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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
27/47

寡黙な2人目 ②


 正午を少し過ぎて真上に上った太陽がわずかに傾きかけた頃、ベリス達の姿はイッチバの近くにある小高い山にあった。


「ミドリゴブリン最低5体の討伐ねぇ…。ちょうどよ過ぎない?」

「でしょー?掲示板に貼ってあったのを思い出したの」


 整備された山道を歩きながら受けた依頼を振り返る。


 今回の依頼はミドリゴブリンを最低五体討伐すること。


 依頼達成だけなら五体倒せばいいが余分に討伐すればその分報酬も上乗せされる。


「わたし達の仕事は殲滅じゃなくて露払い。無理せず気負わず頑張ろー!」

「露払い、ですか?」

「クイーンの討伐やるからワーカーの数を減らして欲しいんだって」

「ほっとくと増えるからね」



 -ミドリゴブリン-

 それはゴブリンという種族の魔物の中で最もメジャーな存在でゴブリンと言えばこれを思い浮かべる人は多い。


 ゴブリンという種族は卵を産んで仲間を増やすクイーンとクイーンに仕えて身の回りの世話や食料調達を行う子供達、ワーカーで構成されている。


 今回ベリス達が討伐するのはそのワーカーだ。



「ヒーリアはゴブリン見たことある?」

「いえ。ヤクラートスの周りには魔物がほとんどいなかったので」

「こっちもデッカグマくらいしかいなかったよ」

「いやそっちのが強いでしょ」


 軽い雑談を交わしながらも杖を握るヒーリアの両手が微かに震えているのを見逃さない。


「やっぱり怖い?」

「…すみません。行くって言ったのは私なのに…」

「誰だって戦うのは怖いもんね」

「あんたは平気そうだね」

「わたしだって怖いよ」


 剣を取って戦う度にあの日のことを思い出す。


 自分の行動一つで何の罪もない人達が不条理に殺されたあの日を。


 戦いの末に自分が死ぬならまだいい。


 だが、自分の行動と判断一つで二人が怪我をしたり殺されるのは耐えられない。


 大切な仲間に何かがあったら…


 その恐怖がベリスの神経を研ぎ澄まし思考を透明にしてくれる。


「あっそ。ゴブリンなんかに怖がってちゃ先が思いやられるよ」

「うぅ…」

「シャムルは怖くないの?」

「別に。あんなのあいつに比べたら…!!」


 誰に聞かせるでもなく呟かれた言葉を耳聡く捉える。


 その黒い瞳には燃え上がる黒炎のようなぎらついた光が煌いていた。


 これ以上深堀するのは避けようと話題を転換する。


「シャムルって魔術士なんだよね?どんな魔術を使えるの?」

「言ってなかったっけ?…ウォシド」


 シャムルが杖に魔力を通して呪文を唱えると青魔鋼が澄んだ湖のような淡い青に煌く。


 そして杖の先から掌に納まるくらいの水流が現れ旋風のように杖の先で回転し始めた。


「おぉっ!」

「コフィル」


 今度は違う呪文を詠唱する。


 すると杖の先で渦巻いていた水流はたちまち氷つき渦を巻く氷塊と化した。


「得意なのは水と氷。攻撃以外にも色々できるけど長くなるから追々話す」

「すごーい!」

「シャムルさんがいてくれたら心強いです!」

「…ありがと。えっと、ヒーリアは療術士なんだよね?」

「はい!」

「ベリスは?剣士でいいの?」

「うん!」


 隠す気はないが王家の剣のことを話すのは少しばかり難しい。


 どう説明したものかと頭を悩ませているとベリスの耳に自分達のものではない足音が飛び込んできた。


「待って。誰かいる」

「ゴブリンですか?」

「分からない。…どうする?」

「確認した方がいいと思う。ゴブリンなら不意打ちできるチャンスだし」

「私も賛成です。もしかしたら悪い人かもしれませんし」

「悪い人?」

「また今度話すよ」


 方向性は違うが足音の正体を探るという点では一致した。


「ここで待ってて。ちょっと見てくる」


 決定を承諾したベリスは二人を背の高い草むらに潜ませ木に登る。


 そして足音が聞こえる方目掛けて枝から枝へと跳び移りながら移動し始めた。



「いた…」


 木の上で気配を殺し眼下のそれを見下ろす。


 それは人間の子供ほどの大きさの人型の異形だった。


 数は全部で三匹。


 深緑のような緑色の肌と尖った耳、そして額から生えた二本の触角。


 人間で言う尻にあたる部分には不恰好なリングミのような楕円形の尻尾が生えており歩くのに合わせて左右に揺れている。


 ミドリゴブリンだ。


 彼らは一心不乱に木の根元に生えたキノコを採取している。


 その傍らには木の棒の先に鋭利な石を括りつけただけの原始的な槍が乱雑に置かれていた。


 ゴブリンの位置を把握したベリスは二人に報告するべく来た道を引き返した。



「あれがゴブリン…!」


 二人を連れて戻ってきてもゴブリン達はキノコ狩りを続けていた。


 見つからないよう茂みに身を隠しどう仕掛けるかを話し合う。


「やるなら一気に叩きたいね」

「だね。でも一匹ずつ倒すのは難しいかも」

「あいつら逃げ足速いしね」


 このまま不意打ちを仕掛ければ優位に戦えるが問題は向こうの出方だ。


 巣の外にいるワーカーは戦うよりも狩りや採取を優先する習性があるので襲われるとすぐ逃げて巣の仲間に報告する。


 そうなれば守りを固めて巣から出てこなくなる可能性もある。


 ワーカーの数を減らすためにもそれは避けたい。


「魔術で一気に倒せない?」

「できるけど温存したい。何が出るか分からないし」

「そっか」


 敵は目の前のゴブリンだけではない。


 ここで無計画に魔術を使えばそういった予想外に対処できない。


「じゃあわたしが大きな音を出して注意を引くからその背中をシャムルが撃って一匹、わたしが一匹斬って最後の一匹はヒーリアにストレフォスをかけてもらって…」

「あのっ!1つ思いついたんですけど…」




 作戦会議をしている間にキノコ狩りは終わったらしい。


 両手いっぱいにキノコを抱えたゴブリン達が立ち上がったその時、ゴブリンの背後で茂みが揺れる音がした。


 ゴブリン達が振り返るとゴブリンを目にして恐怖に怯えるヒーリアの姿があった。


「ゴ、ゴブリン…!?」


 突如現れた予想外に始めは唖然としていたゴブリンも相手がひ弱な人間だと分かるや否やキノコを地面に落とし槍を構えた。


「あっ…ひぅっ…!」


 恰好の獲物になったヒーリアはその殺気だった空気に耐えられず…


「きゃああああっっっ!!!」


 踵を返して駆け出した。


 ゴブリン達は歓喜の雄叫びを上げながら茂みに逃げ込んだヒーリアを追いかける。


 その全てが罠だとゴブリン達は夢にも思っていないだろう。


 彼らが最期に味わったであろう体験。


 それは反転した景色と体を強かに打ち付けた痛み、そして振り下ろされた煌く白刃だった。


次回はついに初討伐!

ベリス達は無事に依頼を遂行できるのか!?

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