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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
見果てぬ夢の胎動
3/47

勇者の娘 ③

「どうぞ」


淹れたばかりのお茶をテーブルに就いたベイアーとベリスの前に置くフォルナ。


ベリスは複雑な面持ちでベイアーを見る母にただならぬ気配を感じていた。


所在なさげにお茶を眺めているとベイアーが咳払いして話を切り出した。


「フォルナさんと…えっと」

「ベルナリスです!」

「お二人は5年前のカヌレリア侵攻を覚えていますか?」

「…っ!?」


その言葉にフォルナの表情が強張った。ベリスもその事件のことはよく知っている。


父が命を落とした最後の戦いだからだ。


今から五年前。


カヌレーニュ王国の中心である王都カヌレリアに魔王軍の残党が勢力を結集させて侵攻するという事件が起きた。


これを迎え撃ったのはカヌレーニュ王国軍と勇者シャルステッド、そして彼を支えたかつての仲間達だった。


壮絶な戦いは一昼夜続き魔王軍残党はほぼ壊滅した。


…数多の兵士とシャルステッド、そしてその仲間達の命と引き換えに。


「先のカヌレリア侵攻で各地に潜伏していた魔王軍残党を壊滅させることに成功しました。しかし、その代償はあまりにも大きかった」

「…」


カップを握るフォルナの手がわずかに震えているのに気付く。


「我々は救国の英雄、シャルステッド様とその仲間達を失いました。今日まで平和に暮らせてこれたのはその犠牲あってのものだと思っています。…ですが、状況は予断を許さなくなってきました」

「どういうことですか?」

「近年魔物達の動きが活発化していることに気づいた我々は調査を重ねカヌレリア侵攻を逃げ延びた魔王軍残党が再び勢力を盛り返そうとしていることを突き止めました」

「っ!?それは本当なんですか!?」


フォルナは向かい側に座るベイアーにテーブル越しに詰め寄った。


ベイアーが静かに頷くとフォルナは力が抜けた人形のように椅子にへたり込んだ。


「お母さん!」

「大丈夫…大丈夫よベリス」


笑顔を浮かべて気丈に振舞っているがその表情は青ざめ声も震えている。


とてもではないが大丈夫には見えない。


そんなフォルナの様子などお構いなしにベイアーは話を続ける。


「これを打倒する方法はないかと模索していた私達はシャルステッド様が生まれ故郷に己の剣を遺してきたことを知りました。フォルナさん。何かご存知ありませんか?」

「…」


フォルナはベイアーから目を逸らしテーブルの下でスカートの裾を力強く握り締めていた。


それに気付いたベリスは勢いよく立ち上がり母を守るようにベイアーの前に立ちはだかる。


「帰って下さい!」

「えっ?」

「お父さんの剣?そんなの見たことも聞いたこともありません!だから早く帰って下さい!」


息を荒げながらベイアーを睨みつける。


何故ここまで怒っているのか自分でも分からない。分からないが彼の物言いがどうにも我慢ならなかった。


ベイアーが言っていることは正しいのだろう。


だが、いくら正しかろうと母を悲しませるような無遠慮で配慮の欠片もない物言いを許すことはできない。


「ベリス!!」


押し潰されそうなほど重苦しい沈黙が家の中を支配する。


「…っ!」


フォルナは力なく立ち上がると日用品が納められた棚へと移動する。


そして棚に置かれたカンテラを開け、横に置いてあった火打ち石で中の蝋燭に火をつけた。


火がついたカンテラの蓋を閉じて持ち上げたフォルナはふらふらとした足取りでドアの前に向かい、肩越しに二人を振り返った。


「付いてきて下さい」




記憶の中の父はいつも笑顔を絶やさない人だった。


いつも自分のことより家族や村の皆のことを優先し何かを頼まれたら率先して引き受けるような強くて優しい自慢の父親だった。


ベリスはそんな父が大好きで父も惜しみない愛情を注いでくれた。


そんな父と遊ぶのが大好きだったが一番好きだったのが冒険の話だった。


自分の目で見てきた土地や人々の話、人から伝え聞いた話。


聞けばいつでも話してくれる非日常の話が何よりも楽しく、それを話す父の楽しそうな顔も大好きだった。


「ここです」


フォルナの先導でやって来たのは村の周囲を囲む森の中にある洞穴だった。


大きな岩肌にぽっかりと開いた洞穴は魔物の口のようで一寸先も見えない暗闇にベリスの背筋に冷たいものが走る。


フォルナはカンテラを掲げながら中に入り、二人もそれに続いて洞穴に入る。


外から見るとどこまでも続いているような不気味さを感じた洞窟だったがいざ入ってみるとすぐに行き止まりへと到達した。


あるのは岩を削り出したような無骨な壁面のみ。フォルナはカンテラを地面に置き行き止まりの壁を手で触り始めた。


「確かここに…」


その様子を不思議そうに眺めているとやがて変化が訪れた。手が触れた壁が大きく沈み込み、それに呼応するかのように地鳴りが洞穴の中に響き渡る。


「地震!?お母さん!」

「じっとしてて!」


慌てて駆け寄ろうとするベリスをフォルナが手で制する。その言葉に立ち止まると止めた理由がすぐに分かった。


フォルナとベリス、ベイアーの間にある地面の一画が引き戸のように開き始めたのだ。


地鳴りのような音は地面が開ききると同時に止み、二人の目の前には人が一人通り抜けられそうな地下へと続く階段が現れた。


「えぇっ!?」

「仕掛け扉ですか」

「ここを降ります。足元に気をつけて下さい」


仕掛けが発動したことを確認したフォルナは階段の前で一度立ち止まり、意を決したように降りていった。


ベリスとベイアーもそれに従ってゆっくりと階段を降りる。下へ下へと続く階段は夜の暗さも相まって一寸先も見えないほどの黒に塗り潰されていた。


まるで奈落の底に繋がっているかのような錯覚に陥る階段もついに終わりを迎え、階段が平坦な石畳へと変わる。


ここはどこなのか?


その疑問は三人を出迎えるかのように迸った光によって解決した。


「…っ!!」


朝焼けのような眩い光に目が眩み咄嗟に腕で光を防ぐ。少しして目が慣れてきたところで腕を下ろしてその光景を見た。


「わぁっ…!」


ベリスの目に飛び込んできたのは自分の家が二つは入るんじゃないかと思うほどの広い空間とその中央に鎮座する台座、そしてそこに突き刺さった剣だった。




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