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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
28/47

寡黙な2人目 ③

「よっし!終わったよ~!」


 ベリスが声をかけると茂みからヒーリアとシャムルが出てきた。


「うっ…!」


 凄惨なゴブリンの死体を見て気持ち悪そうに口元を押さえるヒーリア。


 ヤクラートスに住んでいた彼女には刺激の強い光景だろう。


「うまくいったね」

「うん!ヒーリア様々だよ!」

「あ、ありがとうございます」


 褒められたのが嬉しいのか気恥ずかしそうに会釈する。


 ヒーリアが立案した作戦はゴブリンを転ばせるというとてもシンプルなものだった。


 茂みで死角になる地面をシャムルの魔術で凍らせる。


 そしてヒーリアが囮となってゴブリンを誘導する。


 全力疾走するゴブリンは凍った地面に気付かず転倒。


 そしてベリスがトドメを刺す。


「こんな方法があったなんてね…。やるじゃん」

「これで3匹だね!ありがとうヒーリア!」

「ひゃあっ!?」


 感謝と喜びのままにヒーリアに飛びつき抱き締める。


 最初は驚いて強張っていたがしばらくすると力が抜けてされるがままになった。


「シャムルも!」

「やだよ」


 即答だった。


「ほら。討伐したんだから証拠取りなよ」

「そうだった!」


 シャムルに指摘されてヒーリアから手を離す。


 名残惜しそうな視線を向けるヒーリアに気付くことなくゴブリンの頭から触角を切り取る。


「これでよし!」


 切り取った触角の血を近くの葉で拭い革袋にしまう。


 討伐の依頼は魔物の一部を討伐成功の証として組合に提出することで依頼達成と認められる。


 その部位は魔物によって決まっておりゴブリンの場合は触角が該当する。


「これでよかったんでしょうか?なんだか卑怯な気が…」

「死んだら意味ないでしょ」

「うんうん!平穏無事が一番だよ!」


 ()()()()()()()()()()()()()()


 その命と体が資本でありその身一つで冒険と戦いに身を投じる存在なのだ。


 正々堂々戦っても死んでしまえば意味がない。


 生き残っても冒険できなくなっては飯の食い上げだ。


 だからこそ卑怯でもリスクが少ない方法を模索するし勝てなければ撤退する勇気も必要になる。


 "勝てなかったら逃げろ"


 父の言葉は冒険者の本質を端的に言い表したものでもあるのだ。


「この調子で討伐していきたいけどいいかな?」

「はい。いいと思います」

「いいんじゃない?」

「決定!後2匹!気合入れていこーー!!」

「おー!」


 天高く拳を突き上げた二人の視線がシャムルに注がれる。


「…やらないから」



 そこからはまさに快進撃だった。


 まずはベリスが木の上からゴブリンを探す。


 後は地形や相手の位置から最適な奇襲方法を三人で話し合い時には後ろから、時には先ほどのように囮を使って罠に誘導、そして一体しかいない時は真正面から切り込んだりと手を変え品を変えて討伐数を増やしていく。


 そして討伐開始から二時間。


「29、30!!よっし!これで15匹!」

「おめでとうございます!すごいですね!」

「皆のおかげだよ!」


 討伐数は必要数の三倍に達していた。


「ゴブリン多くないですか?」

「春先だからね。餌探しに出てるんでしょ」


 数え直した触角を革袋にしまいながら今日の戦績を振り返る。


 ベリスの身体能力を活かした索敵と敵に行動の隙を与えない速攻、ヒーリアの味方の能力と現状を把握して導き出される作戦と療術、シャムルの汎用性が高く応用の幅が広い魔術。


 どれか一つでも欠けていればこの大手柄はなかっただろう。


「そろそろ帰る?」

「賛成。暗くなってきたしね」

「私もちょっと疲れました…」

「分かった!じゃあ帰…っ!?」


 じゃあ帰ろっか。


 そう言いかけたベリスはこの場にそぐわない匂いを感知して言葉を切る。


「焦げ臭い…」

「えぇっ!?山火事ですか?」

「ちょっと待ってて!」


 匂いの正体を探るべく今日何度目になるか分からない木登りをする。


 木のてっぺんにたどり着き辺りを見回すうちにその元となっているであろう場所を見つけた。


 急いで木から下りてそれを報告する。


「煙が出てる!」

「火の手は?」

「上がってない。どうする?」

「ほっとけば?いいことないと思うよ」

「私は行った方がいいと思います。もしかしたら誰かが狼煙を上げてるかもしれませんし」

「…」


 シャムルとヒーリアの意見が初めて対立した。


 実利を取るならシャムルの、人道を取るならヒーリアの意見を取るのが最善だろう。


 シャムルの言う通り行ったところで得することはまずないだろう。


 もし山火事や強力な魔物の痕跡なら自ら死地に飛び込むことになる。


 しかしヒーリアの言う通りもし誰かが助けを求めているなら助けたいという思いもある。


 それを踏まえた上で自分はどうするか。


 口元に手を当ててしばらく考えた後にベリスはゆっくりと口を開いた。


「わたしとヒーリアで見てくる。シャムルは先に組合に戻ってこのことを伝えて」

「はっ?なんの得になるわけ?」


 シャムルが少し苛立ったような声で言う。


 そう思うのは当然だろう。だが、一度決めた以上こちらも引き下がりたくない。


「得にはならないと思う。でも、わたしは得とかお金のためだけに冒険者をやりたいわけじゃない。わたしは…わたしが胸を張って冒険できる冒険者になりたい。だから助けを求めてるなら助けたいの」

「…」

「ごめんね」


 ベリスの胸の内を聞いたシャムルは押し黙って顔を伏せる。


 きっと呆れているのだろう。


「行こう。ヒーリア」

「はいっ!」

「じゃあお願いね。報酬は帰ったら払うから」


 今日の分の報酬を約束してシャムルに背を向ける。


 そして数歩進んだその時、背後から低く呻くような声が響いた。


「なんで…どいつもこいつも…っ!!」

「…?」


 肩越しに振り返ると顔を上げたシャムルと目が合った。


 先程のぎらついた光を目に宿らせ拳を強く握り締めたシャムルは力強い足取りでベリス達に歩み寄った。


「…あたしも行く」

「無理しなくていいよ?何かあればわたし達でなんとかするから」

「あんた達のためじゃない。報酬持ち逃げされくないだけ」

「なっ!そんなことしません!」


 憤慨するヒーリアを手で制しシャムルに手を差し出す。


「ありがとう。シャムルが一緒なら心強いよ」

「ふんっ」


 しかしその手を取ることなく先に進んでしまう。


 その背中を恨めしそうに睨むヒーリアを宥めながら三人は煙が立ち昇る地点へと向かった。



「…っ!?」

「なに、これ…?」


 立ち昇る煙を頼りにやってきたその先には異様な光景が広がっていた。


 周りに散乱した瓦礫や家の土台のようなものからここが村であったことが窺える。


 見える範囲に人はおらず瓦礫と共にゴブリン等の大小様々な魔物の無惨な死体が野晒しになっていた。


「載ってない。滅ぼされた村だったのかも」


 周辺の地図を確認するもこの辺りに村などの集落は見受けられない。


「例の奴の仕業みたいだね」


 シャムルが近くにあった最も不自然な物体、氷の塊に閉じ込められたゴブリンに触れる。


 ここまで巨大な氷が自然発生して生き物だけを的確に凍らせるなどあり得ない。


「まさか…まだ近くにっ!?」


 ヒーリアは青い顔をしながら首をブンブン回して辺りを確認する。


「人はいなさそうだね。どうする?」

「帰って組合に報告しましょう。片付けたらまた人が住めるかもしれませんし」


 シャムルが静かに頷いたのを確認し村を後にすべく来た道を戻ろうとした…その時だ。


「…っ!」


 始めは微かな物音だった。


 意識しなければ聞き逃してしまうほどの音を聞き取れたのは微かな敵意を察知したからだ。


 その敵意に振り返ったその刹那、轟音と共に瓦礫が飛散した。


「気をつけて!」


 二人を背中に隠すように立ってナイフを抜く。


 神経を研ぎ澄まして深呼吸をしているとついにそれは現れた。


 耳をつんざくような雄叫びが大気を震わせ、デッカグマにも匹敵する2mはあろうかという巨躯がゆらりと立ち上がる。


 全身を覆う剣山の如き鋭利な豪毛、突き出た鼻、その両隣からそそり立つ大人の腕ほどはあろうかという牙。


 あらゆるものがゴブリンの比ではないそれはベリス達を視界に納めると威嚇のような咆哮を上げた。


「オーク…」


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