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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
24/47

波乱の初依頼 ⑥

 幼い頃から人並み外れた身体能力を持っていたベリスが数年を修行に費やし身体強化の恩恵を受ければどうなるか。


 答えは三メートルほど吹っ飛んだドーブラが物語っている。


「がはっ!うげえぇっ!!」


 掌底をまともに受けてなお立ち上がったドーブラ。そのカラクリは破れた服から覗く革鎧にあった。


 しかしダメージは深刻なようで声にならないうめき声を上げるのが精一杯といった様子だった。


 その隙に近くにいた剣を持って立っている手下の冒険者に近づき、


「これ借りるね」

「えっ?がふっ!?」


 顎に掌底を食らわせ剣を奪い取る。所々に錆が浮いた安物の剣だ。


 多少持ち直したドーブラも怨嗟の叫びを上げながら剣を構える。


「もう許さねぇ!!ガキ共!援護しろ!!」


 呆気に取られていた冒険者達も我に返って臨戦体勢を取る。


「まぐれ当たりでいい気になるな!グレンヌの雑魚がっ!!」


 今の攻撃はあくまで陽動。注意をこちらに向ける程度のものでしかない。


 策にはまったとも知らずドーブラは更にまくし立てる。


「怖気づいたか!?いくら叫んだって爺やは助けに来ねぇぜ!」

「ご心配なく。爺やの教えはこの胸にあります」

「そうかよ!!」


 剣を右肩に担ぐように構えながらベリスに突進するドーブラ。


 ブウトゥンなだけあって動きに淀みがない。


 ただそれだけだ。


「…っ!」


 手を伸ばせば触れるという距離まで来たところで地面を蹴って右に飛ぶ。


「甘い!」


 腰のバネと踏み込みを活かして真一文字に振るわれる剛剣。


 普通なら反対側に避けたとしても追いつかれて真っ二つにされるだろう。


 …普通なら。


「ステップが甘いですよ」

「なぁっ!?」


 ドーブラの剣は空を切りその背後からベリスの声がかかる。


 ダンスの経験を活かしたステップでドーブラの背後に回り込んだのだ。


 そして悲劇は終わらない。


「ぐぁっ!!」


 突如ドーブラが悲鳴を上げる。その右肩には矢が突き刺さり鮮血が滴っていた。


「て、てめえええええっっ!!!」


 ドーブラが睨んだ先には青ざめた顔で弓を構えている冒険者がいた。


 それは本来であればベリスに当たるはずのものだった。


 こちらを狙う敵意に気づいたベリスはドーブラをギリギリまで引き付けた上で背後に回り矢避けの盾にしたのだ。


「人を利用できても使うことはできないみたいですね」


 先程倒した冒険者を見た時から感じていた違和感が確信に変わった。


 彼らはドーブラに忠誠を誓っているわけではない。


 だからこそこんなお粗末な手に引っかかるし想定外に弱い。


「ほざけええええっっっ!!!」


 左手で矢を乱暴に引っこ抜きベリスに斬りかかる。


 だが、痛みと怒りで視野が狭まっていたドーブラは気づかなかった。


 その場所にはもうベリスがいないことを…


「ふっ!」


 再び死角に回り込んだベリスの剣が剣を振って伸び切ったドーブラの右手を捉え、


「ぎゃあああああっっ!!!」


 利き手の腱を一刀のもとに断ち切った。


 腱を切断された右手からは鮮血が噴き出しドーブラは血まみれになりながら地面を転がった。


「痛い!痛いよおおおおっっっ!!」


 泣き喚くドーブラに近づき切っ先を突きつける。


「ひいぃっ!!」

「まだやりますか?次は腕じゃ済みませんよ」

「嘘だ…なんで…!?」


 腕の傷を押さえながら立ち上がるドーブラ。


 その周囲には彼が従えていた冒険者が集まってきていた。


「はっ、はははっ!!おいガキ共!こいつを足止めしろ!!」

「…」

「ぼさっとするな!誰が世話してやったと…」

「黙れ!!」

「ひぃっ!?」


 そのうちの一人がドーブラに怒号を放つ。


「何が世話してやっただ!ふざけるな!!」

「そうだ!お前さえいなきゃ俺達は冒険者でいられたんだ!」

「お前なんてもう怖くねぇ!突き出して賞金山分けしようぜ!!」


 口々にドーブラを罵る冒険者達。


 ドーブラは恐怖に目を見開きながら後退り、


「あっ、うっ…うわああああああっっっ!!!」


 どこにそんな余力があったのかというほどの速度で逃げ出した。


「逃がすか!!」

「待って!」

「なっ!?見逃すのかよ!?」

「これ以上は正当防衛じゃ済まない。それに、もう何もできないよ…」


 兵隊に見放され利き手が使えなくなったあの男が再起することはもうないだろう。


 当面の危機が去ったことを確認したベリスは一息つきながら柔らかそうな草に腰を下ろす。


「ほら!座って座って」

「…」


 最初は戸惑っていた冒険者達も顔を見合わせて頷くと武器を置いて地面に腰掛けた。


 ベリスは鞄から先日非常食に採取したリングミの実を取り出し彼らに振る舞った。


「あげる!お腹空いたでしょ?」

「いいのか?俺らはあんたらを…」

「こっちも殴っちゃったしお互い様だよ」

「あ、ありがとう…」

「そうだ!聞きたいこともあるし食べながらお話しようよ!」



 それからしばらくしてリロイとヒーリアが自警団と思わしき兵士を数人引き連れて戻ってきた。


 そこで事情を全て話し主犯であるドーブラが深手を負って逃走したことが分かるとベリス達はすぐに解放された。


 その後薬草集めは問題なく完了。


 三人は依頼達成の報告をするためイッチバ目指して夕暮れの街道を歩いていた。


 その道すがら、彼らのことを話す機会があった。


「薬草を摘んでるところを襲われて従わされてたそうです。あの人の命令で他の冒険者を襲ったり泥棒なんかもしてたって言ってました」

「あいつはそうやって若い芽を摘んで食い物にしてやがったんだ。冒険者の風上にも置けねぇクズだよ」

「あの人達大丈夫でしょうか?」


 後ろを歩くヒーリアが悲しそうに呟く。


 あの後彼らは自警団に逮捕された。


 脅されていたとはいえ罪を犯したことに変わりはないからだ。


「理由はどうあれ罪は罪。しばらくは檻の中だ」

「いつかやり直せたらいいですね!」

「だなっ!」

「…私達もあぁなっていたかもしれないんでしょうか?」


 ヒーリアの問いにリロイが徐ろに立ち止まる。


 二人が何事かと首を傾げているとリロイは振り向かずに話し始めた。


「最後の問題だ。冒険者に必要なものってなんだと思う?」

「力を合わせて戦う強さ!」

「正解!」

「怪我や病気をせず健康でいること、ですか?」

「それも正解!だが、大事なものが足りてねぇ」

「大事なもの?」


 疑問符を浮かべながらヒーリアと顔を見合わせる。


 リロイは肩越しに振り返り歯を見せて笑いながら言った。


()()

「運、ですか?」


 軽く頷いて再び歩き始める。


 夕暮れに照らされたその背中は見た目よりも大きく見えた。


「悪意あるベテランに会ったばかりに奴らの人生は狂わされちまった。運がなかったってだけでな」


 ”お前さえいなきゃ俺達は冒険者でいられたんだ!”


 冒険者の一人が叫んだ言葉を思い出す。


 ドーブラにさえ会わなければ今の自分達のように依頼を終えて帰れたかもしれない。


 不運がその未来を奪ってしまったのだ。


「どれだけ力を付けて準備を整えても運ってやつが全てをひっくり返すこともある。神は乗り越えられる試練しか与えねぇなんて嘘っぱちだ。あいつらがドーブラに勝てるわけねぇ」


 自分が勝てたのは万全な状態で旅立ったからに他ならない。


 いざとなれば王家の剣もあったし父と祖父を守ってきた鎧もあった。


 それら全てを揃えられたのは周りの人達が力を貸してくれたから。


 何よりそんな人達に恵まれるという幸運があったからだ。


 それらがなくても勝てただろうか?


 答えはNOだ。


「これから先、君らは冒険者としてより多くの依頼をこなしていくだろう。そうなったとしてもこれだけは忘れないでくれ」


 そこで言葉を切る。


 一拍置いて振り返ったリロイは二人に真剣な眼差しを向けて言った。


「冒険できることは当たり前なんかじゃない。薬草集めすらできずに消えていく奴もいるんだってな」

「…っ!はいっ!絶対に忘れません!!」

「リロイさん。何から何まで本当にありがとうございます」

「はっはっは!!いいってことよ!うっし!帰ったら初依頼達成パーティーだ!今夜は奢るぜぇ!」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

「ありがとうございます」

「組合の料理すっごく気になってたんです!よーっし!食べるぞぉーっ!!」

「ははっ。お、御手柔らかに頼むぜ…」


 三人は高らかに笑いながら帰路につく。


 初めての依頼をこなし凱旋気分で歩くベリス達を見つめるのは沈み行く夕日と…


「…?」

「どうかしましたか?」

「…ううん。なんでもない」


 もう一人



「あたしに気付いた…?」


 ベリス達を見送るように街道に佇む一つの影。


 その姿が完全に見えなくなった頃、それは口元に笑みを浮かべて歩き始めた。


「いいね。使えそうだ」

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