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【勇者の子供たち】は時々世界を救う  作者: こしこん
ベリス -青嵐の冒険者-
18/47

EX もう一つの序曲

休憩を取ることにしたライブロック一座は水場に馬車を停めて思い思いの時間を過ごしていた。


川で水を飲む者、暖かな春の日差しを浴びる者、次の舞台の打ち合わせをする者。


一人一人に特別な時間が流れる中、ラニは馬車に残って楽器を磨いていた。


「ふぅっ」


額に滲む汗が楽器に落ちないようハンカチで拭いながら作業に没頭する。


そんなラニの背に誰かが声をかける。


「ラニ!」


振り向くと髪を派手な色に染めて奇抜な形に固めたお世辞にも柄がいいとは言えない男がいた。


男はにやついた笑みを浮かべながらラニに近づき…


「えらいぞラニぃっ!」いっつも綺麗にしてくれてありがとな!」


大きな手をラニの頭に乗せてグリグリと撫で始めた。


「リリップさん。痛いですぅ…」


リリップと呼ばれた男は見ている満面の笑みを浮かべながらラニを力いっぱい撫で回す。


ちょっと力が強くて痛い時もあるがこうして撫でられるのは大好きだ。


「いい子にはご褒美だ!ほらよ!」

「ありがとうございます!」


リリップはポケットから取り出した包み紙に包まれた何かをラニに手渡す。


うんと褒めた後は決まって飴をくれる。


見た目は厳つくて怖いがラニはこの年の離れた先輩が大好きだった。


「リリップ!邪魔すんじゃないよ」


突如かけられた声に振り返ると煙管を燻らせる老婆の姿があった。


彼女こそがこのライブロック一座の座長、フェスティマだ。


「楽器は一座の命だ!一拭きたりとも怠るんじゃないよ!!」

「はいっ!」


ラニが頭を下げるとフェスティマはふんと鼻を鳴らして立ち去った。


「なんでぇ。ちょっと話してただけじゃねーか。気にすんなよラニ」


リリップはその背中を目で追いながら不満げに呟く。


「座長の言う通りです。磨くってただ綺麗にするだけじゃないですから」

「恩人だからって何でもはいはい聞いてちゃダメだぜ。たまにゃガツンと言ってやんねぇとな!」

「あんだって?」

「なんでもねっす!!」


ひょっこりと現れたフェスティマに態度を急変させるリリップに思わず苦笑する。


楽器を磨く手を止め、少し黒ずんできた布を見ながらフェスティマの言葉を反芻する。


彼女の言う通り楽器は一座の命。それを生半可な気持ちで扱うことは許されない。


こうして楽器磨きができるようになったのもつい最近のこと。先輩達のつきっきりの指導があって初めて任されるようになった。


【楽器は生き物。その時々で体調が変わるからつきっきりで診てあげなきゃいけない】


楽器磨きを教えてくれた先輩の言葉だ。


楽器磨きはただ楽器を綺麗にするだけでなく楽器の不調を見つける時間でもある。


その不調を見逃して本番に支障をきたせば気付かなかったでは済まされない。


「今はなんでも取り込みたいんです。もっとうまくなるって約束したから…」

「約束?」

「ちょっと顔洗ってきます!」

「お、おぅ」


楽器磨きを一時中断して川に向かう。


昨日眠れなかったせいで少し眠い。こんな状態で続けたら不調を見逃してしまうかもしれない。


川の水を掬い押しつけるように顔にかける。水は身震いするほど冷たく眠不足でわずかにぼんやりしていた頭を引き締めてくれた。


「帝国にも行きたかったよなぁ」

「しょうがねぇよ。そんな時間ないんだしさぁ」


談笑する座員達の声が耳に届く。


今回の旅は十月に王都で開催される記念祭に向けた宣伝を兼ねたもので当初はカヌレーニュ王国領だけでなくアメレア大陸の北方にあるオランジエール帝国まで足を伸ばす計画もあった。


しかし時間と予算を考えて王国領のみを周遊することとなったのだ。


帝国でも歌いたかったな…


帝国に後ろ髪引かれる思いはあるが座長の決定なら従う他ない。


今ある環境の中で自分ができることを精一杯頑張ろう。


約束と決意を胸に両手を胸の前でぎゅっと握り締めた…その時だ。


「おい!なんだあれ!?」


座員達が俄かに騒ぎ始めた。


何事かと辺りを見渡すも異常は見当たらない。首を傾げていると空から風を切るような音が近づいてきた。


その音に顔を上げ…それと目が合った。


自分の二倍はあろうかという巨大な鳥の魔物と。


「えっ?」


置かれた状況を理解するもすでに遅し。ラニの両肩は太い鉤爪が生えた両足にがっちりと掴まれ…


「きゃあああああああああああああっっ!!?」

「ラ…ラニいいいいいいっっ!!??」


瞬く間に大空へと連れ去られてしまった。



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