224話─ティアの本性
雷帝の寝床のテラスにて、リジェネレイト済みのエヴァ&フィリールとティア&サウルの戦いが始まる。スペードのスートが描かれた、青い護拳のある剣を召喚したしたサウルはフィリールに斬り掛かる。
【ツインドレスコマンド】
「さあ、来るがいいサモンマスタースペイダー。ここで倒してくれよう!」
「へっ、威勢がいいのはお互い様だな。でもな、ティアさんが見てる前で負けられやしないのさ!」
「仲間にいいところを見せたいと? フッ、その青臭さ……嫌いじゃないな!」
双剣を操るフィリールに、剣一本のがむしゃら剣術で挑むサウル。まだ荒削りだが、未完成ゆえの攻撃の読めなさがあった。
フィリールは攻撃をいなしつつ、隙を見ては反撃を叩き込む。だが、全て剣で防がれたり、避けられて不発に終わってしまう。
(……なんだ? この男の不自然な戦い方は。攻撃は素人同然の荒っぽさなのに、守りに関してはプロの領域にある。あまりにも歪な……ぐっ!)
「そこ、戦闘中に考え事なんて余裕ね? 忘れないでよ、こっちの得物は銃。アンタたち二人を……」
【ビートコマンド】
「オラァッ! ビートクラッシュ!」
「っと、危ない危ない。同時に攻撃することなんて楽なのよ!」
攻撃の荒削りさに比べ、守りの動作が不自然なまでに洗練されていることに疑問を抱くフィリール。が、直後ティアに銃撃され考え事どころではなくなる。
攻撃してきたエヴァにも攻撃を浴びせ、仰け反らせてやり過ごす。弾丸の破壊力そのものはかなり低いが、油断は出来ないようだ。
「チッ、並行世界のアタシってかなりやり手ね。ま、そうでなくちゃ面白くないんだけどね! 食らいなさい、エクスビートスピーク!」
「なにこれ、変なの。こんな……クッ!」
「うおっ!? なんだなんだ、変なリングが弾けたぞ!」
エヴァは召喚したギター型の斧を掻き鳴らし、破壊音波を発生させる。ビートメーターに溜まった魔力を使い、リングを加速させた。
が、ティアの反応速度の方が僅かに上を行っており直撃寸前で避けられてしまう。舌打ちしつつ、メーター蓄積のためエヴァは連続で音波を放つ。
「さあ、ジャカジャカ鳴らしていくわよ! 全部避けられるもんなら避けてみなさい!」
「避ける? ハッ、そんな必要はないわ。こうやればいいんだから!」
『♦3:KNUCKLE』
『♦4:SCREW』
『DRILL BREAKER』
大きなシャコのモンスターが描かれたダイヤの三と、モグラのモンスターが描かれたダイヤの四のカードを取り出し武器に融合させるティア。
すると、銃を持っていない左腕に螺旋状の魔力が渦巻く。そのまま拳を振るい、飛んでくる無数の破壊音波を殴り砕いてみせた。
「ぐぬぬ、こいつ……! 運命変異体のクセにちょこざいな!」
「おお、すげぇ! やっぱ一流のサモンマスターだよな、ティアさんは! ……おっと!」
「戦いの最中によそ見とは余裕だな。このまま切り捨ててやる! ムーンダンス!」
「っと、そうは……いかないな!」
『♠5:ACCEL』
「! こいつ、加速し……くっ!」
先輩に続けとばかりに、サウルもデッキからチーター型のモンスターが描かれたトランプを取り出す。武器と融合させ、超スピードによる攻撃の嵐をフィリールにブチ込む。
「はっ、てやっ! どうだ、俺もこれくらいやれ」
「ああ、たいしたものだ。だが……お前の攻撃は見切りやすい。どれだけ加速しても、一度見切った剣は食らわん! 食らえ、ムーンドーラス!」
「なっ……ウェッ!」
が、調子に乗っていられたのもここまで。荒削りな戦法といえど、その道の達人であるフィリールが見切るのは容易なこと。
加速自体もバイオンほどのスピードには至っていなかったため、あっさり反撃を食らい情けない呻き声をあげつつ床を転がることに。
「さあ、次は私の番だ。本当の攻撃とは何かを見せてやろうではないか!」
「そうはさせないわよ、これでも」
「今度はやらせない! フィリール、やっちゃいなさい!」
「ちょ、邪魔を……」
フィリールが反撃に出ようとしたところで、再びティアが銃口を彼女に向ける。が、今回はエヴァのタックルで妨害され銃撃は不発。
邪魔されることなく、フィリールはデッキホルダーからカードを取り出す。描かれているのは、黒塗りの人影とそれを追う白塗りの人影。
【サーバントコマンド】
「いてて……ん? なんだ、相手が増えたぞ!?」
「さあ、見せてやろう。私の分身戦法の恐ろしさを!」
「フン、そんなもの撃って」
「させないっつってんでしょうが! オラッ死ね!」
「このっ、さっきから邪魔ばっかしてくんじゃないわよ!」
カードをネックレスにかざして読み込ませると、フィリールの背後に白く染まった彼女と同じ姿をした分身が出現する。
分身を撃って消そうとするティアだが、再度のエヴァの妨害にぶち切れ取っ組み合いの殴り合いが始まり、仲間のアシストどころではない騒ぎに。
「さあ、行くぞ!」
「へっ、それくらい防いでやるさ!」
『♠7:SEALED』
『♠8:COPY』
『ILLUSION GUARDIAN』
相手に対抗するべく、サウルは二枚のトランプを使い大量の盾を召喚して身を守る。様々な形をした青い盾を浮遊させ、攻撃を防ぐつもりだ。
「さあ、どこからでもこーい!」
「ふっ、小細工を。なら、遠慮なく参る!」
そう叫び、フィリールは双剣を構え走り出す。その直後、分身が少し遅れて動き出し本体と同じ動作で後を追う。
「はあっ! ムーンスライサー!」
「っと、盾を一つ壊したくらいじゃ俺に攻撃はとどウェッ!?」
「残念だったな、分身は私と同じ動きを絶妙な間を空けて行う。ボサッと突っ立っていたら追撃でやられるぞ?」
そう口にしながら、フィリールは猛攻を繰り出し盾を破壊していく。少し遅れて攻撃した分身が、確実にサウルへダメージを蓄積する。
「ウェッ! なるほど、盾がなかったらあんたと分身の時間差攻撃両方が俺に直撃するわけだ。やるじゃないか、強いなあんた! でも、俺も負けられない!」
『♠2:SLASH』
『♠6:FREEZE』
『♠9:SPIRAL』
『ULTIMATE COMMANDO:BLIZZARD SMASH』
「ハァァァァ……ウェイッ!!」
三枚のアブゾーブカードを剣に吸収させ、凍てつく冷気を全身から放出するサウル。得物である剣を空高く放り投げ手ぶらになった。
気合いを込めた叫びをあげて、勢いよくジャンプする。そして、跳び蹴りの体勢を取りフィリールに向かって突撃していく。
落下中、全身から吹き出す冷気によりサウルは氷の槍となる。直撃すれば死ぬ。そう悟ったフィリールは咄嗟に分身を盾にした。
「済まない分身よ、だがあれを食らうわけにはいかない! 代わりに受け止めてくれ!」
「っと、身代わりなんて無意味だぜ! 纏めてブチ抜いてやる!」
「そうはさせぬ。悪のサモンマスターよ、この大地は余たちの領域。これ以上の狼藉は許さん」
が、サウルは分身を容易く消滅させてしまう。軌道を水平に変え、フィリール本体へ向けて攻撃を続行しようとした……その時。
どこからともなく大きな水の玉が現れ、サウルを包み込んで完全に動きを止めてしまう。そして、上空からアーシアがゆっくり降下してきた。
「あっ、アーシア! あんたどこいって……おぶっ!」
「済まん済まん、迎撃に出た者たちの様子を見に行っていてな。さて、これで一人捕らえた。もう一人は……」
「がぼぼぼごぼぼぼ!」
ティアに殴られつつ、エヴァはアーシアにそう声をかける。あっけらかんとした笑みを向けて答えた後、アーシアは水の玉を自身の方に引き寄せる。
「チッ、捕まったみたいねサウルは。ま、いいわ。三対一で戦うほどアタシは愚かじゃないから……また来るわね」
『♦5:WARP』
「あんた、仲間を置いて逃げるつもり!?」
ティアはエヴァを投げ飛ばし、撤退のためトランプを一枚使用する。が、サウルを助けるつもりはないらしい。
「ええ、必要とあればね。あ、でも……サモンアブゾーバーは回収させてもらうから」
「ティアさん!? そしたら俺はこの後どう戦えば」
「いいわよ、戦わなくても。別に……アンタが死んでも代わりはいるし。タナトスに頼めば、また連れてきてくれそうだしね」
「あんた……なるほど、それがあんたの本性ってわけね。とんだクズだわ!」
ティアは指を鳴らし、サウルが身に着けているベルトを魔法で手元に回収してしまう。仲間の死に憤っていたのが嘘のように、冷徹な笑みを浮かべながら。
エヴァたちは怒りをあらわにしてティアを攻撃するも、すでに転送が始まっているようで相手の身体をすり抜けてしまう。
「まあね、『建前上は』フラスコの中の小人も人間扱いしないといけないから。でも、こっちの世界じゃその必要なさそうだし。好きにやらせてもらうわ」
「ティアさん……俺、俺はどうしたら?」
「そうね、もう何もしなくていいわ。レドニスみたいにね」
「待て! チッ、逃げたか。面倒なものだ」
捨て台詞を残し、ティアは消えた。後には、打ちひしがれるサウルと、彼を気の毒そうに見つめるエヴァたちが残された。




