んだ以上彼女はもう無関係のはずです」

「謀反に加担した以上その咎は受けてもらうわ。でも、その前に一ついいかしら?」


 ヨシュテアの視線がシャムルを捉える。


「オラルベ辺境伯令嬢がまだ見つかっていないの。何か知らないかしら?」

「知ってどうするんですか…?」


 ベリスの質問にヨシュテアは口角を吊り上げ見る者の背筋を凍らせるほどの残忍な笑みを浮かべてみせた。


「あら?言わせるつもり?」


 その言葉を受けたシャムルの表情を見たベリスは咄嗟にその顔を隠す。


 貴族や王族は言葉でなく表情や仕草から相手の真意を推し測る。


 何一つ事情が分からないベリスですらまずいと思ったのだ。事情を知り尽くしているヨシュテアなら一目瞭然だろう。


「さぁ、そこを退きなさい」

「慎んでお断り致します…。と言ったら?」


 その言葉にヨシュテアの口元が緩む。


 それも束の間。


 一切の温度を感じさせない冷酷な声で宣言する。


「貴女も叛逆者として処断するわ。家族と親族も連座でね」

「ここはカヌレーニュ王国です。皇族であろうと帝国の法を一方的に持ち込むのは如何なものかと…」

「王国とは犯罪者の引き渡し条約を結んでいるわ」

「それはあくまで王国の人間が領内で帝国の犯罪者を捕まえた場合です。王国内での狼藉は国際問題に発展しますよ?」

「ご名答♪ただの冒険者じゃないみたいね」


 王女教育で培った知識と経験を活かしてヨシュテアを理で追い込んでいく。


 皇族である以上敵国だった事もある王国内で横暴な振舞いはできないはずだ。


 だが、ベリスの主張を認めてもなおヨシュテアの余裕は崩れない。


 それどころかますます楽しそうな笑っていた。


「貴女の言う通りよ。いくら私でも他国で犯罪者を処罰できない」

「では…」

「でもね…」


 言い切らないうちにヨシュテアの姿が消え、目にも止まらぬ速さで斬りかかってきた。


「っ!!」


 ナイフを抜き迫る剣を受ける。


 その手ごたえはあまりにも軽くそのまま当たっていたとしても大した怪我にならないほどだった。


 何故そんな攻撃を…?


 その疑問はヨシュテアの笑みによって氷解する。


「まさか…!」

「抜いたわね?」


 底意地の悪い笑みを浮かべながらベリスから距離を取る。


 ヨシュテアの目論見に気付いたベリスはシャムルを後ろに置いてナイフを構えた。


「王国に逃亡した犯罪者が帝国国民に対し武力を行使した場合これに対して武力による制圧を認める。条約の抜け穴よ」

「最初からそのつもりだったんですね」


 これまでのやり取りは言うなれば茶番。初めからヨシュテアの掌の上で踊っていたに過ぎなかったのだ。


 相手は数多の賞金稼ぎを虫けらのように蹴散らした猛者。


 逃げたくても後ろでへたり込むシャムルを置いてはいけない。


 勝てなければ逃げろという父の教えが通用しない未曾有の危機を引き起こした元凶は嗤いながら剣を構えた。


「さぁ。楽しませて頂戴!!」



 オランジエールの皇女で法外な賞金首でもある何もかもが規格外で破天荒な妹との戦端が開かれて早数分。


「はぁっ!はぁっ…!」

()が足りないわね」


 形勢は圧倒的不利に傾いていた。


 強すぎる…!!


 既に数え切れないほど剣を打ち合わせたがどれ一つとして有効打にはならず、これまで旅を共にしてきたナイフは最初の三合で折れた。


 切り札である王家の剣を使うもその力量差は全く埋まらず肩で息をしながらヨシュテアの攻撃を受けるので精一杯。


 対するヨシュテアは息一つ切らさず余裕の笑みすら浮かべている。


「私が直々に相手をしてあげているのよ?もっと楽しませてくれなくちゃ困るわ」

「勝手なことを…!!」


 防戦一方では不利は変わらないと今度はこちらから打って出る。


 疾風怒濤の連撃は息をする暇を与えないほど素早く正確にヨシュテアを斬りつける。


 一太刀でも当たれば深手を負い最悪命すら落としかねない殺意の刃に晒されてもなおヨシュテアの余裕は崩れない。


 それどころか糸ほどのか細い隙を見つけては反撃に打って出てくるようになった。


 重い…!!


 細くしなやかな腕から繰り出される斬撃は以前戦ったオークのそれと同じ・・・否。それ以上に速く重い。


 無軌道で破天荒な性格とは裏腹に姿勢も太刀筋も恐ろしく洗練されている。


 それは腕の立つ師のもとで修行したことが窺えるものだった。


 目の前にいるのに見失いそうになるほど希薄な気配、追いつくどころか追い越してさえみせる俊足、そしてオークを凌ぐ怪力と洗練された剣技。


 どれ一つ取っても勝てる要素が見当たらない。


「そこよ!」


 反撃の刃がベリスの両腕を跳ね上げる。


 その隙を突いた蹴りを胸に受けたベリスは吹き飛ばされて地面を数回跳ねた。


「かはっ!」


 衝撃で肺から空気が押し出され焼け付くような痛みにむせ返る。


「がはっ!ごほっ!」


 負荷と疲労が一気に襲来し立っていられないほどの重力と脱力感がベリスにのしかかる。


 立つことにまごついているベリスにヨシュテアの刃が迫り…


「ウォシド!!」

「っ!!」


 真横から飛んできた水の弾丸がベリスとヨシュテアの間を通過しとどめの一撃を遮る。


 その間に体勢を整えヨシュテアから距離を取った。


「あら?」


 ヨシュテアが視線を向ける先には杖を突きつけるシャムルの姿があった。


「皇女殿下。お聞きしたいことがあります…」

「いいわ。気分がいいから許してあげる」


 許可をもらったところでしばし黙り込む。そして意を決したようにゆっくりと口を開いた。


「あの日、プリド城に侵攻してきたのは貴女ですか?」

「残念だけど違うわ。行って欲しいとは頼まれたけどね」


 何の話をしているか分からないが彼女にとって重要な意味を持つものらしい。


「でもご褒美にお城をおねだりしたら叔父様達に反対されたの」

「何故私の顔を知っていたのですか?」

「捕虜の調書に貴女の人相書きがあったの。前髪だけ黒い赤毛の女の子なんてそういないからすぐ分かったわ」


 あなたが言うんですかそれ…


「ではあの日誰が戦線に加わ…」

「そこまでよ」


 質問攻めにされて不機嫌になったのかヨシュテアは退屈そうな視線を向ける。


「分かりました。…御覚悟!!」

六話はこれにて終わりです

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