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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
20/47

波乱の初依頼 ②

 ペンにインクを浸し用紙に目を通す。


 それはパーティー名やそこに所属する者達の名前を書くだけの簡素なものだった。


「ヒーリアって家名はないの?」

「はい」


 それを聞いてまずはヒーリアの名前を書く。


 次に自分の名前。


 再度インクを浸しながら昔パライトに言われた言葉を思い出す。


【家名は良くも悪くも人を引き寄せまする。名乗る際は慎重になられよ】


 名前ばかりが目立ってしまっては意味がない。今はその時ではないと名前だけを書く。


「違うんだ…」


 その様子を後ろで見ていたヒーリアがか細い声で呟いた。


「何が?」

「へっ!?えっと…ベリスさんって、お貴族様じゃないんですね」

「貴族!?」

「すごく品があって言葉遣いが丁寧な時があるのでそうなのかなと…」

「ううん。そんなんじゃないよぉ」


 一応王族だからね…


「もしかして、貴族だと思ってたから敬語使ってたの?」

「いえ。こっちの方が落ち着くからです」

「そっか。じゃあ話しやすい方でいいよ」

「はい!」


 誤解も解けたところで話はパーティーの名前に移る。


「名前はどうするんですか?」

「うーん…。保留!」

「保留!?」

「大事な名前なんだもん。無理して決めるのもよくないかなって」

「そうですね。今考えろって言われても全然思いつきませんし…」

「あははっ!わたしも!」


 パーティーの名前は謂わば冒険者をやっていく上での看板。


 変な名前をつければたちまち笑い者にされるし即興で付ければ後々後悔することになる。


 それならもっと仲間が増えた上で話し合って決めた方が納得いく名前になるかもしれない。


 名前のことは一先ず保留にして書類を提出しようと歩き出したベリスは壁に貼ってある真画に気づいた。


「ん?」


 そこにはお尋ね者!生死問わず!等物騒な文面が踊りその下には金額と思わしき数字が書かれていた。


 賞金首の手配書だ。


「居座りのマリデル、初心摘みのドーブラ、盗掘のケイモス…」


 そこに書かれている名前を読み上げていっていると一枚の真画が目に入った。


 それは唯一の生け捕り限定賞金首。


 驚くべきはその懸賞金だ。


「に、2000万ゴードぉっ!?」

「えぇっ!?」


 その多くが百万以下、高くてもニ百万に満たない賞金首が並ぶ中唯一の一千万超え。


 あまりにも法外な懸賞金に面食らいながら再度手配書を見る。


 そこに描かれているのは自分とそう変わらない年頃の少女だった。


 氷のような彩度の高い青髪を棚引かせ湖畔のような淡い青色の瞳を持ったとても美しい女性。


 特に目を引くのがその前髪。


 前髪の一房だけが鮮血の如き赤に染まっているのだ。


「んっ?この人、どこかで会ったような…」

「本当ですか!?」

「どこだったかなぁ…?」


 名前を見れば分かるかもと少女の名前を見る。


「ヨシュテア?」


 頭の中で反芻させるが結局思い出すことはなかった。



 用紙に必要事項を書き終え早速提出する。


 用紙を受け取った受付嬢は記入漏れがないことを確認すると恭しく一礼した。


「ベルナリスさんとヒーリアさんですね。承りました!」

「あのっ、パーティーの名前って今決めなきゃダメですか?」

「いえ。いつでも構いませんよ」

「良かったぁ…。ゆっくり話し合って決めたいと思います!」

「いい名前が浮かぶといいですね」

「はい!」


 受付嬢は柔和な笑みを浮かべると再び引き出しを開く。


 今度は球の形をした勲章のようなものを二つ取り出した。


「こちらはご存知でしょうか?」

「はい!等級章(とうきゅうしょう)ですよね?」

「等級章?」


 首を傾げるヒーリアに受付嬢は穏やかな口調で説明する。


「その冒険者がどれほどの実力かを示す指標のようなものです。これはグレンヌの等級章。古代の言葉で種という意味です」


 そう言いながらグレンヌの等級章とは違う四つの等級章を引き出しから取り出しテーブルに並べた。


「種…」

「どんなものも種から始まるって意味が込められてるんだって。そこから芽のブルジョン、蕾のブゥトゥン、花のフルール、そして果実のフリュイっていう風に等級が上がっていくの。等級が上がれば受けられる依頼も増えるんだよ」

「全部言われてしまいましたね…」

「わぁっ!すみません!」

「よく調べていただけたようで嬉しい限りです」

「えへへっ」

「ということはフリュイが強い冒険者ってことですか?」

「そう捉えてもらっても構いません」


 少し含みのある言い方に引っかかりを覚えるも等級章を渡された嬉しさがそれをかき消した。


「ようこそ冒険者の世界へ。今日から貴女達は冒険者です。内に秘めた信念と憧れを忘れず昨日の自分に誇れる自分を目指して頑張って下さい!」

「はい!」

「が、頑張ります!」

「次にこちらですが…」


 そう言うと受付嬢はニ枚のカードのようなものを提示した。


 それは冒険者組合の名前と紋章、そして自分達の名前が書かれただけのとても簡素なものだった。


組合証(くみあいしょう)だ!」

「組合証?」

「えっとね…あっ、お願いします」

「ふふっ。組合の冒険者であることが証明するための身分証です。これは仮の組合証。本物は各種手続きが済み次第発行致しますので少々お待ち下さい」

「はい!」

「依頼を受けるのであればそちらの掲示板をご覧下さい。組合証が発行されるまでは魔物の討伐といった戦闘を要する依頼は受けられませんがそれ以外のグレンヌ級の依頼は全て受けられます」

「はいっ」

「冒険、頑張って下さい」

「「ありがとうございます!!」」


 示し合わせたわけでもないのにほぼ同時に頭を下げる。


 タイミングがぴったりだったことに気付いて顔を見合わせているとなんだか可笑しくなって自然と笑みが零れてくる。


「ふっ、ふふ…!」

「あははっ!」


 いい仲間に巡り会えたかもしれない


 まだ始まったばかりでこの道の先に何があるか分からない。


 それでもこんな些細なことで笑い合える仲間がいればどんな茨の道でも笑って歩けるだろう。


 新しい仲間、始まったばかりの夢、叶えたい父の理想。


 その全てが動き出した今日この日をきっと忘れることはないだろう。


「いこっ!ヒーリア!」

「はいっ!」


 ヒーリアの手を取り新たな一歩を踏み出す。冒険者ベリスの冒険が今ここに幕を開けた。



「見るだけ見て宿に行こっか。疲れたでしょ?」

「はい。なんだか締まらないですね」

「いいのいいの。無理は禁物だってお父さん言ってたもん」


 冒険は始まったばかりだが今日から冒険する必要はない。


 ベリス一人なら逸る気持ちのままに依頼を受けたかもしれないが今はヒーリアもいる。


 ここまで歩き詰めで疲れている彼女を連れ回すのは流石に忍びない。


「そうなんですか。ベリスさんのお父さんってどういう…」


 大事を取って今日は休もう。そう思いながら依頼を見ていたその時だった。


「よぉ、お嬢ちゃん達」


 かけられた声に振り返ると如何にもと言った人相の悪い男達がこちらに近づいてきた。


「っ!!」


 攫われそうになった恐怖が蘇ったのか怯えた表情で縮こまるヒーリア。


 そんな彼女を庇うようさり気なく前に立つと男達はにやついた笑みを浮かべ…


「はいだらあああっっ!!!」

「ふげえぇぇぇっっ!!!??」


 横から文字通り割り込んできた何者かに渾身のタックルをかまされて吹き飛ばされた。


「えっ?」


 予想外の事態に呆気に取られているとタックルをかました人物が爽やかな笑顔と共に近づいてきた。


「ようルーキー!冒険者の世界へようこそ!」

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