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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
見果てぬ夢の胎動
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勇者の娘 ②

パラポンの家はファマリ村近くの森の中にある。


パラポンは隠居同然の生活をしているのに酒や食料を持ってこいと度々頼んでくるわがままな老人でそれはいつもベリスの役目。


呼び出されれば道なき森の中を歩いて向かうことになる。


それでも迷わずたどり着けるのは目印として木に巻かれた赤色の布のおかげだ。


それを頼りに進むこと数分。通い慣れた小屋が見えてきた。


パラポンの小屋は森の中にある少し開けた場所にあり、ここで小さな畑を耕したり近くに住む動物を狩って自給自足に近い生活を送っている。


家の近くを見渡すも彼の姿はない。


恐らく中にいるのだろう。


家に近づきドアを軽くノックする。


「パラ爺~?きたよー」


声をかけるも返事はない。


「お邪魔しまーす…」


一声かけてドアを開ける。


光源のない薄暗い部屋には誰もおらず淀んだ静寂が最低限の家具しかない殺風景な部屋に充満していた。


留守かな?


そう思いドアを閉めようとした次の瞬間…


「隙ありぃっ!!」

「っ!?」


頭上から声と共に何かが降ってきた。


声ではなく気配で存在を察知し咄嗟に両腕を高々と掲げる。そしてタイミングを合わせて両手を合わせるように勢いよく閉じた。


手が打ち合う甲高い音が響く。その音が止む頃、ベリスの両手にはどこにでも落ちているような木の棒が挟まっていた。


天井からベリスを強襲した老人、パラポンは髭に覆われた口元をにやりと歪めて棒から手を離した。


「おはようパラ爺!もぉーっ、いっつもこれなんだからぁ」

「ふむ。及第点じゃな」

「きゅーだい?」

「まだまだっちゅーことじゃ」

「じゃあどうすればいいの?」

「止めるだけなら三流でもできる。反撃してこそ一流よ」


パラポンはからからと笑いながら木の棒を壁に立てかける。


これは今に始まったことではなく初めて家を訪ねた時から今日まで欠かさず行われてきた。


時には正々堂々正面から、時には背後からと手を変え品を変えて行われる不意打ちに何度泣かされたか分からない。


「して、何用じゃ?」

「…もしかして、ボケちゃった?」

「失敬な!わしはまだピンピンしとるわ!!」

「パラ爺が呼んでるってお母さんに言われたんだけど」

「何?」


怪訝な顔で話を聞いていたパラポンはたっぷりと蓄えられた顎鬚を撫でながら何かを思案し始めた。


「…様も無茶を仰る」

「パラ爺?」

「…おぉ!おぉ!!待っておったぞベリス!実は新しい特訓を思いついてな!早速やらせようと思っておったんじゃ!」

「えぇ…」


ベリスは露骨に渋い表情を見せた。


パラポンは嫌そうな態度を隠そうともしないベリスなどお構いなしに話を進める。


「今回は鎧を纏って歩く特訓じゃ!素振りの後に始めるぞ!」

「なんで鎧!?」

「身を守るために鎧は不可欠!じゃが慣れぬ者が着たところで重しにしかならん。その重さに慣れるための特訓じゃ!ほれ、さっさと準備せい!」

「私鎧なんて着ないよ?」

「冒険者になりたいんじゃろう?」

「…っ」


それを聞いて言葉に詰まる。


その夢は母にも話したことがない二人の秘密。そう言われるとどうにも弱い。


「お父さんもこれやったの?」

「どうじゃったかのう?もう覚えておらんわ」

「そっか。…ねぇパラ爺?」

「なんじゃ?」

「お父さんは14歳で冒険に出たんだよね?」

「うむ。懐かしいのぅ…。昨日のことのようじゃわい」


さっきは覚えてないって言ったくせに…


「私も後2年で冒険に出られるかな?」

「無理じゃな」

「即答!?」


淡い期待はすっぱりと切り捨てられた。


「彼奴は何もかもが規格外じゃった。今のお主では到底及ばぬわ」

「あぅ…」


生前の父を鍛えた張本人が言うのだからぐうの音も出ない。


「そうだよね…。お父さんすごい人だったもんね」

「そう気を落とすな!お主ならいつか冒険者になれる!」

「…っ!うん!ありがとう!」

「分かったなら早速特訓じゃ!ほれ!準備せい!」

「うん!」




「はぁっ、はぁっ…。つ、疲れたぁ」


長きにわたる特訓が終わり疲れた体を引きずるように帰路につく。


今日の特訓はとてもハードな内容だった。


特訓はいつも鉄のように重い木剣を使った素振りから始まる。


初めは重さに振り回されたものだったが今では問題なく振れるようになった。


厳しかったのは新しい特訓だ。


鎧の代わりと言って渡されたのは腰の辺りに木を編んで作られた蜂の巣のような大きな重りがついた奇妙な形の防具だった。


鎧という割には胸の辺りが軽いそれはあまりに重く立つだけでも一苦労。


本当にきついのはここからだ。


それを着たまま頭に本を乗せて落とさないように動けというのだ。


歩いたり座ったりと動き自体は簡単なものだったが動くことすらままならない重い防具を着て本を落とさないようにしなければならないので動くことすらままならなかった。


「お父さんってすごかったんだなぁ」


記憶に残る父があんなものを着ているのを見たことがない。きっと昔は着ていたのだろう。


「ふぅ。あー、涼しい…」


日が傾き茜色に染まったファマリ村に一陣の風が吹き抜ける。


夏が終わり暑さが引いてきた夕暮れの風は激しい特訓で汗ばんだ体を心地よく冷やしてくれる。


汗を流しに湖に行きたかったが今から水浴びするのは流石に寒い。


明日の昼にでも行こうと予定を固めているとあるものが目に入る。


それはロングコートを着た男性だった。


荷物を担ぎ村を見回している男性はこの辺りでは見かけない顔だった。


お客さんかな?


男性のことをしげしげと眺めているとその視線に気付いた男性がこちらに歩み寄ってきた。


「失礼。君はこの村の住人かな?」


男は柔和な笑顔を浮かべて尋ねる。


「えっ?はい」

「この辺りにシャルステッド様のご家族が暮らしていると聞いたんだが、何か知らないかい?」

「あっ!それうちです!」

「えっ?」


いきなり見つかるとは思っていなかったのだろう。男の顔に驚きの色が浮かんだ。


「シャルステッドはわたしのお父さんです!」

「そうか。早速で悪いんだけど、良かったら君の家に案内してくれないか?話したいことがあるんだ」

「はい!こっちです!」


ベリスが先導すると男はその後をついてきた。


家に着いてドアをノックすると程なくしてフォルナが出迎えてくれた。


「おかえりー。遅かったじゃない」


ベリスを出迎えたフォルナの視線がその後ろにいる男に移る。


「その人は?」

「お客さんだよ!話があるんだって」

「お初にお目にかかります」


そう言うと男は一歩前に出てベリスの横に並んだ。


「私はベイアーと申します。失礼ですが、シャルステッド様の奥様でしょうか?」

「はい。フォルナです」

「今日は貴女にお話があって伺わせてもらいました。単刀直入に言います…」




「シャルステッド様が遺された剣を私に託してはもらえないでしょうか?」

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