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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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苦難の道中 ⑤

 恐らく無事であろうカイラを一旦置いて馬車に乗り込んだちょうどその時、馬に跨りこちらに向かってきている風体のよろしくない集団が視界に入った。


「あの馬車だ!」

「賞金は俺の物だ!!」


 恐らくヨシュテア目当てに集まってきた賞金稼ぎ達だろう。


「なんでここに!?」

「どうせ小遣い稼ぎでしょ。近づいてきた奴を撃つから援護よろしく」

「任せて!」

「守りは任せて下さい!とっておきがあるんです!」

「そうなの?じゃあお願い」

「はいっ!」


 最後尾の馬車で合流した三人は手短に作戦を立てて迫り来る敵を迎え撃とうとしていた。


 いくら急いでもこちらは重い荷物を背負った馬車。


 速度の差は歴然で徐々に距離が縮まっていく。


 …そんな時だった。


「っ!?」


 王家の剣が共鳴を始めたのだ。


 勇胤が近くにいる!?


 予期せぬ遭遇に周囲を探ると自分の背後に立つ白ローブの姿があった


「あら?今度は気付いたのね」

「っ!?」

「変な音が聞こえたのだけど何かあったのかしら?」

「…いえ」


 今ここで説明するのも面倒なためしらを切る。


 すると白ローブはベリス達を越えて一歩前に進み出た。


「えぇっ!?危ないですよ!」

「下がってなよ。遊びじゃないんだからさ」

「嫌よ」

「はっ?」

「折角興が乗ったのだもの。大人しくなんてできないわ」


 それだけ言うと白ローブは襲撃者達にその身を晒し…


「喜びなさい。尋ね人は目の前にいるわ」

「ちょっ!何言って…」


 ローブに手をかけそれを豪快に脱ぎ捨てた。


 凍てついた氷の如き彩度の高い青髪がローブを脱いだことで露になる。


「えっ…」

「あなたは…っ!?」


 その顔に見覚えがあった。


 後ろで一本にまとめられた腰まで伸ばした青髪、一房だけ赤い前髪、そして澄みきった湖畔のような淡い青色の瞳。


「なっ!?」

「いたぞぉーーーっっ!!」


 襲撃者達が歓喜の雄叫びを上げる。


 そんなことなどお構いなしに白ローブだった女性は、


()()()()()()()()()!!気が向いたから遊んであげるわ!!」


 ヨシュテアは胸に手を当て高らかに宣言した。


「えっ…えぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!??」





 ヨシュテアが馬車を飛び降り賞金稼ぎ達と交戦を始めてわずか数分。


 ベリス達の目の前に広がる光景は戦闘とは言い難いものであった。


「うっ…ぐぅっ!」

「た、助けてくれぇ…!!」


 それは一方的な略取、絶対的な強者による無慈悲な簒奪。


 ある者は一刀のもとに胴を、首を、頭蓋を断たれて絶命し運よく生きていた者も四肢のいずれか、あるいは目や耳を失い地面に這いつくばっている。


 そして最も運が良かった者達は武器と馬を捨ててさっさと逃げてしまった。


「す、すごい…!」


 ベリスは惨劇の一部始終を目撃していた。


 武器を奪って敵を斬り壊れたら新しいものを奪って同じことを繰り返す。


 言葉にすればたったそれだけの単純作業。


 それをちょっとした軍隊レベルの人数相手に手傷を負うことなくやってのけたのだ。


 それは最早人の所業ではなく…


「化け物…!」


 ベリスの考えを奇しくもシャムルが代弁する。


 目にも止まらぬ速さで賞金稼ぎ達を斬り伏せたヨシュテアはティータイムを終えたような涼やかな顔で戻って来た。


「数が多いだけで物足りないわ。廃村の魔物の方がまだましね」

「廃村…!まさかあなたがっ!?」


 ベリス達と話していた時と変わらない声色で奪った命を物足りないと一蹴する残酷さに思わず生唾を呑む。


「まだまだ動き足りないわ。カイラを探してくる!」

「えっ!?あのっ…!」


 言うが早いかすさまじい速度で走り去るヨシュテア。


 その後姿をしばし呆然と見送っていたがまだ敵が残っている可能性に気付いて馬車を降りる。


 ナイフを抜いて周囲を警戒するも見渡す限り死体かいずれ死体になる重症者しか見当たらない。


 警戒を続けていると今にも吐きそうな顔のヒーリアがふらつきながら馬車から降りてきた。


「大丈夫?戻っててもいいよ」

「い、いえ…。私だけ待ってるなんて…うぅっ」


 途中で言葉を切りふらふらと物陰へと向かって行く。何をしにいったかは言うまでもない。


「シャムルは平気?」

「別に。こんなの今更だよ…」


 その表情に嘘や虚勢の色はなく強がっているようには見えない。


「やばいねあいつ…。護衛いらないじゃん」

「お嬢は気分屋やからなぁ。気ぃ向かんと動いてくれんのや」


 後ろからの声に振り返ると先頭の馬車から降りてきたクラフが近づいて来ていた。


「うわぁ…。派手にやりよったなぁ」

「大変だよクラフ!あの人賞金首のヨシュテアだったの!」

「知っとるで」

「えぇっ!?」

「なんでそんな奴と仲良くしてんの?」


 知っていたという事実に驚く二人にクラフは更なる驚愕の真実を叩きつける。


「確かにおっかない人やけどいろいろ助けてもらっとるしなぁ。ほんま皇女様様やで」

「こうじょ…?」

「あの方はヨシュテア・ウェルナ・オランジエール。オランジエール帝の孫娘や」

「えぇぇぇぇぇっっ!!??」


 あまりにも突拍子のない真実に驚きを隠せない。


「あれが皇女殿下…!」


 シャムルは険しい目つきでヨシュテアが去った方向を睨み付けていた。


「しっかし、お嬢がおるってどっから漏れたんや?」

「待って!帝国のお姫様がなんで賞金首なの!?」

「お爺様の嫌がらせよ」

「きゃああああっっ!!?」


 突如真後ろからかかった声に飛び上がる。


 いつの間にか戻ってきてまたまた背後に回っていたヨシュテアは悪戯が成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべていた。


「賞金をかけて動きづらくしているの。困ったお爺様よね」

「そ、そうなんですか…」


 皇帝の気持ちも分かる気がする。


 こんなのを野放しにしていたら何をしでかすか分からない。


「カイラさんは見つかったんですか?」

「えぇ。腰を抜かしていたからしばらく戻ってこないでしょうね」

「困ったやっちゃなぁ。こんなとこさっさとおさらばせな面倒臭くて敵わんわ」

「だよねぇ…」


 視界に広がるは屍山血河。


 この惨状をどう説明すれいいかと頭を抱えるべリスとクラフを尻目に事の元凶は我関せずと言った顔でシャムルへと歩み寄った。


「ねぇ貴女」

「何でしょうか?」

「その顔、思い出したわ」


 そこから永遠とも思える刹那の攻防が繰り広げられた。


 突如肥大化した殺意を感知し反射的に動いたのはベリスだった。


 状況を把握できておらず何が起きているか分からないと言った顔で立っているシャムルに対しヨシュテアは賞金稼ぎから奪った剣を振り下ろす。


 切り裂かれる柔肉、飛散する鮮血と骨片、漏れ出る臓腑。


 しかしその全ては一連の動作を見ていた者達の幻視に終わった。


 間一髪でシャムルを抱き上げ退避したベリスによって剣が空を切ったからだ。


「ふぅん。やるわね」

「お、お嬢っ!?」

「…っ!…っっ!!?」


 臨死の恐怖に体が震え呼吸が乱れるシャムルを落ち着かせようと強く抱き締めながらヨシュテアを睨みつける。


「なんのつもりですか?」

「反逆者の処刑よ」

「反逆者?」

「えぇ」


 ヨシュテアの一挙一動を見逃すまいと警戒するベリスに対しヨシュテアは刃を突きつけて言い放つ。


「その女は帝国に反旗を翻した謀反人、オラルべ辺境伯の配下よ」

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