194話─英雄たちの意思は一つ
またしても飛び出したユウの爆弾発言に、キルトと彼の仲間たちは仰天してしまう。そんな中、アスカはフィアロが言っていた言葉を思い出す。
「あー、そういや上の神さんが言っとったな。なんやこの百年くらいで千人ほど転移やら転生してくる連中がおるって」
「今はもう三万人超えたよ、っていうかもう増えすぎて計測するの面倒だからやめちゃったってさ」
「ちょっと待って、さらに爆弾発言を追加しないでくださいよリオさん!?」
アスカの発言にリオがさらなる衝撃発言をたたみかけ、もう収拾がつかない。その様子を、呆れたようにチェルシーたちが見ていた。
「なんだ、その程度で驚くなんて案外肝っ玉小せぇんだな。コーネリアスさんから聞いた話はフカシだったわけだな、え?」
「……あん? 何ですって?」
「デスデス。あいつらただのチキン野郎デスマス、肩透かしってやつデス」
「お前もそう思うか、ブリギット。だよな、あいつらよりアタイらの方が強えよ絶対」
驚きで固まっているエヴァたちを見て、小バカにしたようにチェルシーが呟く。そこに、自動人形の女……ブリギットも同調した。
挑発されたことで我に返ったエヴァが相手を睨み付け、またしても一触即発の空気が漂う。が、即座にリオが仲裁に入る。
「はい、そこまで! これ以上挑発するなら、僕がお仕置きするよ!」
「そうよ、チェルシーもブリギットもやめなさい。私たちがいがみ合う必要はないでしょう?」
「う、分かったよ。リオさんやシャロにそう言われちゃあ引き下がるしかねえや。悪かったな、えーと」
「エヴァよ。エヴァンジェリン・コートライネン。それだけ覚えときなさい」
ひとまず、リオのおかげで危機は去った。キルト陣営とユウ陣営は互いに自己紹介し、友好を深める。
「アタイはチェルシー。ユウの仲間でオーガとゴブリンのハーフだ。ま、よろしくな」
「私はシャーロット、みんなからはシャロって呼ばれてるわ。一応、チームのリーダーをさせてもらっているの」
「ワタクシはブリギット言いマスデス。元サーカス団の曲芸師デス、特技はトマホークのジャグリングデス。よろしく」
ユウの仲間三人の自己紹介が終わり、ようやく剣呑な雰囲気が消えた。リオとキルトがホッと安堵の息を漏らしていると……。
『うむ、これで素性は分かった。……ところでエヴァたちよ、お前たちはこんな辺鄙なところで何をしていたのだ?』
「あ、実はね。理術研究院のサモンマスターが……」
ルビィが質問をし、エヴァが答える。サモンマスタールガことアグレラが現れ、迎撃に現れたこと。三人の連携で追い詰めるも、ダイナライズなる新機能で逆転されたこと。
そこにユウが現れ、あっという間にアグレラを倒してしまったこと。その後、いろいろ質問した結果泣き出してしまい、チェルシーたちが現れ……。
「……まあ、大変だったわけよ。こっちもね」
「ふーん……ダイナライズ、ね。どうやら、理研の連中は僕をオカンムリにさせたいみたいだねぇ。ふふ、ふふふふふ」
『あの、リオさん? 笑顔が怖いです……』
「ユウくん、ちょっと悪いんだけどさ。もうしばらく、キルトくんたちに力を貸してあげてもらえないかな? 今回の敵は、僕の大切な友達が遺した技術を悪用してる。そんなのは許せない……潰してやらなきゃいけないんだ」
リオもすでに、二つのダイナモドライバーが奪われたことを把握している。そして、今回現れたドライバーの技術を悪用した敵。
かつて、ドライバーの開発者たるフィルと死闘を繰り広げ……その果てにかけがえのない友となったリオにとって、決して許せることではない。
『わ、分かりました。ボクも、そういうことは許せないです。こんな弱虫でダメダメなボクでいいなら、いくらでも力を貸します!』
「いや、弱虫だなんてそんな。エヴァちゃん先輩から聞いた限り、勇敢に戦ってくれたんだよね? 自分を卑下しないで、君は強くて勇敢な仲間だよ!」
『キルトさん……。えへ、ありがとう』
キルトが差し出した手を、チェルシーに抱かれたユウがそっと握る。今ここに、新たな英雄同士の友情が築かれた。
その様子を、リオやエヴァたちは微笑ましそうに見つめていた。
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「というわけで、キルトの代わりに確かにデータは届けたぞ。では、妾はこれで失礼する。ウォーカーの一族どもの足取りを追わねばならぬのでな」
「ああ、協力感謝する。ありがとう、アイージャ」
「なに、気にするでない。では妾はもう行くぞ」
その頃、アイージャによって暗域に住まうモンスターのデータ入りカードがアリエルに届けられた。ジェディンに礼を言われ、嬉しそうに尻尾を振った後魔神は帰郷する。
「さあて、読者くんはどんな……おっ、これは粋なことするねぇ。なるほど、いいんじゃないかな。数も多いしより取り見取りだ」
「おっ、そうなんすか? ……って、ホントにいっぱいいるっすね」
「うん、それにこの子たち……半分以上が私たちと本契約してる子の別個体だ。ふふ、読者くんったら味な真似するよ」
暗域に出向いたキルトとルビィは、せっかくならと思い立ちGOSメンバーが本契約しているモンスターたちの別個体のデータを集めたのだ。
流石にエルダードラゴンとバイクに擬態するミミックは無理だったが、それ以外のモンスターたち……キルモートブル、インペラトルホーン、ミステリアグル。
ファンシェンウーにレールタイバー、フロウラピルと一通りデータを集めることが出来た。他にも、ルヴォイ一世の相棒であるカイザレオン、ティバとネヴァルの相棒だったカーネイジファングとビューコックのデータもある。
「さ、今日は夜通し悩んでもらうよ! なにせ十三種、全部特性が違うからね。自分の戦闘スタイルと相談して選んでって!」
「だって、ゼル。どうしましょ、いっぱいあると悩んじゃうわね」
「なんだろ、凄くワクワクするなぁ。選べるのは一回こっきり、後悔しないようにしなきゃ!」
ホログラムとして映し出される全十三種類のモンスターたちを眺めながら、ウィンゼルたちはわいわい話し合いつつどれを選ぶか悩む。
一方、ルナ・ソサエティ本部では……。
「メイナード様、初代クリムゾン・アベンジャーのドライバーの移送を完了しました。現在、この先にて厳重に警備しています」
「ご苦労様。やれやれ、並行世界の視察から呼び戻されて何事かと思えば。とんでもないことになったものだね、本当に」
地下深くにあるシェルター前にて、最高幹部である月輪七栄冠の一人……そして、ジェディンの妻でもある女性メイナードがダイナモドライバーの警備をしていた。
急遽ヘカテリームによって呼び戻され、事情を聞きかつて夫が愛用していた装具を守るための任に付いたのだ。その隣には、同じくジェディンの妻にしてかつての部下、サラがいた。
「何だか不安ですね、メイナード様。サモンマスターなる存在は、私たちじゃ対抗出来ないらしいですし……」
「サラ、また様を付けるクセが出たね? いつも言ってるだろう? 私たちはジェディンの妻、もう対等な家族なんだから様付けはいらないよって」
「あ、ごめんなさい。どうもこういうおおやけの場だと……あら? 彼らは誰でしょう?」
警備を固めるなか、黒いローブを着た三人の男女が地下シェルターに現れる。三人とも、胸元に紫の炎に包まれたドクロの勲章を身に着けていた。
「失礼、君たちは誰かな? 見たところ、ソサエティ所属の魔女ではなさそうだが」
「お初にお目にかかります。わたくしの名はデューラと申します。隣にいるのがコリンズとアリス。わたくしたちは、偉大なる命王アゼル様の命を受け……あのお方の代理で、貴女がたの手助けをするべく馳せ参じました」
「えっ!? ってことは、三人とも……」
「はい。全員死を超越せし闘士……ノスフェラトゥスです。わたくしはスコーピオンノスフェラトゥス、同組織の殻組というチームを纏めています。以後お見知りおきを」
長いブロンドの髪を揺らし、デューラは優雅に一礼する。彼女にならい、両隣にいる仲間二人もうやうやしく頭を下げた。
「同じく殻組所属、ホーンビートルノスフェラトゥスことコリンズです。これからよろしく、魔女の皆さん」
「右に同じく殻組、スタッグビートルノスフェラトゥス……アリスです。共に力を合わせ、理術研究院の魔の手から装具を守りましょう!」
「……ああ、よろしく頼むよ。後でアゼル殿にはお礼の手紙を送らないとね。彼は息災かな?」
「はい、今は特別な用事があるためここには来れませんが……いずれ、あのお方も参じるかと。力を合わせて戦うために」
お礼の言葉を述べるメイナードに、デューラはそう答え笑いかける。双子大地に、続々と集いつつあった。
今は亡きヒーローたちの……大切な友の遺産を取り戻すために。今を生きる、英雄たちが。




