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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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苦難の道中 ④

 見当違いも甚だしいがヤクラエ教徒を乗せた途端にヤクラエ教徒に襲われたのだ。


 そう思うのも無理はない。


「彼女は体を張って彼らを追い返しました。仲間ならそんな回りくどいことはしないはずです」

「油断させて罠にはめる気だろう?騙されんぞ!」

「だからカルを待とうと言ったのだ!冒険者如きに頼んだのが間違いだった…」


 冒険者をよく思ってなかったとしても相手は護衛対象。


 どうしたものかと考えているとシャムルが横に並び立った。


「難癖つけるなら降りさせてもらう。依頼に不誠実な商人なんて信用できないからね」

「シャムル!?」

「貴様!言わせておけば…!!」


 頭に血が上った商人がシャムルに掴みかかろうとする。


 咄嗟に間に割って入りその手を掴む。


 最初は構わず力を込めていたがびくともしないことに諦めたのか徐々に力が抜けていった。


「わたしはヒーリアを信じています。彼女は人を陥れて金品を巻き上げるような人間ではありません」

「ベリスさん…!」

「ふんっ!口でなら何とも言える!」

「なので取引をしましょう」

「取引?」


 そう言って右手を突き出すように掲げその手に王家の剣を呼び出す。


「…なっ!?魔導具だと!?」

「彼女が彼らの仲間であると証明された暁にはこの鎧と剣、そして全財産をあなた達に差し上げた上で馬車を降ります。報酬もいただきません」


 二人を見据え堂々と言い放ったが二人の視線は王家の剣に釘付けとなっていた。


「すごい…!」

「こんなの見たことねぇ…」


 先程までの威勢が削がれたのを確認して安堵していた…その時だった。


「あら?いいものを持っているわね」


 ベリスの真後ろから聞き慣れない声がした。


「っ!?」


 振り返るもそこには呆然とベリスを見上げるヒーリアしかいない。


「こっちよ」


 その声に向き直ると王家の剣をしげしげと眺めている白ローブの姿があった。


 背後を許したばかりか対峙しているにも関わらず微弱な気配しか感じ取れない違和感に戸惑っていると商人達がざわつき始めた。


「お嬢!」


 お嬢と呼ばれた白ローブは商人達に視線を向ける。


「取引は不成立よ」

「なっ!?それはどういう…」

「目利きが甘いわね。よく見なさい」


 そう言うとベリスの背後に回り肩に手を置いた。


 揺らめくローブから漂う清涼感のある香りが鼻を吹き抜けていく。


 細くしなやかな指に囀る小鳥のような高めの声。


 ローブに覆われて全体は見えないがそれらの特徴や話し方からそれなりに高貴な出であることが窺える。


竜骸晶(ドランフォッシル)の鎧よ。見たことない?」

「竜骸晶ですと!?」

「この光沢…間違いない!」

「一式揃えたら鋼鉄の100倍は固いはずよ」

「えぇっ!?そんなに高いものなんですか!?」

「知らないの?」

「はい。お父さんの形見なので…」

「ふぅん」


 衝撃的な真実に開いた口が塞がらないベリスを尻目に今度は王家の剣を手に取る。


「いつの間に!?」

「これなんてもっとすごいわ。竜髄兵装(ドラグラフト)の剣よ」

「ど、竜髄兵装っ!?」

「冒険者如きが何故それを!?」


 竜髄兵装が何かは分からないが彼らの反応を見るに途轍もないお宝なのだろう。


 価値あるものへの順応の早さに苦笑していたベリスはある違和感を覚えた。


 白ローブが持っている剣がいつまで経ってもそのままなのだ。


 王家の剣は契約者とその血族以外の人間が持つとただの鉄の剣になってしまう。それはかつて剣を奪ったベイアーや剣を持ったことがあるパライトで証明済みだ。


 剣が変化しないことに疑問を覚えたものの突然剣を返されたことで思考が中断させられた。


「分かったでしょう?そもそも取引自体が成立しないわ」

「何故です?」

「取引はお互いが同等の利益を提示して初めて成り立つものよ。竜骸晶の鎧と竜髄兵装の剣。それらに見合う利を用意できるのかしら?」

「…っ!」


 白ローブの挑発的な言葉に商人達は苦々しい顔でベリス達を睨みつけそそくさと立ち去った。


「ありがとうございます。おかげで助かりました」

「いいものを見せてもらったお礼よ。…ん?」


 白ローブはベリスとシャムルにぐっと顔を近づけてきた。


「な、なんでしょうか?」

「あなたと赤髪のあなた。どこかで会ったことないかしら?」


 彼女には悪いがこんな不審者に知り合いはいない。


「すみません。覚えてないです」

「あんたみたいな不審者知らないよ」

「シャムル!?」

「あははっ!素直な人は好きよ」


 無礼な発言に怒ることもなくケラケラと笑う白ローブ。そんな彼女に先ほどから疑問に思っていたことを聞いてみる。


「クラフ達がお嬢って呼んでましたけどどういう関係なんですか?」

「彼らの事業にお金を出しているの」


 さらっととんでもないことを言い放つ白ローブに三人は唖然とする。


「そんな奴がなんでこんなとこにいるわけ?」

「旅をしたい気分になったからよ」

「自由気ままで羨ましいよ」


 シャムルは肩を竦めて皮肉めいた口調で言う。


 白ローブはそんな意図など気にも留めず吹き抜けるそよ風を気持ちよさそうに受け止めていた。


「そうかしら?貴女達の方が羨ましいと思うわ」

「なんで?」

「なんでも分け合えるって素敵じゃない」


 それだけ言い残すと白ローブは後ろ手を振りながら立ち去った。


「なんだったのあれ…?」

「台風みたいな人でしたね」


 王家の剣を体に戻しながら呟くとゆっくりと立ち上がったヒーリアが二人に勢いよく頭を下げた。


「守ってくれてありがとうございます!それとすみません!!」

「えっ?」

「私がどうにかしなきゃいけないことなのに何にもできなくて…。本当にすみませんでした!」

「別にいいよ」

「そうそう。いきなりあんなこと言われたんだもん。戸惑っちゃうのも無理ないよ」


 突然嫌疑をかけられて毅然と反論できる人間はそういないのでそこを責めるつもりは毛頭ない。


 それでも納得できないのか悲しそうな表情で顔を伏せる。


「ベリスさんならそう言ってくれるって思ってました。でも、いつまでもそれじゃダメだと思うんです。私だって仲間ですから…」

「ヒーリア…」


 今回の件はヒーリアに助けられたと言っても過言ではない。


 ヒーリアが止めに入らなければ戦闘は避けられず無駄な血を見ることになっていたからだ。


 感謝こそすれど謝られる謂れはないのだが彼女はそう思わないだろう。


 しばし考えた末にヒーリアの肩に手を置き、自分なりの言葉を伝えることにした。


「じゃあ今度助けてよ」

「今度ですか?」

「うん。助けて助けられるのが仲間でしょ?助けられたって思うならまた今度助けて欲しいな」

「ヒーリアには何度も助けられてるしね」

「…っ!!分かりました!その時が来たら全身全霊でお助けします!!」


 さっきまでの憂いはどこへやら。


 ばっと顔を上げ使命に燃える姿にもう大丈夫だと安堵したのも束の間。


 次の一難が走ってきた。


「うおぉぉっーーー!!ていへんだていへんだーーー!!」


 大声を上げながら走ってくるのは先ほどから姿が見えなかったカイラだった。


「カイラさん!?」

「なんかおっかないお兄さん達が向かってきてるよぉーー!!おたすけーーーっ!!!」


 一切減速することなく彼方へと走り去って行くカイラ。


 カイラのことも心配だがその話が本当なら後回しにせざるおえない。


「クラフ達を呼んでくる!ヒーリアとシャムルは馬車に戻ってて!」

「はい!」

「了解」


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次回更新は6日の17時頃を予定しています

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