215話─並行世界からの刺客
「……なるほど。話は分かった、そいつら……ガーディアンズ・オブ・サモナーズを倒せばいいんだな?」
「そういうことだ。彼らは強い、我々はすでに何度も敗北している。諸君らの相手として相応しいだろう」
キルトたちが客室の広さと豪華さに驚嘆している頃、タナトスはウォーカーの一族の暮らす街にあるカフェで並行世界のサモンマスターたちと話をしていた。
四人のリーダー格らしきハートの仮面の男は、タナトスの言葉を聞き考え込む。少しして、テーブルを囲んでいる仲間たちに問う。
「……サウル、ティア、レドニス。お前たちの意見も聞きたい、タナトスの話に乗るか?」
「オレは乗ってもいいと思いますよ、カトラ先輩。楽しそうですもん、そいつらと戦うの」
「アタシもまあ、どっちかって言えば賛成ね。……こんな胡散臭い奴の言うことでなきゃもっとよかったんだけど」
三人の仲間のうち、クローバーのピアスを着けた男……レドニスとダイヤのマークを象ったサークレットを被った女……ティアが賛成の意を表明する。
最後に残った、スペードのマークを模したバンダナと青い鎧を身に着けた青年……サウルがどう答えるか。彼が口を開くのを、カトラが待つ。
「俺も賛成だな。そいつらがどんな奴らなのか、戦って確かめたいし。あとティアさん、そんなカリカリしてるとまた小じわが増え」
「っさいわね、誰のお肌がボロボロですって!? そこに直りなさい、生意気言えないようにしたげるわ!」
「ひえええ!! こりゃご機嫌斜め下だぁ!」
つい余計なことを口走り、ティアの不興を買ったサウルは追いかけ回される羽目に。最後にはとっ捕まり、ヘッドロックされながら脇腹にブローを叩き込まれていた。
「オラッ、反省しなさいこのバカサウル! アンタにね、アタシのお肌の苦労なんて分かるわけ……」
「おやー? 何やってるのさタナトス、僕を除け者にして楽しそうなことやってるじゃない」
「ん? 何よこのガキンチョ。ほら、この飴あげるからどっかで遊んできなさい」
彼ら四人にとってはいつものことなのか、他の二人は笑って見ているだけだった。そこに、たまたま出歩いていたネガとオニキスがバッタリやって来る。
「いや、いいんだ。後で紹介しようと思っていたが手間が省けた。彼はネガ、この基底時間軸世界でサモンギアを造り出した存在……のクローンだ」
「サモンギア? ほう、この世界ではそう呼ばれているのか。我々の世界では『サモンアブゾーバー』と呼ばれている」
「へえ……タナトスの言い方からするに、君たち並行世界のサモンマスターかぁ。いいね、じゃあ僕の指揮下に入ってよ。そろそろさぁ、僕が殺しに行きたいんだよね。オリジナルをさ」
並行世界からやって来た四人のサモンマスターに興味を抱いたネガは、カトラたちにそんな提案をする。そんな彼に、タナトスが声をかけた。
「確かに、そろそろお前に出てもらった方がいいだろう。すでに『バックアップ』も用意しているしな」
「オリジナルの左腕が保存されてる限り、何度でも……何人でも僕を造れるからね。今回やられても次があるから気楽なもんだよ」
「すげぇ……オレ、こいつらの話についてけねえわ」
「……無理について行く必要はない。さて、私たちは私たちで話し合おう。まず誰から敵の元に出向くのかをな」
「ナンダ、オ前タチ全員デ出向クノデハナイノカ?」
「ああ。我々はみな我が強い。纏まっていてもむしろ邪魔になるのでな、戦闘時はそれぞれ好きにやる。それが決まりだ」
タナトスとネガがとんでもない会話をするなか、カトラたちも集まって話し合いをしようとする。そこにオニキスが質問をし、そんな答えが返ってくる。
そんなものかと納得し、オニキスは別の席に座ってメニューの端から端まで食べ物を注文する。もう話に興味はなく、食欲を満たすことしか考えていないらしい。
「ふふ、待ってなよキルト。前回は水入りになって終わったけど……次は殺してあげるから」
イゼア=ネデールに、邪悪な者たちの魔の手が伸びようとしていた。
◇─────────────────────◇
場所は戻り、娯楽都市メルカニオラ。部屋に荷物を置いたキルトたちは、街の一角にあるスパリゾートを訪れていた。
併設されている巨大プールに足を運び、水遊びを堪能していた。……が。
「ぐぬぬぬぬぬ……!!!! 水着になってから改めて見ると…なんやウチだけ敗北者になった気分やで……!!!!!!!」
「ふふん、どう? このセクシーボディ。羨ましいでしょー?」
「ふおおおお……資本主義の怪物ぅぅぅぅぅ!!! 成敗したるわぁぁぁぁ!!!」
アスカは胸囲の格差社会に直面し憤怒していた。右を見ても左を見ても、それどころか前も後ろも豊かなモノを持つ者に包囲されているのだ。
持たざる者である彼女にとって、地獄という言葉すら生ぬるい環境が誕生していた。挑発してくるエヴァにぶち切れ、売店で買ったガトリングタイプの水鉄砲を手に取る。
「こいつで痛い目見せたるわぁぁぁぁぁ!!! 気合い入れてくで、マンメン」
「アスカちゃん、よく分かんないけどそれ言っちゃダメなやつだと思うよ?」
「ハッ! ありがとさん、キルト。冷静さを取り戻せたわ、このままエヴァちゃんパイセンを殺ったる」
「フン、受けて立ってやるわ! ルビィ、フィリール、返り討ちにするわよ!」
「超水圧のウォーターガン……ふむ、悪くない」
「こら、我まで巻き込むな! 離せこの駄牛ぅぅぅぅぅぅ!!!!」
アスカの挑戦を受けて立たんと、エヴァも対物ライフル型の水鉄砲を手にウォーターガンバトル用のエリアに走っていく。ルビィとフィリールを巻き込んで。
「い、いってらっしゃ……あ、もう見えなくなった」
「全く、お子ちゃまだねぇアスカちゃんも。胸の大きさくらいでそこまで嫉妬することないのにね!」
「……ノーコメントで」
唯一争いに参加しなかったプリミシアは、ちゃっかりキルトの隣をキープしていた。なお、普段通りマスクをしているため周囲の視線を集めまくっていた。
もっとも、水着が本来の性格では絶対着ないかなり過激なビキニだったのもあるが。
「みんな向こうに行っちゃったし、終わるまで何して待つ?」
「うーん、それじゃあ流れるプールにでも」
「よー、そこのマスクのねーちゃん。そんなガキなんてほっといてさー、俺たちと遊ばねー?」
「そうそう、オレらここの常連でさ。いろいろ穴場知ってんだよねー」
普段はルビィたちがベッタリのため、なかなか二人きりになれないプリミシアは今がチャンスとばかりにキルトとデートしようとする。
が、そこに空気を読まない愚か者が二人。チャラチャラした雰囲気の男たちが、プリミシアに声をかけてきたのだ。
「誰? 悪いけど、ボクもう相手がいるからさ。他の娘を当たりなよ」
「またまた、そんなジョーク言っちゃって~。そいつ弟かなんかだろ? そんなのほっといて俺たちと遊ぼうぜ?」
「ほら、一緒に」
「ちょっと、離してよ。そういう強引なの、ボク嫌いだな」
「そうだよ、プリ……ロコモートが嫌がってるんだからやめなよ!」
嫌悪感をあらわにし、プリミシアは男たちを追い払おうとする。が、そんなのお構いなしに片方が無理矢理プリミシアの腕を掴む。
直後、キルトが割って入り男の腕をはたく。ナンパを邪魔され、もう片方の男が大人げなくブチ切れる。
「んのガキ、大人を舐めんじゃね……おぶっ!?」
「ふんだ、嫌がってる人を無理矢理連れてこうとするような悪い大人なんて舐められて当然なんだよ!」
「相棒ォォォォ!! 相棒の相棒が……! このっ、もう許さねえぞテメェ!」
キルトに殴りかかろうとするも、股間に全力でアッパーをブチかまされ撃沈した。退散すればいいものを、もう一人が懲りずにキルトに襲いかかろうと身構える。
「前歯へし折って……!?」
「うるさいな、キルトくんは弟じゃなくてね……ん!」
「ふむうっ!?」
「……ちゅ、こういうカンケイなわけ。分かったらさっさと消えてくれない?」
「うう、チクショウ……ふざけんなぁぁべぶっ!?」
そんな男の前で、プリミシアはキルトを抱き上げ熱烈なキスをする。こうして見せ付けた方が手っ取り早くも心を折れるだろうと考えたのだ。
が、男はヤケになり二人を襲おうとする。そこに、どこからともなく水が飛んできた。
「見てたわよ、あんたら。うちのキルトに手ぇ出そうなんていい度胸ね」
「貴様らは処刑確定だ……竜の宝に手を出した輩には罰を与えねばなぁ?」
「ひいっ! すみません、許し……あああーーー!!」
「地獄へいってらっしゃーい!」
駆け付けたエヴァとルビィにより、ナンパ男たちは連行されていく。そんな彼らを、プリミシアはマスクの下に隠した頬を赤くしながら見送る。
(キャー! な、流れとはいえキルトくんにちゅーしちゃった……! それも、く、くく、唇同士……ふへぇ)
放心しているキルトを抱きつつ、心の中で昇天したプリミシアはイイ笑顔を浮かべるのだった。
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