235話─動き出すカトラ
泰道亮一を退け、どうにかルビィやヘルガと共に帰還したキルト。そこで彼は、仲間の戦いの顛末とティアの最期を聞くことに。
「そんなことが……。ごめん、サウル。僕がリョウイチを仕留められてれば……」
「いいんだ、こうなっちまったのは残念だけど……たぶん、生き残ってもティアさんは降伏も命乞いもしなかったと思う。敵に助けられるのをよしとせず、自害してたさ……あの人は、そういう人だから」
宮殿に戻った後、キルトはサウルに頭を下げる。どこか寂しそうに笑いながら、サウルは少年を責めることなくそう答えた。
どこか苦い結末になってしまったが、幸いにもパーティーの参加者たちに一人も犠牲は出なかった。それだけが、唯一の慰めと言えるだろう。
「でも、こうなるとカトラさんがどう出るか……。あの人は、チームの中でも最強だからな」
「へえ……興味深いな。そのカトラってのもそうだが、お前もよ。サモンマスターなんだろ? なら……オレと戦え。並行世界から来たって聞いたぜ、キルトからなァ。ククク」
「ウェッ!? ちょ、誰なんだあんた一体……いや待って、ホントに誰なんだ!?」
「オレはヘルガ、キルトの仲間みてぇもんだ。早く外に出ろ、戦いたくてウズウズしてんだよ」
重苦しい雰囲気をブチ壊すかのように、ヘルガがサウルの襟首を掴んで外に引きずっていく。Ω-13のメンバーたちだけでは足らず、まだ戦いたいらしい。
突然知らない女に拉致られることになったサウルの悲鳴が響くも、こういう時のヘルガを邪魔すると面倒くさいことになるというのをキルトは知っていた。
そこで彼が取った行動は……お見送りだった。
「あー……うん、僕にくっついてきた時点でこうなるとは思ってたよ。サウル、がんば!」
「ヘルガが満足するまで存分に戦ってくるといいぞ」
「ああ、その方がこちらに流れ弾が来なくて安心だからな」
「酷い言い方だね……まあ否定はしないけど」
キルトたち四人は、ヘルガに引きずられていくサウルを笑顔で見送る。その後、再開されたパーティーが終わるまで……彼の姿を見ることはなかった。
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『♥6:TORNADO』
「……ハァッ!」
「ぐあっ! ひえー、またやられちゃいました。カトラさんって強いんですね……並行世界のサモンマスターはひと味違いますよ、うん」
「……お前も強い。誇れ、強者は堂々としているものだ」
パーティーが終わった後、夜。次元の狭間では残る機動部隊のメンバーとカトラが戦闘訓練をしていた。キッシュとの訓練を終え、カトラはそう口にする。
黒い鎧とハートマークが描かれた仮面を身に着けた姿になっていたカトラは、変身を解除し一旦休憩を取る。そこに、タナトスがやって来た。
「ここにいたか、カトラ。つい先ほど、瀕死の重傷を負った亮一が戻ってきた。残りの二人は、キルトたちに敗れたとのことだ」
「……そうか、ティアも死んだか。ならば、いよいよ私の出番というわけだ。……少し席を外す、お前たちは訓練を続けるといい」
「あ、はい。お気をつけて」
タナトスを連れ、訓練ルームから出るカトラ。トレーニングセンターの屋上に出て、死神と話をする。
「……率直に言おう。ティアとサウルは敵に殺されたのではない。そうだろう、タナトス」
「ほう、何故そう考えた? カトラ」
「私には分かるのさ。体内に埋め込まれている『封印を司る装置』が教えてくれるからな。ティアたちの本当の死因を」
そう話しながら、カトラは仮面を外す。その下にあったのは、どこか達観したような表情を浮かべる若い青年の顔だった。
「封印を司る装置だと? 一体何を封印しているというのだ」
「……それはお前自身がよく知っているはずだ、タナトスよ。お前は探していたんだろう? 『もっともフィニスに近い力を持つサモンマスターがいる世界』を」
「ああ、そうだ。それがお前と何の関係があると言うのかな?」
「大有りさ。私の体内に封じられている装置を解放すれば、私は成れる。お前が望む、フィニスのような破壊者へとな」
カトラの言葉に、タナトスは興味をそそられる。フィニス復活計画の一助になればと、新戦力の補充も兼ねて死神はカトラたちを呼び寄せた。
かつてフィニスに破壊され尽くした世界の住人を呼び出せば、自身の計画を大きく進めるためのヒントが得られるはず。そう考えたのだ。
「それはたいへん興味がある。では、次の戦いで見せてもらおう。お前がどのように……フィニスの如き世界の破壊を為すのかを」
「……見せてやろう、お前が望み焦がれるような破壊をな。だが、その前に。ティアたちを亮一に始末させたことについて話そうか。事と次第によっては、先にお前を破壊することになるかもしれないな」
「言い訳はしないさ。彼女を亮一に始末させたのは裏切りを警戒してのこと。キルトは人を惹き付ける。すでに旧サウルとレドニスが寝返っている以上、万が一を……!?」
「……それだけ聞ければ十分だ。これで手打ちにしてやろう、お前ならば死にはすまい」
仲間殺しについての釈明をしていたタナトスの身体に、突然風穴が空いた。カトラが右手を前にかざし、圧縮された空気の砲弾を放ったのだ。
驚くべきことに、タナトスは風穴が空いたにも関わらずカトラが言ったように絶命しなかった。肩をすくめ、何事もなかったかのように振る舞う。
「手荒なものだ。もうケジメはいいのか?」
「……言っただろう、手打ちにすると。もう仲間を呼ぶ必要はない、私だけでケリをつける。……この封印を解いてな」
「ふむ、いつ仕掛けるつもりだ? 罪滅ぼしというわけではないが、手伝うぞ?」
「いらぬ。近付けば巻き込まれるだけだ……お前は敵の亡骸を引き取る時だけ顔を見せればいい」
そっけない態度で助力を断った後、カトラは仮面を付け直す。そして、軽やかな足取りで屋内へと戻っていった。
身体に空いた穴を塞ぎつつ、タナトスはやれやれとかぶりを振る。いきなり風穴を空けられるとは思っていなかったようだ。
「やれやれ、つれない男だ。では、私は静観させてもらおう。……もっともフィニスに近いサモンマスターの戦いをな」
そう呟いた後、タナトスも屋上を出てトレーニングセンターの中に戻っていく。並行世界より来訪した最後のサモンマスターとの戦いの時が、近付いてきている。
キルトたちはまだ、それを知らない。
◇─────────────────────◇
「昨日はありがとう、キルト。貴殿らのおかげで、賊を倒し招待客たちを守り切れた」
「いえ、こちらこそ。陛下とアルセナさんの協力があったから、スムーズに事が運べたんですよ。感謝するのはこっちの方です」
「また遊びに来るといい。次はワタシたちシュトラ族の里を案内してあげよう。一面銀世界、静寂に満ちたいい場所だから」
「はい、次はみんなで遊びに行きますね!」
翌日、ティアたちと戦ってくれた礼にと離宮を宿代わりにさせてもらったキルトたちはルヴォイ一世やアルセナと別れの挨拶を交わしていた。
お土産にとシュトラ族の戦士たちが狩ったオオツノジカやクマの肉を貰い、お礼を言った後アジトを経由してミューゼンへと帰還する。
「んー、久しぶりに帰ってきたなぁ。ここ最近、ずっとアジトで寝泊まりしてたし」
「そうだな、シュルム殿たちに土産話をたくさん聞かせてやろう」
アスカに少しクマ肉を包んでもらい、家族への土産として持ってきたキルト。屋敷に入り、シュルムやメレジアに帰ってきたことを伝える。
「お帰り、キルト。ここ最近忙しかったみたいだね、もう大丈夫なのかい?」
「うん、いろいろあったけどようやく落ち着いて……はい、お土産!」
「まあ、なんでしょう? うふふ、ありがとうキルト」
お土産を受け取り、嬉しそうに笑うメレジア。そんななか、ふとルビィが尋ねる。
「そういえば、エルミア殿はいないのか? いの一番にすっ飛んできそうなものだが」
「お母様は、今朝西の方に向かわれたの。紅壁の長城の新しい総督さんと、引き継ぎに関するあれこれをするって言っていたわ」
「そっかぁ、じゃあ帰りは僕が迎えに行ってあげようかな?」
「それがいい、エルミアも大喜びするだろう」
バケーションは旅をするだけではない。家族との団らんもまた、身体と心を休めるのに必要不可欠。キルトは義父の言葉に頷き、笑みを浮かべるのだった。
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