55話─難攻不落、玄武の守り
「ハーッハハハァ!! くたばりなぁぁぁ、ウォォォン!!!」
「最大出力! ド派手にバリバリ命を散らせぇぇぇぇぇ!!」
「グルギシャアアア!!」
「ビババリィィィ!!」
逃げられないウォンに対し、一方的に大量の電撃を浴びせたパルジャとカンディ、そして本契約モンスターたち。
ウォンの身体からは黒煙が立ち昇り、甚大なダメージを受けていることが容易に見て取れた。ここまでやれば、もう死んだだろう。
自分たちの勝利を確信し、拘束を解く二人。だが……恐るべきことに、まだウォンは死んではいなかった。
「ぐ……ギリギリで、耐え切れたか。契約したのが頑強なモンスターで良かった……」
「ハァ!? おいおいおい、嘘だろお前!? なんで今ので死んでねえんだよ!? 常人ならオーバーキルだぞ!」
「なに、こいつ……実は人の皮を被った化け物……とかなの? ちょっと理解が追い付かない……」
確実に殺せたはずなのに、何故目の前の男は生きているのか。あまつさえ、サモンカードを取り出し装填する動作を出来ているのか。
あまりにも現実離れした光景に、二人は暗殺者としてあってはならない致命的なミスを犯した。例え耐えきったとしても、今のウォンは瀕死。
即座に動き、トドメを刺せば今度こそ息の根を止めることが出来たのだ。だが、二人は動揺からその選択を取れず……敗北が決定する。
『ヒールコマンド』
「ぐっ……ふう。感謝するぞ、ファンシェンウー。頭一つ抜けた耐久力を持つお前と、幼少からの鍛錬で鍛えてきた俺の頑強さ。二つが合わさったからこそ、奴らの奥義を耐えられたのだから」
『ふるっふしゃー』
脱皮する白蛇の絵が描かれたサモンカードの力で、ウォンは致命傷を即座に完治させた。激しい電撃を浴びたのが嘘のように、身体には傷一つない。
「あ、あり得ねえだろ!? てめぇ本当に人間なのかよ!?」
「ああ、俺は人間だとも。ま、子どもの頃から虐待なんて言葉じゃ済まない鍛錬を繰り返してきたからな……耐久力なら、下級の闇の眷属レベルはあると自負している」
レイ家次期当主として、ウォンは子どもの頃から過酷な修行に明け暮れていた。単なる肉体や精神の鍛錬だけでなく、時におぞましい修練もさせられた。
ある時は毒に耐性を付けるため、あらゆる毒物を接種させられ。またある時は燃え盛る炎や凍える冷気、激しい電流を浴びせられ。
心身共に、人間離れした強靱さへと鍛え上げられたのだ。そんな彼のスペックを見抜けなかったのが、パルジャたちの敗因。
「さて、中々いい修行になったが……そろそろ終わりにしよう。殺し屋を野放しにすれば、後々無関係な者たちに災いをもたらさないとも限らないからな」
「ヒッ! ま、まずい! 逃げるぞカンディ!」
「こ、こんな奴に勝てるわけないわよ! 命が一番大事よぉぉぉ!!」
「逃がさん。ここで散るがいい!」
『アルティメットコマンド』
完全に戦意を喪失し、逃走を始める殺し屋たち。そんな彼らに向け、死刑宣告が放たれる。ファンシェンウーがウォンの背後に召喚され、二匹の蛇が頭を伸ばす。
「フルルルルルル……!!」
「ジグザグに逃げればいいものを。あんな真っ直ぐに走っていては、狙ってくださいと言っているようなものだな」
大口を開けた蛇の牙が、大地に食い込む。亀の方は首を引っ込め、身体を後退させていく。限界まで下がったところで、ウォンは亀の頭があった場所に張り付き、黒い結晶で己を覆う。
「これで終わりだ! ギガントシェルキャノン!」
「フシュルァー!」
「ヒィッ! やべぇ、逃げ切れ……」
「きゃああああああ!!!」
ファンシェンウーが脚に込めていた力を抜き、スリングショットの要領でウォンを射出する。狙いを外さず、パルジャとカンディに直撃した。
着弾の瞬間、黒い結晶が炸裂し二人の身体を貫く。断末魔の悲鳴をあげ、殺し屋たちは息絶えた。デッキホルダーに宿っていたモンスターたちも、運命を共にする。
『ギュギ……ィ……』
『バビ……』
「終わったか……。サモンマスターの殺し合いとは、こういうものなのか。また一つ、学ぶことが出来たな」
宿っていたトラッシュイールが消え、地面に落ちたデッキホルダーからサモン・エンブレムが消滅する。ウォンは変身を解除し、遺体に近付く。
「このまま放置していくわけにはいかないな。死んでしまえば、善も悪もない。みな等しく、弔ってもらう権利がある……よっと」
二つのデッキホルダーを回収した後、ウォンはパルジャとカンディの遺体を担ぎ上げる。しばらく歩いた後、人の踏み入った形跡のない森を見つけた。
ここならば、安らかに眠れるだろう。そう考え、ウォンは遺体を下ろし魔法でシャベルを呼び出す。二人分の穴を掘り、埋葬を済ませる。
「ふう……これだけ大きな穴を掘るのは久しぶりだ。修行の旅に出る前にやった、鋼掘りの稽古が最後か……」
穴を掘り、遺体を入れて埋めるまでにかかった時間は、なんとたったの三十分。驚異的な手際の良さと体力で、あっという間に終わらせてしまった。
刺客を退け、埋葬も済ませ旅を再開……したいところだが、生憎まだ一つだけ問題が残っていた。ウォンの手元に残った、二つのデッキとサモンギアだ。
「さて、どうしたものか……。こやつらの墓標代わりに置いていきたいが、それだと面倒なことが起こると俺の勘が告げているしな……」
盛り上がった土の前で座り込み、ウォンは考える。人里から遠く離れた森とはいえ、旅人や盗賊が立ち寄らないとも限らない。
彼らの手にサモンギアやデッキホルダーが渡れば、どんな事態になるか予測不可能。かといって、戦利品を破壊してしまうのも気が引けた。
「ああ、そうだ。俺の手に余るなら、キルトに引き取ってもらえばいい。シェンメックに戻らねばならないのは面倒だが……他にいいアイデアも無し、仕方ないか」
十分近く悩んだ末、キルトに渡して処分してもらうことにした。戦利品を大事にする性分ではあるが、流石にもうサモンギアとデッキはいらない。
今のウォンにはもう、ファンシェンウーという立派な相棒がいるのだ。そもそも、複数の本契約を同時に行えるのか不明な以上、結局は宝の持ち腐れでしかない。
なら、持っていても仕方ないと考えた。名残惜しさを感じつつも、ウォンはシェンメック方面へと引き返していく。
「また二日かけて歩くのも面倒だ、ワープ魔法で戻るとするか。こういう使い方なら、父上も怒るまい」
『フシュルー?』
「なに、こちらの話だ。お前が気にすることはない、ファンシェンウー」
家督を継ぐための旅は、過酷なものであるべし。当主である父に厳命され、ウォンは極力ワープ魔法を使わないことにしていた。
とはいえ、彼も人の子。楽出来る時は楽をしたいのだ。そのため、シェンメックへは魔法を使って帰ることにした。
「さて、上手くキルトを捕まえられればいいが。もう帰ってしまっていたら……いや、今から考えるのはやめよう。その時はその時だ」
すでにキルト一行がミューゼンに帰ってしまっているかもしれない、という考えが頭の片隅をよぎる。だが、今更それを心配しても仕方ない。
さっさとデッキとサモンギアを渡して、また旅を続けよう。そう考えながら、ウォンは帝都へ戻る。その選択が、予想もしていなかった戦いへ繋がるとも知らずに。
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「はあ、酷い目に合った……。なんだか、まだ首筋がふやけてるような気がするよ……」
「安心しろ、キルト。我があの薄汚い雌犬の匂いを上書きしてやる。さ、今から二人で……」
「アカンアカン、後でやりぃーや。今はクレイっちゅー奴の捜索が先やろ?」
どうにか再起動したキルトの手で、どうにか騒乱は収まった。ヘルガと別れ、キルトたち三人はクレイを探すため下水道に降りていた。
半透明の薄いベール状にした防護魔法を頭から被ッた三人は、複雑に入り組んだ下水道の中を丹念に調べ歩いていく。
「うー、クサッ! こないなトコおったら、鼻曲がってまうで。すぐ側にきったない下水流れとるし、落ちたらシャレにならんわ」
「気を付けろ、通路は比較的清潔だが多少滑る。油断すると汚水に頭から落ちるぞ」
「わーっとるって。そないことになったら、ウチ耐えられへんわ」
「二人とも、お喋りは後だよ。……ほんの僅かだけど、クレイの魔力の痕跡がある。つい最近、ここを出入りしてたみたい」
ルビィとアスカが雑談に興じるなか、キルトは一人クレイの魔力を追っていた。一度はネヴァルのものと間違えたが、今度は間違えない。
「……逃がさないぞ、クレイ。ドルトさんを奪還して、トラア湖汚染計画も阻止してやる」
先頭を進みながら、キルトは小さな声でそう呟いた。
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