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30話─英雄の誕生

 夜が明け、朝日が昇る。幸い、騎士団にも街の住民にも死者は出なかった。モンスターたちが本格的に攻撃する前に、キルトがゾーリンを倒したからだ。


「ありがとう、キルト。思えば、あの日……山賊から救われた時から、君にはずっと助けられっぱなしだ」


「いいんです、父上。この街は、僕にとって第二の故郷なんですから。故郷を守るのが、僕の役目。それが……ここで得た、生きる意味ですから」


 騎士団の活躍により迅速に後片付けが行われ、いつかの時のようにキルトとルビィへの表彰式が執り行われる。


 とはいえ、最上級の勲章はもう授与しているため、今回はミューゼン市民が作った感謝状が二人に贈られることとなった。


「拝啓、キルト殿及びルビィ殿。二人はこの度、ミューゼンを襲った未曾有の大災害を引き起こした者を打ち倒し、平和を取り戻してくれた。その功績を讃え、ここに感謝状を進呈する」


「キルト様、ありがとー!」


「ルビィさまー、こっち向いてー!」


「二人は俺たちの英雄だー!」


 キルトが感謝状を受け取ると、盛大な拍手と市民たちの歓喜の声が巻き起こる。前回の表彰式では、キルトは大勢の人々に囲まれ怯えていた。


 だが、今の彼は違う。傷だらけの過去を乗り越え、愛する家族と友に囲まれ……心からの笑みを浮かべていた。


「みんな、ありがとう! 僕は……いや、僕たちはこれからも! この街とみんなを守っていくから!」


「バンザーイ! サモンマスタードラクル、バンザーイ!」


 笑顔でそう叫ぶキルトに、住民たちも笑顔で応える。その様子を、ルビィやエヴァ、シュルムにメレジアは微笑みを浮かべて見守っていた。


「キルトったら……あんなに嬉しそうにしちゃって。アタシまで嬉しくなってきちゃうじゃない」


「ああ、そうだな。もう、キルトは一人じゃない。暗闇の中で、過去の傷に怯えなくてもいいんだ。……いかんな、年甲斐もなく涙が出てきたわ」


「いいのよ、こんなめでたい日くらい盛大に嬉し泣きしてやりましょ」


 ルビィとエヴァがそんなやり取りをするなか、シュルムがパーティーの開催を告げる。街を守る英雄の誕生を祝す、無礼講な宴の始まりだ。


 街の広場に、屋敷で作られた料理がどんどん運び込まれる。人々は料理や酒を食べ、飲み、平和を喜び宴を楽しむ。


「はい、どうぞ。キルトは主役なんですから、どんどん食べてくださいましね」


「ありがとう、姉上。でも、ちょっと多いかな……」


「あ、いらないならアタシにちょーだい。夜通しずっとマガイカラス追っかけててお腹空いてんのよね」


 ビュッフェ形式のため、みな思い思いに好きな料理を取り分けている。そんななか、キルトはメレジアから大量にステーキを渡されていた。


 こう見えて、彼女は意外と肉料理が好きなようだ。が、ほぼ全部が腹ペコなエヴァにかっ攫われてしまった。


「もう、エヴァちゃん先輩ったら。食いしん坊なのは相変わらず……わっ!」


「キールートー……ひっく! 楽しんでいるか、この宴を!」


「ルビィお姉ちゃん!? うわ、すっごいお酒臭い!どんだけ飲んだのさ!?」


「んふー、軽く酒樽四つ分は飲んだな……ひっく!」


 大量のステーキを一瞬で平らげ、別のテーブルに向かうエヴァ。メレジアと共に苦笑しながら見送った直後、べろべろに酔っ払ったルビィに絡まれる。


「まあ、ルビィ様は酒豪ですのね」


「わ、笑ってる場合じゃないでしょ姉上! もう、お姉ちゃんってば……ひゃあ!?」


「酔い覚ましに付き合え、キルト! 二人で大空散歩と洒落込もう! はっはははは!!」


「ひゃあああ! た、助けてー!」


「うふふ、いってらっしゃーい」


 ルビィは後ろからキルトを抱き上げ、大空へ飛び立つ。メレジアはニコニコしながら、小さく手を振って二人を見送った。


 遙か天空へと飛び立った二人は、朝日に照らされたミューゼンの街を見下ろす。涼しい風を全身に浴びながら、二人は互いを見つめる。


「……ねぇ、ルビィお姉ちゃん。僕ね、お姉ちゃんに出会えて本当によかった。お姉ちゃんに出会えたから、僕はこうやって前に進めたんだ。本当に、ありがとう」


「ふふ、礼を言うのはこちらだ。あの日、キルトと出会えていなければ……我は誰にも看取られることなく、孤独な死を迎えていただろう。伴侶を得ることも叶わずに」


 すっかり酔いも覚めたようで、ルビィは慈愛に満ちた目でキルトを見つめている。かつて二人が出会ったシャポル霊峰に向かい、雲海を眺める。


「綺麗だね、この景色……いつまでも見ていたいなぁ」


「ふふ、いつでも見られるさ。我とキルトが共に在る限り、ここには好きな時に来られるだろう」


「あはは、それもそうだね」


 かつてルビィが住んでいた洞窟がある断崖から、二人は景色を眺める。いい雰囲気のなか、ルビィはそっとキルトの顎に指を添える。


 彼女の手は今、魔法で人間のソレに変えてある。クイッと顎を上げ、自分の方を向かせた。ルビィが何をしようとしているのかを悟り、キルトは目を閉じる。


「……いいよ、お姉ちゃん。僕、はじめてだけど……お姉ちゃんになら、全部あげてもいい」


「ふふ、そうか。嬉しいことを言ってくれる。だが、今日はキスだけにしておこう。楽しみは後に取っておくタイプだからな」


 そう言うと、ルビィはキルトと唇を重ねる。キルトは愛するパートナーに身を預け、幸せそうにうっとりしていた。


 そんな少年への愛しさが高まり、ルビィは背中に腕を回して抱き締める。数分後、名残惜しそうに二人は唇を離す。


「これで、お互いファーストキスを捧げたわけだ」


「え、お姉ちゃんも初めてだったの?」


「当たり前だろう? ずっと一頭で暮らしていたのだから。ふふ、これからは毎日おはようとおやすみのキスをしよう。熱く燃え上がるような、情熱に満ちたキスをな」


「あはは……お手柔らかにね、お姉ちゃん」


 頬を朱に染め、キルトはそう答える。そんな二人を祝福するように、太陽が照らしていた。



◇─────────────────────◇



「……なるほど、ゾーリンが死んだか。使えない奴め、サモンギアをくれてやったにも関わらずなんだこのていたらくは!」


 その頃、ボルジェイはタナトスからゾーリンの敗北と死を聞かされ怒り狂っていた。院長室は破壊の限りが尽くされ、見るに堪えない状態だ。


「こうなれば……サタンに連絡を取れ! 確か、キルトの知り合いどもが冥獄魔界に収監されているんだろう? そいつらを買い取る!」


「こちらにも、すでに一人実験材料として買い取り済みですが……残りの三人も購入なされるので?」


「ああ、人数は多ければ多いほどいい。ついでに、サモンギアの量産も行う。第一世代機(ファースト)を改良した第二世代機(セカンド)をバラ撒け、タナトス。お前はこれまで通りデータ収集に尽力しろ」


「かしこまりました。全てはボルジェイ様の意のままに」


 物に当たって怒りを発散したボルジェイは、タナトスに新たな指令を下す。恭しくお辞儀をし、タナトスは部屋を出ようとして……何かを思い出して問う。


「そういえば、例の……別の大地から住民を召喚して手駒にするという計画がありましたが。あれはまだ継続しますか?」


「ああ、もちろんだとも。様々な大地をチェックし、相応しい者を選んでいたが……ちょうどいいのを見つけたよ」


 ボルジェイはそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、部屋の中央にとある映像が投射される。その内容は……。


『次のニュースです。本日正午、明神高速道路にて交通事故が発生しました。トラック二台に乗用車が挟まれ、乗車していた天王寺雄大さんとその妻の美咲さん、息子の孝則さんと娘のアスカさんが亡くなり……』


「この映像は?」


「テラ=アゾスタル……別名『地球』という大地で放送されているものだ。調査したところ、この天王寺アスカという娘が逸材だと判明してね」


 映し出されたのは、ニュースの原稿を読むスーツ姿の男性だった。ボルジェイは映像を消し、タナトスに勅命を下す。


「今映し出したのは、()()()()()()()()()()()()()だ。時間にして十日ほどのな」


「なるほど、未来予知の技術を使ったわけですか。では、例の娘を召喚すればよいのですね?」


「そうだ、サモンギアを与えて刺客にしろ。我々はこれから、メソ=トルキアに本格的な侵攻をすることになる。キルトばかりに構っていられん、駒を集めなければな」


 そう口にし、ボルジェイは邪悪な笑みを浮かべる。タナトスは深く頭を下げ、今度こそ部屋を去って行った。


 一つの戦いが終わり、一時の平和が戻った。その平和を謳歌するなか、メソ=トルキアに住む人々は知ることになる。


 新たなる英雄、サモンマスタードラクルが誕生したことを。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの勇者とか名乗るクソどもが牙を剥くなら容赦なく仕留めろ
[一言] 英雄の血筋なんか関係なく自分で英雄になったかキルトよ(ʘᗩʘ’) そんな天晴な場所もあれば懲りずに暗躍する悪党共め(⇀‸↼‶) 次なる刺客は昔よくやったザマァ残党兵と例の娘か(⌐■-■)
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