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164話─ルヴォイの仕事

「申し訳ありませぬ、陛下。せっかく奪取した紺碧の長城を手放すこととなってしまいました……」


「よい、それよりもお前が無事戻ってきてくれたことに安堵している。今は待機せよ、次の任務で汚名をそそぐがよい」


「ハッ! 寛大なるお言葉、感謝致します。この失態は必ず、挽回させていただきましょう!」


 キルトたちが紺碧の長城を奪還し、囚われていた捕虜たちを解放していた頃。敗走したガリバルディはマルヴァラーツに戻り、皇帝に報告をしていた。


 紺碧の長城を、キルトたちに奪還されてしまったことを。ルヴォイ一世は気にした様子は無く、部下にそう声をかける。


「うむ、期待している。……朕はこれより、()()せねばならん。コロシアムに行く、留守を任せるぞ」


「執行……ああ、ついになされるのですな? 先の継承戦争で退治し、打ち倒し捕らえた……御兄妹の処刑を」


「ああ。民はみな心待ちにしている。己を苦しめ、無用の悲劇を振りまいた皇族の死を。引導を渡すのが、同じ皇族たる朕の責務だ」


 二年に及ぶ帝位継承戦争の末、妃は全滅。生き残った皇子・皇女はルヴォイ一世を含めて九人。その内、末の皇子以外は処刑が決定していた。


 末の子はまだ齢一桁であり、挙兵が本人ではなく後見人と母の意思であったこと……そして、ルヴォイ一世が急逝した時の『備え』として助命されたのだ。


「行ってらっしゃいませ。このガリバルディ、陛下がお戻りするまでこの玉座を死守致します」


「ああ。では行ってくる」


 ガリバルディに見送られ、皇帝は城を経つ。街の中心にあるコロシアムに向かい、きょうだいを処刑するための準備を行うため控え室に向かう。


「陛下、お待ちしておりました。この日のため、ヴィクトル閣下に許可を取り帰参致しました」


「アルセナ、愛しき者……来ていたか。見ていてくれ、お前たちシュトラ族を裏切った我が弟は今日ここで死ぬ」


「陛下……いえ、フィリップ様。サモンマスターの力があるとはいえ、ワタシは心配でなりません。万が一、貴方を失うようなことがあると──」


 ルヴォイ一世ことフィリップの元に参じたアルセナは、愛する者の身を案じそう口にする。相手は帝位を勝ち取るべく、鍛錬を続けてきた猛者揃い。


 サモンマスターの力ゆえの優位性があっても、万が一の事態を想起せざるを得ない者たちばかりだ。心配するアルセナに口付けし、言葉を遮るフィリップ。


「案ずるな、そのような万が一など起こらぬし、起こすつもりもない。お前は高みから見下ろしていればいい。かつて自分たちを裏切った者が、裁かれるのを」


「……かしこまりました。お戻りになられたら、ゆっくりと語らいましょう。あの日、ワタシたちが出会った時のように。舞い散る粉雪を眺めながら」


「ああ、約束だ。さ、観覧席に行くといい。朕の……いや、俺の婚約者にして麗しき狩りの女神よ」


 互いに歯の浮くような台詞を述べあった後、二人は控え室を後にする。皇帝は処刑の舞台へ、アルセナは貴賓席へ。


 ルヴォイ一世がコロシアム内に現れると、満席となった客席から割れんばかりの喝采と拍手が鳴り響く。みな待っていたのだ。この時を。


「エンペラー! エンペラー! エンペラー! エンペラー!」


「偉大なる皇帝陛下万歳! ルヴォイ一世に栄光あれ!」


「……コホン。みな、聞くがいい! これより、我がきょうだいの処刑を始める! 朕はこの手を血で汚し、諸君らへの償いの第一歩を踏み出すことを誓おう!」


 皇帝の宣言に、観衆の熱はさらに高まる。直後、ルヴォイ一世が入ってきたのとは反対側の出入り口から武装した七人の男女が入ってきた。


「クソッ……フィリップの奴め、俺たちを完全に悪者に仕立て上げやがって。戦争に参加したのはあいつも同じなのによお!」


「嘆いても仕方ない、兄者。所詮我らは敗北者、敗れし者は常に悪にされるものだ」


「ああ、もうおしまいだわ……。こんなことなら、捕まる前に舌を噛み切っておけばよかった……」


「うう、今からでも土下座すれば助けてもらえないかなぁ……。嫌だな、死ぬのだけは絶対に嫌だ……」


 フィリップの兄に姉、弟に妹。観衆から憎悪と憤怒の視線を向けられるなかで、反応は七人みなバラバラだった。


 諦観の念を抱く者、フィリップへの怒りをあらわにする者。どうにかして助けてもらえないかと必死に頭を働かせる者、絶望に沈む者と見事にバラバラだ。


「我がきょうだいたちよ、聞くがいい。今から十分ごとに一回銅鑼が鳴る。十回銅鑼が鳴るまでに生きていた者は、去勢し地位を剥奪した上で助命してやろう。そうでなくては、戦いにやる気が出なかろう」


「……言ってくれるわね、借り物の力を得たからって調子に乗らないでちょうだい! お前なんて返り討ちにしてやるわ!」


 皇帝の言葉を聞き、赤銅色の鎧を着ている女が大声を出す。女……第一皇女ルミアールは、先陣を切って走り出す。


「よかろう、ならば来るがいい姉上。最初の一撃は受けてやる!」


『サモン・エンゲージ』


 ルヴォイ一世は契約(エンゲージ)のカードをサモンギアに挿入し、サモンマスターエンペラーへと変身する。アルセナや観客が見守るなか、ルミアールが迫る。


「頑丈そうな鎧ね。でも! 首の部分が覆われていない! お前の命、貰った!」


「いけー! 姉上、そこだ!」


「フィリップの野郎の首を獲っちまえー!」


 きょうだいたちの声援を受け、ルミアールは剥き出しになっている皇帝の首目掛け剣を叩き込む。だが……その一撃は、何の意味も無かった。


 渾身の力を込めて叩き込まれた刃は、ルヴォイ一世の首を刈ることも出来ず粉々に砕け散った。それを見て、ルミアールは顔を青ざめさせる。


「う、嘘……」


「ああ、姉上は朕と直接戦っていなかったから知らないのだったな。サモンマスターに対しては、普通の武具による攻撃は無意味なのだと」


「お前……最初からそれを見越してこんな茶番を!」


「より高い場所から突き落とした方が、底に叩き付けられた時の傷は大きい。覚悟するがいい、死をもって民を苦しめた罪を償え!」


 ああは言ったものの、最初からルヴォイ一世はきょうだいを一人も生き残らせるつもりはなかった。希望を与えてから、絶望の淵に落とす。


 それが彼がきょうだいに対して行う、罪を償わせるための処刑なのだ。一旦距離を取ろうとするルミアールを容易く捕まえ、皇帝は首を掴み相手を持ち上げる。


「う、ぐ、はな、せ……!」


「第一皇女ルミアール。お前は己の美しさを保つためと称し、うら若き乙女を攫って殺しその血を浴び続けたな。その罪、今ここで裁く!」


「やめ……がひっ!」


 首を掴む右手に力を込め、ルヴォイ一世は握力だけでルミアールの胴と頭をちぎり取ってみせた。胴体が地に落ち、鮮血がほとばしる。


「ひ……ひいいいい!!」


「そ、そんな! あんなに強かったねえ様があんな簡単に……」


「さあ、次は誰だ? 挑むにせよ逃げるにせよ、好きにするがいい。全員、結末は……」


『ポールコマンド』


「一つしか用意されていないのだから」


 ルミアールの首を投げ捨て、血を拭った後ルヴォイ一世はデッキホルダーからサモンカードを取り出す。得物たるハルバードを召喚し、処刑を続行する。


「いいぞー! やれー! ブチ殺せー!」


「血と金で汚れた皇子どもを裁いてくれー! あいつらのせいで、俺は……家族を……ううっ」


「あの極悪ルミアールには、うちの娘が殺されたんだ! 無様に死んでくれて清々したよ!」


 次々と皇族が殺されていくのを見ながら、観客たちは熱狂し続ける。その様子を、アルセナは遙か高みの席から見下ろす。


「……これで、禍根は絶たれた。後は、ワタシたちが陛下の……フィリップ様のお手伝いをするだけ。理想の世界を手に入れるために」


 皇子・皇女という膿を排除し、ゼギンデーザ帝国はさらなる結束を固めた。もう、この国を揺るがす内憂は存在しない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 態々生かした上で民達の恨み辛みを全て浴びせてから殺すか(ʘᗩʘ’) バカげた争いを起こした皇族(身内)全てを根絶やしにして新たな国作りの強固な地盤を固めるか(٥↼_↼) 間違っても折らず…
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