195話─ダイナモドライバーを守れ!
ユウたちをアジトに招き、いろいろと説明を終えた後。キルトとルビィは翌日の朝まで自室で休んでから、リオの力を借りてカルゥ=オルセナに戻った。
「はい、着いたよ。僕はまだやらなきゃいけないことがあるから、一緒には行けないんだ。ごめんねー」
「いえ、こうして送り届けてくれただけでもありがたいです。ありがとうございます、リオさん」
「うむ、我からも礼を言おう。あのアイージャという猫女にもよろしく伝えておいてくれ」
「うん、分かった。やることいっぱいあるから、僕は帰るね。じゃーばいばーい」
リオはリオでやることがあるようで、テーブルマウンテンにキルトを送ってから界門の盾を使いどこかへと去っていった。
ルビィと共に施設内に入り、まずはアリエルやイレーナたちとの合流を目指す。一階に降り、研究員から彼らの居場所を聞く。
「今は地下にある演習場にいますよ。ドライバーに組み込んだオルタナティブ・コアの力をテストしたいとのことで」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます、そっちに行ってみますね。お姉ちゃん、いこ」
「うむ、助かったぞ」
フロアマップを貰い、エレベーターを使って地下へと向かう二人。演習場に入ると、そこかしこから気合いの入ったかけ声が聞こえてくる。
「さあ、来い! この大地を守る英雄たちの力、俺に見せてもらおう!」
「ええ、新しく得た力を見せてやります! 頑張ろ、イル!」
「そうね、もうサモンマスター相手に手も足も出ないなんて屈辱は味わわないわよ! 武装展開、キルディブルアクス!」
広い演習場の片隅では、変身したウォンがウィンゼルとイグレーヌを相手に大立ち回りを演じていた。イグレーヌはキルモートブルのデータを選んだようで、飴色のハルバードを呼び出し振り回している。
「僕も! 武装展開、グロリアスソード!」
一方、ウィンゼルはインペラトルホーンのデータをオルタナティブ・コアにインプットしたらしい。槍のようなゴツさを誇る片手剣を呼び出し、相棒共々ウォンに挑みかかっていた。
「ほう、みな訓練に明け暮れているわけだ。無事選び終わったようだな、我らが集めたデータを」
「うん、そうみた……あ、あっちの方でフロスト博士がイレーナさんと戦ってる」
続けて、キルトたちは演習場の別の区画を見る。そちらでは、サモンマスターギーラに変身したアリエルがイレーナと特訓をしていた。
イレーナはビューコックのデータを選んだようで、背中に青と緑のグラデーションがかったマントが追加されている。弾を撃つ度、クジャクの羽根が宙を舞う。
「あ、戻ってきてんじゃ~んきるちん。ちゃお~、データマジあざましー」
「あ、あざま……?」
「気にするな、レジェ語は理解するのに時間がかかるからな。二人のおかげで、大幅に戦力が増強された。礼を言わせてもらおう」
訓練を見ていたキルトの元に、暇していたジェディンとレジェがやって来る。二人にお礼を言われ、キルトは照れ臭そうに笑う。
「いえ、そんな。お役に立てて……あれ? ヘカテリームさんは?」
「ああ、夜中のうちにソサエティ本部に戻った。なんでも、アゼルが強力な助っ人を寄越してくれたと俺の妻……メイから連絡があってな。顔合わせを兼ねて打ち合わせしに行ったんだ」
「なるほど、そう……この警報は!?」
三人が和やかに話していた、その時。突如基地内に警報が鳴り響いた。少しして、つよいこころ八百七十号が地下演習場に現れる。
「全職員ニ通達! カルゥ=オルセナ及ビカルゥ=イゼルヴィアニ敵性反応ヲ『六ツ』検知! 戦闘可能ナ者ハタダチニ出撃セヨ!」
「チッ、昨日の今日でまた来おったか。しかも今度は六人……大所帯だな、奴らいつの間に人員の確保を?」
「あの、言いにくいんすけど……それ多分、少し前までアタイとダーリンとこの傭兵派遣会社にいた機動部隊のメンバーだと思うっす。ちょっと前に売ったんすよね、理研に部隊をまるっと一つ」
「えええええ!? そんな大事なこと何で言わなかったんですかイレーナさん!」
新たなる敵の到来を知り、舌打ちしつつ不思議がるルビィ。亮一やロギウス、ローグが遭遇したサモンマスターを入れても戦力はそんなにいないはず。
そう思っていたところに、訓練を終えたイレーナが現れ申し訳なさそうに口にする。とんでもない発言に、キルトは仰天してしまう。
「いやー、うちの会社も商売しなきゃ食っていけ……ジェディン? ちょ、なんで鎖でぐるぐる巻きにするんすか!?」
「その話は後でソサエティ本部の拷問部屋でたっぷりと聞かせてもらう。今は謹慎していろ、半分はお前とクラヴリンに責任がありそうだからな」
「あーあ、ジェディちんキレてるー。ウチ知ーらないっと」
仲間のやらかしに、ジェディンが静かに怒りを燃やす。とりあえずイレーナを拘束し、天井に吊した。
「これでよし。全員集合! 誰がどこに出向くか決めるぞ!」
「ん、呼ばれた! 行くわよ、ゼル!」
「うん! さあ、作戦会議だ!」
吊られたイレーナの下に、ウィンゼルたちが集合する。まずは敵の出現ポイントをチェックし、動向を探ることに。
「ふむ……三人がドライバーの保管場所に向かっているな。残り半分は陽動だろう、街のある区画に移動しているようだ」
「ソサエティの方は行かなくてもヘーキだね、今助っ人来てるし~」
「そうなると……よし、俺とアリエルは街に行こう。陽動担当を倒す」
「はいはい、よろしくねーウォン」
つよいこころ八百七十号が空中に投射する地図を確認しながら、ジェディンたちは話し合いをする。ウォンとアリエルは、西にあるクルーラルフ地区と呼ばれる場所に現れた反応の元に行くことに。
「んじゃ、ウチは元特殊兵器工場地区に行くわ~。そこに隠してあんよねぇ、ウチがむかーし使ってたオキニのドライバー」
「一人で大丈夫? 私とゼルが一緒に行こうか?」
「んー、だいじょぶだいじょぶ。新しいドライバーにオルタなんちゃらがあれば無敵ぴーぽーマックスだしー」
「こやつの言う言葉はまるで分からん……」
イゼルヴィア全域に渡って存在する巨大都市、ネオ・メルナリッソスの南西部。そこにもまた、初代ドライバーが隠されているらしい。
そこに向かう敵性反応の相手をせんと、レジェが名乗りをあげる。その間に、ウォンたちは地下にやって来たジュディと話を付け先に出撃していった。
「じゃーね読者くん、先に行ってるからー!」
「はい、敵は未知数ですから気を付けてくださいねフロスト博士! ……あれ、今気付いたんですけどローグさんもいませんよね? どこに……あ、反応がまた一つ出ましたよ」
「これがローグの反応だな、奴め……ちゃっかりオルタナティブ・コアをくすねていったようだが、データ未入力で大丈夫なのか?」
ウォンたちが出立した後、キルトはようやくローグがいないことに気付く。が、直後。マップの北部にある敵性反応の側に、ローグの反応が現れた。
「あー、あの人夜中になんかコソコソやってるなーとは思ってたんだ。あの装置持ってってたんだ……あの人らしいや」
「なんて言ってる場合じゃないわよゼル。どうする? 残り二つの反応……どっちに行く?」
ソサエティ本部は助っ人に、西の反応はウォンとアリエル、旧特殊兵器工場一帯はレジェ、北の反応はローグ。
四カ所の迎撃担当が決まり、残りは二カ所。元レジスタンスのアジトがあった山脈地帯と、南東の街。話し合った結果は……。
「山の方は僕とお姉ちゃんが行きます。地理には詳しくありませんし、街中はお姉ちゃんが嫌が……ふにゅ」
「こら、それでは我がえり好みしてるみたいではないか。……まあ、街が苦手なのは否定せんが」
「じゃ、僕とイルが南東に行くよ。あそこは……マーゼキア地区か」
「わりと閑散としてるし、多少暴れても被害が抑えめになるのが救いね。ジェディンはどうする?」
「俺はここで待機していよう、不測の事態が起きた時にリカバリー出来るようにな」
「分かりま……あの、つよいこころさん? 頭の上にいられると邪魔なんですけど……」
アクシデント発生に備えてジェディンが残ることになり、話し合いは終わった。キルトたちも出撃しようとするが……。
困ったことに、つよいこころ八百七十号がキルトの頭の上に陣取り動こうとしない。彼を気に入り、離れなくなってしまったのだ。
「仕方ない、その子も連れてってやってくれ。戦闘のサポートくらいは出来る、迷惑はかけないだろう」
「我としては不安なのだが……本当に大丈夫なのだろうな?」
「問題ナシ、バッチリサポートシマス」
「ま、ここでうだうだしてても仕方ないよお姉ちゃん。行こう、もうご先祖様の遺産は連中に渡さない!」
諦めたキルトは、つよいこころ八百七十号を連れていくことに。こうして、残る三つの初代ダイナモドライバーを守る戦いが始まった。
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