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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
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第四話 波乱の初依頼 ①

馬宿を出発しイッチバを目指すベリス一行。


適度に休憩を挟みつつ道中見つけた洞穴で野宿をしたりと進行は緩やかながらも順調な旅路だった。


…ある一点を除いて。


つけられてるなぁ…


「ベリスさん?」

「ん?…んんーーっ!今日もいい天気だね」

「はい。こんな日はお昼寝したくなっちゃいますね」

「いいねぇ。しちゃう?」

「魔物に襲われちゃいますよ」


軽い雑談で誤魔化しつつ背後に視線を向ける。


順調な旅路に水を差す悩みの種。それは誰かが自分達を尾行していることだった。


修行のおかげで敵意や気配に人一倍敏感になったベリスにとって背後からついてくる追跡者は奇妙な存在だった。


敵意がまるでないくせに気配を消すのがうますぎるのだ。


横で春の日差しを浴びてほっこりしているヒーリアが全く気付いていないのがいい例だ。


相手に悟られないよう気付かないふりをしつつ街道や平原など遮蔽物がなく隠れづらい場所を選んで歩いているにも関わらずその姿を拝めない。


目的は分からないが自分達をすぐにどうこうする気はないらしい。


人間か魔物かは分からないが今すぐ襲ってこないなら泳がせておこう。


そう判断し歩き続けること一時間。反撃の機会は突然やってきた。


「あっ!」

「ベリスさん?」


街道を歩いていたベリスはあるものを見つけて駆け寄る。


それは街道の脇に生えた木。


そこに実る炎のような赤に色づいた掌に納まるほどの楕円形の木の実に見覚えがあった。


「リングミだ!」

「リングミ?」

「美味しいんだよ!食べる?」

「えっと、はい…」

「ちょっと待ってて!」


ヒーリアが頷くのを確認したベリスは早速リングミを取るべく木に向かって駆け出し表皮を蹴って垂直に跳び上がる。


「はやっ!?」


ヒーリアが驚いている間にもベリスはするすると木を登り生い茂る葉の中からリングミの実をいくつかもいで飛び降りた。


「はいっ!」

「ありがとうございます!…っ!甘酸っぱくて美味しいです!」

「でしょー?」


美味しそうに食べるヒーリアを微笑ましげに見つめながら自分もリングミを食べる。


軽い歯応えの後に甘酸っぱく瑞々しい果汁が口いっぱいに広がっていく。


リングミはこの季節に実をつける木の実でファマリ村でも春の貴重な食料だった。


生のままでもいけるが塩や砂糖に漬けて保存食にもできる優れものだ。


非常食用にと鞄にしまっているところで一つの実が目に入る。


意識を研ぎ澄まし気配を探る。


柔らかな春の日差し、春風に揺れる葉擦れの音、穏和な空に響く小鳥の音色。


その中に潜む漆黒の不和。


穏やかな空間にそぐわぬ気配の方角を確認し…


「ふっ!!」


その方角目掛けてリングミを投げた。


「ベリスさん!?」

「魔物が見えた気がして。気のせいだったみたい」

「そうでしたか。…あのっ、もう1つもらってもいいですか?」

「うん!」


食料に少し余裕ができたことを喜び合いながら二人はイッチバを目指す旅に戻る。


その途上、ベリスは肩越しに振り返り小さく呟いた。


「大事に食べてね…」




ファマリ村を出てから二日。


二人はついに最初の目的地であるイッチバの街にたどり着いた。


「わぁっ!」

「街!街ですよ!」


道を行き交う人々を目で追いながら興奮気味に叫ぶヒーリア。


街の規模は王女教育のために暮らしていた街よりは小ぢんまりとしたものだったがファマリ村と比較すればその規模は十倍以上あるのではないだろうか。


ファマリ村ではまず見かけないレンガを惜しげもなく使った家が立ち並び通りには食料や服などの日用品を売る露店が立ち並んでいる。


街を行く人々はお祭りでもないのに活気に溢れそこかしこで楽しそうに談笑する姿が見受けられた。


中には防具に身を包み武器を携えた冒険者と思わしき人間もいてここに組合の支部があることを実感できた。


「大げさだなぁ」

「すみません。街を見るの久しぶりなので…」


ヒーリアの旅は想像よりも過酷だったらしい。


改めて彼女の窮地に駆けつけられた幸運に感謝するベリスだった。


「どうする?疲れてるなら明日でいいよ」

「行きましょう!組合を見てみたいです」

「決まりだね!よーっし!いっくぞーー!!」

「はいっ!」


ついに間近にまで迫った冒険者への第一歩に期待を膨らませながらイッチバの街を行く。


街の入り口にあった地図によると冒険者組合の支部は繁華街の一角にあり、所謂飲み屋街に建っていることもあって酒場も兼任しているという。


お酒は飲めないけど美味しいご飯があるかもしれない。


もう一つの楽しみが生まれたところでついに冒険者組合の支部へとたどり着いた。


看板にはそう書かれているが外観は周りにある今は閉店中の酒場とそう変わらない。


冒険者風の出で立ちをした人達が次々出入りしているのでここで合っているのだろう。


息を呑み、扉を開ける。


「…っ!」


その先には長年憧れ続けていた理想の光景が広がっていた。


「はい!承りました!頑張って下さい!」

「よし!行くぞお前ら!!」

「あの野郎!ブルジョンのくせに調子に乗りやがって!!」

「そう思うならさっさとフルールになっちまえよ」

「うるせぇ!!」


依頼を受けて冒険に出発する者、酒を飲んで愚痴を零す者、次の依頼に向けてテーブルを囲んで作戦会議をする者達。


その光景はまさにベリスの頭の中にあった冒険者のイメージそのものだった。


「…っ!!」


胸にぐっと力を入れて大きく息を吸う。


それだけでこの場の一員になれたようで少し誇らしくなった。


早速登録しようと受付に向かう最中、こちらに視線を向ける一人の男性と目が合った。


栗色の長髪を後ろで一本に縛り防具を極力身につけない動きやすい装備に身を包んだ壮年の男だ。


どこかで会ったかと首を傾げているうちに受付に到着。


受付を担当している女性が柔和な笑みを浮かべて快く応対してくれた。


「ようこそ冒険者組合へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「すみません。登録を行いたいのですがよろしいでしょうか?」


こういう時どう話を切り出せばいいのか分からなかったので相手に角が立たなさそうな王女モードで対応する。


「は、はいっ!少々お待ち下さい!」


どうやらこれは大げさすぎたらしい。


受付嬢は背筋をまっすぐ伸ばして何度も頷くとテーブルに備えつけられた引き出しから一枚の用紙を取り出した。


「この用紙に必要事項を記入して下さい!」

「はい!ありがとうございます!」


王女モードを引っ込めてお礼を言うと受付嬢はまるで魔物か何かに化かされたかのような表情で用紙を持って下がるベリス達をじっと見送った。


「ベリスさんって…いえ。なんでもないです」

「…?」


その先が気になったが今は記入が先だと組合の一角にある書き物のためのスペースに向かった。


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