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29話─死闘! サモンマスターゴームを倒せ!

「最初から大暴れさせてもらうぜ……ジャイガンテタイフーン!」


「うわっ、危ない!」


 先手必勝、とばかりにゾーリンが攻撃を仕掛ける。持ち前の怪力を用いて、フレイルを滅茶苦茶に振り回しはじめたのだ。


 不規則に乱舞する鉄球のせいで、キルトは迂闊に攻撃を仕掛けられない。基本カードに飛び道具を持たない、という弱点がここで効いてくる。


『キルト、どう出る? 早速サポートカードを使うか?』


「そうだね、そういう事態が起きた時のために集めておいたわけだし。出し惜しみはしない、反撃に出るよ!」


『サポートコマンド』


 だが、キルトには弱点を克服するすべがある。ルビィと出会ってから最初に手に入れた、ワイバーンのカードをスロットに挿入した。


 すると、ワイバーンが実体化し雄叫びをあげる。直後、口に熱を溜めて燃え盛る火球をゾーリン目がけて発射した。


「食らえ! ファイアボールキャノン!」


「チッ、小賢しいんだよ! オラァッ!」


 飛んでくる火球にフレイルをぶつけ、攻撃を防ぐゾーリン。しかし、その行動こそがキルトがもっとも誘発したかったものだ。


 弾ける炎によって数秒間、ゾーリンは視界を奪われた。鎖を引き、鉄球を手元に戻そうとした……まさにその時。


「食らえ! アッパードドラグスラッシャー!」


「んなぁっ!? てめぇ、いつの間に潜り込みやがった!?」


 スライディングで鉄球の下に潜り込み、キルトは剣を振り上げる。頑強な岩石で出来ている鎧やフレイル本体は斬れずとも……鎖なら簡単に斬れるのだ。


 火球を目くらましに利用して、鎖を切断しフレイルを使えなくする。それが、キルトの考え出した作戦だった。それは見事成功し、ゾーリンから武器を奪う。


「やってくれたな……おかげでフレイルはもう使えねえ。思えば、理術研究院にいた頃から……てめぇのその(さか)しさにはイラつかされてきたぜ、キルト!」


『フン、小物お約束のくだらぬ嫉妬か。おおかた、己を磨くこともせずキルトを蹴落とすことばかり考えてきたのだろう。愚物は貴様の方ではないか』


「黙れ! てめぇもムカつくな……決めた、キルトを殺す前にお前らの契約を無理矢理解除させてやる。そしたら、ドラゴン女は俺の奴隷にしてやるよ!」


『バスタードコマンド』


 ルビィにコケにされたゾーリンは、悪意に満ちた笑みを浮かべながら二枚目のカードを取り出す。大剣の絵が描かれたカードを読み込ませ、武器を召喚する。


 現れたのは、ゾーリンの背丈とほぼ同じ大きさがある大剣だった。鍔の部分に、ゴツゴツした岩の意匠が施されている。


「おっと、これだけじゃ終わらねえぜ!」


『シールドコマンド』


「一気に二枚も……! 贅沢な使い方するね、全く」


『気を付けた方がいいな、キルト。あやつ、よく観察してみると異常な魔力量を持っている。恐らく、外付けの魔力蓄積アイテムを所有しているのだろう』


 ダメ押しとばかりに、無数の岩を集めて長方形にしたような形の大盾を召喚するゾーリン。これで剣と盾による、完全武装状態となった。


 ルビィが警告を出すと、キルトは頷く。相手に対抗してフル装備といきたいが、そうもいかない。両手が塞がれば、サモンカードを使えないからだ。


 万が一の事態に備え、今回ばかりは出来るだけ片手を空けておきたいとキルトは考えていた。


(ティバなら尻尾を使ってカードをスロットに入れられるけど……生憎、この鎧じゃ無理。まずはサポートカードを使って、相手の体力と魔力を削る!)


「かかってこねぇのか? なら、こっちから攻めさせてもらうぜ! このジャイガンブレードのサビになりなぁっ!」


「っと、そうはいかない!」


 ゾーリンは突進しつつ、大剣を振り下ろす。キルトは咄嗟に横に飛び、攻撃を避ける。狙いを外した一撃が地を砕き、小さな裂け目を作り出す。


『ふむ、威力はたいしたものだ。だが、剣の大きさ故に振りは遅い!』


「じゃあ、もーっと遅くしてあげないとね。それっ!」


『サポートコマンド』


 相手が次の攻撃に移る前にと、キルトは二枚目のサポートカードを使う。眠そうな目つきをした、ピンク色のトカゲが描かれたカードをスロットに挿入する。


「いけ、ポトニュート! 緩慢のあくび!」


「ふああ~……むにゃ」


「うおっ!? な、なんだこのガスは!」


 トカゲ型のモンスター、『ポトニュート』の口からピンク色のガスが噴射されゾーリンに直撃する。すると、身体が痺れ動きが遅くなる。


 キルトが召喚したポトニュートは、神経性の毒ガスを用いて獲物を狩るモンスターだ。ガスを浴びた獲物は動きを鈍らされ、美味しくいただかれてしまうのである。


『今だ、キルト! 無防備な頭を落としてしまえ!』


 役目を終えたポトニュートが消えるなか、ルビィが叫ぶ。それに合わせ、キルトは跳躍する。動きを遅くされたゾーリンは、防御が間に合わない。


「うん! これでトドメだ、スウィングスラスト!」


「バカが……俺にはまだ隠し球があるんだよ! やれ、ロックジャイガン!」


『ゴー、ホー!』


 ゾーリンが叫んだ直後、彼の頭部をロックジャイガンの頭が兜のように覆った。刃が通らず、キルトは身体ごと弾き返されてしまう。


「うわっ! な、なにあれ!?」


『契約しているモンスターを、部分的に実体化させたというのか!?』


「グハハハハ! 驚いたか? 契約(エンゲージ)のカードにはなぁ、こういう使い方もあるんだぜ。まあ、魔力の消費もバカにならねえから長い時間持続させられねぇが……こうやって瞬間的に纏う分にゃ問題ねぇ」


 コンコン、と盾のフチで頭を小突きながらゾーリンは笑う。直後、ロックジャイガンの頭部を消して再び顔を出す。


「くっ、まずいな……剣にヒビが入っちゃった」


『仕方あるまい、おもいっきり斬り付けたからな。どうする、キルト』


「……一枚だけ、今の状況を覆せるカードがある。でも……」


「よくもやりやがったな、死ねキルト!」


「使ってる余裕、ないかも……」


 ガスの効果が切れ、ゾーリンが反撃に出る。とてもではないが、サモンカードを使っている暇はない。繰り出される斬撃の嵐を、キルトは回避していく。


 剣は先ほどの攻撃によってヒビが入ってしまっているため、とてもではないが防御には使えない。少しずつ、キルトは追い詰められていた。


(まずい、なんとかして隙を作らないと……このまま防戦を続けてたら、体力切れで僕の負けだ!)


 焦りが募るなか、キルトは閃く。イチかバチか、運を天に任せ少年は覚悟を決める。


『どうした? 押し黙っているが……』


「お姉ちゃん、今から……する。これが失敗したら、僕は負ける。それでも……最後まで付き合ってくれる?」


『フッ、何を今更。この命、キルトと共にある。地獄の果てまでも付き合うに決まっているだろう!』


「……ありがとう、お姉ちゃん」


「何をブツブツ言ってやがる! 死ね! ギガロックバスター!」


 そんなキルト目がけて、ゾーリンは大剣を振り下ろす。後方に跳躍し、キルトは攻撃を避ける。相手が剣を引き抜こうとしている間に、キルトが動く。


「今だ! やああああああ!!」


「んなぁっ!? け、剣を投げやがっただと!?」


 なんと、キルトは唯一の武器であるドラグネイルソードをゾーリンの顔目がけて投げ付けたのだ。予想外の行動に、ゾーリンは慌てて盾を構える。


「っぶねぇ! だが残念だったな、このジャイガンシールドがあれば」


「ふふっ、残念! これでもうお前の負けは決まったよ、ゾーリン! これを食らえ!」


『サポートコマンド』


 キルトの狙いは一つ、相手に防御行動をさせてカードを使う隙を作ること。もし、ゾーリンがロックジャイガンの頭を纏い、構うことなく攻撃を続行していれば……勝っていたのは彼だった。


 だが、彼は唯一の武器を投げるという予想外の行動に虚を突かれ、その選択肢が頭に浮かばず……キルトの狙い通り、攻撃を中断してしまった。


「ゲコ……ゲッコー!」


「ぐあっ! チッ、ワイバーンやらトカゲの次はカエルかよ! 舐めやが……なんだ!? ぶ、武器が溶けていきやがる!」


「ふふ、今僕が召喚したのはアシッドフロッグ。その名の通り、何でも溶かしちゃう酸性の液体を吐く能力があるんだよ!」


「! そ、そうか……てめぇ、それを使って俺の鎧の強度を下げるのが目的だったのか!」


 キルトが使ったのは、茶と紫のまだら模様をしたカエルが描かれたサポートカード。武器を強化しても、鎧を砕ける確証が彼にはなかった。


 ならば、鎧を腐食させて弱体化させてしまえばいいと考えたのだ。その目論見は、ギリギリのところで見事通った。


「ぐ、おおお……! クソが、なら鎧が溶け切る前にトドメを刺してやる!」


「それはこっちの台詞だ! お姉ちゃん、今ならきっと攻撃が通る! ゾーリンを……仕留めるよ!」


『任せろ、キルト! フルパワーで行くぞ!』


 大剣も大盾も溶かされ、後がなくなったゾーリン。岩石で出来た拳が描かれたカードを取り出し、サモンギアに読み込ませる。


『アルティメットコマンド』


「負けるか! こっちだって!」


『アルティメットコマンド』


 二人が切り札を発動した直後、互いの本契約モンスターが現れる。技に合わせて、ロックジャイガンの身長は二メートルほどに縮んでいた。


「食らえ! ギガノマキアクラッシャー!」


「ゴオオオォォォォ!!!」


 ゾーリンのかけ声に合わせてロックジャイガンの身体が分裂し、パートナーを包み込む。巨大な拳骨となり、空中に舞い上がる。


 それに負けじと、ルビィはキルトを抱え天高く飛翔する。今回は、上昇する段階で炎を纏っていた。下から突き上げ、迎撃するつもりだ。


「くたばれぇぇぇぇぇ!!!」


「行くぞ、キルト! これで終わらせよう!」


「うん! 食らえ、バーニングジャッジメント!」


 岩石で出来た巨大な拳と、竜の頭を模した炎の塊がぶつかり合う。そのままつばぜり合いになる……かと思われたが、そうはならなかった。


 事前に酸を浴びていたこともあり、脆くなった岩石が砕かれていく。あっという間にゾーリンが剥き出しになり、炎に焼かれ苦悶の叫びをあげる。


「ぐっ……があああああ!! バカな、こんな……こんなあっさり、この俺が死ぬ……? 嘘だ、こんなのはありえねぇ! 悪い夢だ、そうに決まってる!」


「夢じゃないよ、ゾーリン。炎に焼かれて地獄に落ちろ!」


「貴様はキルトを苦しめた……ならば、次は貴様が苦しむ番だ。我が怒り、とくと味わえ!」


「う、ぐ……ぎゃあああ!!」


 断末魔の叫びをあげ、ゾーリンはロックジャイガンともども爆散した。彼が持っていた水晶玉も砕け散り、スタンピードを構成するモンスターたちが消滅していく。


「見よ、キルト。我らはまた、ミューゼンを守ったのだ」


「うん、本当によかった……みんなを守れて」


「さあ、帰ろう。みなが待っている。キルトの帰りをな」


「僕だけじゃないよ、お姉ちゃんのことも待ってる。だから、一緒に帰ろう。僕たちの家に!」


 二人は互いを見て微笑み、ミューゼンへ帰還する。彼らの活躍で、危機は去った。そして……強大な敵を打ち倒し、キルトはまた一つ過去を乗り越えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 三下の隊長も所詮、三下か(ʘᗩʘ’) まだ前回の方が熱かったのに(↼_↼)脆くなった岩みたいに根性も脆いだな(⌐■-■)
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