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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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第六話 苦難の道中 ①

 法外な賞金がかけられた賞金首、ヨシュテアがイッチバ付近で目撃されてから早一週間。


 ベリス達の生活は悪い方向に様変わりしていた。


「つ、疲れましたぁ…」

「あいつら本当しつこい…」


 宿に帰るなりベッドに倒れ込むヒーリアとシャムル。


「お疲れ様。今日もありがとうね」


 報酬を二人の分に色をつけて三等分しながら思い出すのはここ数日の出来事。


 ヨシュテア目当てに転がり込んできた賞金稼ぎ達ははっきり言って最悪だった。


 彼らが引き起こす強盗や恐喝等で治安が一気に悪化。 市民もおちおち外を出歩けなくなり活気があった街がしんと静まり返ってしまった。


 当然冒険者も被害を被っている。


 冒険者でもないくせに仕事をやったと言い張って金をせびるのは日常茶飯事。


 ひどい者は他の冒険者が持ち帰った討伐の証を横取りしようとしたり弱そうな冒険者を襲って金品を巻き上げようとしたらしい。


 ベリス達も女だけのパーティーということもあって嫌になるほど絡まれた。


 どれも弱すぎて相手にならなかったが次から次へと絡んできて本当にキリがない。


「あの人達、どうにかできないんでしょうか?」

「それは軍や自警団のお仕事だからねぇ…」

「あたしらでヨシュテア捕まえる?一気にお金持ちだよ」

「それじゃ賞金稼ぎと同じだよ」


  過激なことを言い出した二人をやんわりと嗜める。相当頭に来ているらしい。


 当初の予定ではここを拠点に仲間を集めて記念祭で遊ぶ為の金を貯める予定だったが状況がそれを許してくれそうにない。


 ベリスを悩ましているのはそれだけではない。ほんの数日前に感じた異変にも不安を募らせていた。


 "知らない匂いがする"


 依頼を終えて宿に帰ってきた時に嗅ぎ慣れない匂いを察知したのだ。


 さり気なく調べるも金品が盗まれた痕跡はなく犯人特定につながる手がかりは見つからなかった。


 二人を不安にさせたくないので言わなかったがそれもあってある決断を下すことにした。


「ちょっといい?」

「んぅ?」

「何?」


 夢の世界に片足を突っ込んでいる二人が眠そうな顔でこちらを見る。


「イッチバは今大変なことになってる。これは分かるよね?」

「本当いい迷惑だよ」

「そこで提案なんだけど…拠点を移さない?」

「拠点を移す?」


 聞き返すヒーリアに頷きながら地図を広げてある地点を指差した。


「賞金稼ぎがいなくなるまでここに行こうかなって」

「タンレ、ですか?」

「どんなとこ?」

「鍛冶の街だよ」

「鍛冶か…。いいかもね。他に何かないの?」

「温泉があるんだって」

「温泉!?行きましょう!是非行きましょう!!」


 温泉と聞いたヒーリアが飛び起きて興奮気味に詰め寄ってきた。


「あははっ。じゃあ決定ってことで」

「はい!!」

「了解」


 かくして新天地への移動に向けて準備を始めるのだった。




 ベリス達が移転を決めてから更に三日。


 宿を引き払いトインに別れの挨拶を済ませたベリス一行は組合の前である人物と会っていた。


「はじめましてー。うちがクラティフや。あんじょうよろしゅうな!」


 人懐っこい笑顔を浮かべて右手を差し出す少女が今回の依頼人、クラティフだ。


 年は恐らくベリスより少し下。


 首の中頃で切りそろえられた杏色の髪と焦げ茶色の瞳、そして左目に流れる泣き黒子が特徴的な小柄な少女の手を取り握手を交わす。


「初めまして!ベルナリスです。こっちはヒーリアとシャムルです」

「初めまして」

「どうも」

「ご丁寧におおきに!短い付き合いやけど仲良うしてや」


 聞き慣れない言葉だ。どこかの訛りかその地方特有の方言なのかもしれない。


「早速やけど依頼を確認させてもらうで」

「はい!クラティフさん!」

「そない畏まらんでええって。気楽にクラフって呼んでや!」

「は…うん!わたしもベリスでいいよ」

「じゃあ確認するで。依頼はタンレに向かううちらと馬車の護衛。報酬は一人頭5000ゴード。飯と宿代はこっち持ち。怪我した場合は商品のポーションを使ってもええ。ただし3本目以降は報酬から差っ引く。ここまでで質問は?」

「護衛する人はクラフと御者さんだけ?」

「同業者2人とおじょ…タンレに行きたいっちゅう客が2人おる。1人はよう分からん飛び込み客やけどな」

「分かった!ありがとう」


 快く頷きながら護衛対象の馬車に視線を向ける。


 馬車の前には何かを話し合っている二人の男と馬の近くで寛いでいる軽装の女性、そして白いローブで全身を覆い隠した謎の人物が立っていた。


 二人の男がクラフの同業者、軽装の女性とローブの人物が乗客だろう。


「今回はカルがおらんさかい。あんじょう気張りや!」

「任せて!…カル?」

「うちの友達いうか付き人いうか…まぁそんなもんや。今はおとんに別件任されとってな」


 ここではないどこかに目を向けながら不満そうに唇を尖らせるクラフ。


 そのカルという人物をよほど信頼しているのだろう。


「後1時間で出発や!過ぎたら置いてくで!」

「うん!」


 クラフはそう言い残し先ほど話し合っていた男達の方に歩いていった。


「タダでタンレにいけて報酬まで貰えるなんて…。すごい幸運だね」

「護衛ってことは魔物や盗賊なんかと戦うんですよね?大丈夫でしょうか…?」

「大丈夫大丈夫!」


 イッチバからタンレ間で脅威になるであろう魔物はミドリゴブリンのワーカーや空を飛んで集団で襲ってくる鳥の魔物、カラクロウくらい。


 この間戦ったオークやワイバーン、オーガといった強力な魔物がこの辺りには生息していないことは組合にあった魔物の分布図で調査済みだ。


 盗賊もクレーヌ王女による盗賊狩りのおかげで大規模な盗賊は姿を消しつつあると先日読んだ新聞に書いてあった。


 仮に現れたとしても食い詰めた集団による小規模なものである可能性が高い。


「わたし達だって強くなったんだもん。これまでの成果を披露するつもりでいこうよ!」

「そうですよね。よーし、やるぞー」

「油断しないでよね」


 新天地に浮つく心に喝を入れ直し改めて依頼遂行に向けて気持ちを切り替えるベリス一行。


 しかし、彼女達は知るよしもなかった。


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