波乱の初依頼 ③
「えっと、どうも…」
困惑しながらも差し出された右手を反射的に握る。
「あなたは…」
突然割り込んできたその人物に見覚えがあった。ついさっきこちらを見ていた栗色の髪の男だ。
その胸に輝く等級章はブゥトゥン。恐らくベテランの冒険者だろう。
「うん?どっかで会ったか?」
「いえ。はじめまして!ベルナリスです!」
「ヒーリア、です…」
「リロイだ!よろしくな!」
リロイと名乗った男性は再び快活な笑顔を見せた。
「依頼を受けるのか?」
「いえ。今日はもう休むつもりです」
「いい判断だ。無理をしないのが長続きの秘訣だからな」
「てめぇ!何しやがる!?」
「最初の依頼は何にするんだ?」
「薬草集めです。今はまだ戦えませんし基本から少しずつやりたいので」
「いいねぇ!ルーキーらしからぬ謙虚さだ!きっと出世するぜ!」
「ありがとうございます!」
「おい!無視す…」
「うるせえええっっ!!」
突き飛ばされた男達を無視して話を進めていたリロイだったがついに堪忍袋の緒が切れたらしい。
勢いよく振り返りいつの間にか手に持っていた短い筒のようなものを男の顔に突きつけた。
「ま、魔鋼銃!?」
リロイが持っているそれを知識としては知っている。
元素の力が長い年月をかけて結晶化した鉱石、【魔石】。
それを精錬するとより純粋な元素の力を持つ物質、【魔鋼】ができる。
魔鋼に魔術の術式を刻んだ核を組み込んで作られたのが引き金を引けば魔術を撃てる武器、魔鋼銃だ。
「その口でさよなら垂れるか炎弾ぶち込まれるか今すぐ選べ!!」
「さ、さいならーーっっ!!」
「ひぃっーー!!」
魔鋼銃とリロイの気迫に圧されたのか男達はあっさりと逃げ出した。
「ったく!骨のねぇ奴らだ」
リロイはその背を見送りながら腰のホルスターに魔鋼銃をしまう。
「か、かっこいい…!」
その姿はまさに思い描いた冒険者そのものだった。
「ベルナリスちゃん、ヒーリアちゃん。いきなりで悪いがしがないおっさんのお節介を聞いてくれないか?」
「お節介?」
「明日薬草集めに行くんだろう?それに付き添わせてくれないか?」
「えーっと…」
「嫌なら断ってくれ!こんなおっさんに付き纏われたら迷惑だよな」
「そうじゃないんです。なんでそこまでしてくれるのかなって…」
「そりゃそうだな。ちょっと待っててくれ」
リロイは着ていたノースリーブのジャケットの内ポケットから一枚の真画を取り出して二人に見せた。
ベリスがそれを覗き込むとヒーリアもベリスの背から顔を出して真画を見る。
そこにはリロイとリロイに似ている男性、年配の女性、そして並んで快活な笑顔を見せる二人の少女が映っていた。
一人はリロイと同じ栗色の髪をした黒目の少女、そしてもう一人はくすんだ鼠色の髪を後ろで三つ編に編んだ緑がかった青い瞳の少女。
「シーナとニエラだ」
名前を言いながらそれぞれを指差す。
栗色の髪の子がシーナ、鼠色の髪の子がニエラというらしい。
「かわいい!」
「だろぉっ!」
「娘さんですか?」
「どっちも違う。シーナは兄貴の、ニエラは知り合いの子だ。血は繋がってないが大事な娘だよ」
「そうでしたか…」
「君らを見てたらシーナ達を思い出しちまってな。余計なお節介かもしれないが初依頼を無事に済ませて欲しいって思ったわけよ」
「だってさ。どうする?」
ベリスとしてはその話を受けるのは吝かではない。
ここまでの行動と言動の中に一切の悪意は感じられず嘘を言っているようには見えなかったからだ。
だが、ヒーリアが断るなら断るつもりでいる。
先ほどの行動から分かるように男性に対して並々ならぬ恐怖を抱いているからだ。
悪意ある人間に無理矢理攫われ売られそうになった恐怖は一朝一夕で払拭できるものではない。
「えっと…」
話を振られたヒーリアは顔を伏せてしばし口を噤む。
それを急かすことなく待っているとやがて顔を上げて小さく頷いた。
「お、お願いします…」
「おうっ!明朝ここに集合だ!待ってるぜ!!」
「はいっ!」
待ち合わせの約束を交わすとリロイは満足げに組合を出る。
ベリス達も翌日の冒険に備えて今日の宿を探しに行くのであった。
-翌日-
組合でリロイと待ち合わせ薬草集めの依頼を受けた三人はイッチバの近くにある草原地帯へとやって来た。
本日は快晴。
運よく天候にも恵まれ雲一つない晴天がベリス達の第一歩を祝福するように広がっていた。
「うーん!今日もいい天気!」
「おう!絶好の薬草日和だな!」
「あははっ!薬草日和ってなんですか!」
「ふふっ」
これが依頼だということを忘れそうになるほど和やかな空気が三人を包み込む。
「ベルナリスちゃん、ヒーリアちゃん」
「あっ、ベリスでいいです」
「ちょっと説教臭ぇこと言ってもいいか?」
「なんですか?」
「なんで最初の依頼が薬草集めか分かるか?」
「えっと…」
駆け出し冒険者が最初にやる依頼と言えば薬草集め。
その認識が当たり前すぎて考えたことがなかった。
折角生まれた気付きなので頭を捻って理由を考えてみる。
「…危険が少ないからでしょうか?」
最初に答えたのはヒーリアだった。
「惜しい」
「危険が少ない仕事で依頼の流れを覚えるため、ですか?」
「近い!だが一歩足りねぇ」
「うぅ…」
「意地悪なこと聞いちまったな…。答えは薬草集めには冒険者のいろはが詰まってるからだ」
「「 冒険者のいろは?」」
リロイは腕組しながら神妙な面持ちで頷いた。
「薬草集めの流れは大きく分けて3つ。探索、採取、納品だ。ここまでは分かるな?」
二人はほぼ同時に頷く。
「だが実際はもっと細かい要素が絡んでくる」
「細かい要素?」
「例えばだ。薬草を摘んでる最中に魔物が出たとする。それに気付かなかったらどうなる?」
「襲われます」
「そうだ。そうならないようにするにはどうすればいい?」
「見張りを立てて魔物を警戒します!」
ベリスが答えるとリロイはにやりと笑った。
「正解だ!じゃあ魔物に見つかってそいつが自分らより強かったら?」
「逃げます…」
ヒーリアが自信なさげに答えるとリロイは満足そうに何度も頷いた。
「それでいい!もっと自信を持て!」
「いいんですか?」
「おう!俺が尊敬する人もこう言ってたぜ!勝てなかったら…」
「勝てなかったら逃げろ!ですよね?」
それを聞いたリロイは訝しげな視線をベリスに向けた。
「誰から聞いた?」
「お父さんが言ってました」
「そうか。なぁ、君の親父さんって…」
「あっ!ありました!!」
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