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99話─生と死の王

 リリンと共にアジトを離れ、別の大地へと向かうエヴァたち。途中、コーネリアスのところに寄って借りていたマスターキーを返却する。


 その後、リリンたちの拠点がある大地……ギール=セレンドラクへ足を踏み入れた。導かれたのは、遙か天のいただきに浮かぶ五つの島々。


 フライハイトと呼ばれる、竜人たちの暮らす神秘の浮島だ。


「ほう、凄いな。こんな海の遙か上に、島が浮かんでいるとは」


「会議が終わったら多少見て回ってもいいが、あまり端の方に行かない方がいい。特にセーフティはないからな、普通に落ちるぞ」


「ん……忠告ありがとう。気を付け……どうしたアスカ、震えているぞ?」


「うう……ウチ、高いトコ苦手なんや。こないけったいなトコに連れてくんやったら、事前にそう言ってくれへん!?」


 高いところが苦手なようで、アスカは町中だというのに顔を青ざめさせていた。そんな彼女を鼻で笑いつつ、リリンは魔法で作り出した赤い球を上空に放つ。


「フッ、情けないことを言う奴だな。そんな調子では、この先大変だぞ? 何せ、もっと高いところに行くんだから」


「へ? おわっ!? なんやこの風!」


 球が破裂し、汽笛のような音が鳴る。すると、リリンたちがいる島より上方にある別の島から何者かが降りてきた。


 現れたるは涼やかな風を纏う、竜人の女。淡いエメラルドグリーンの鱗を持ち、同じ色のチェインメイルを身に着けている。


「久しぶりね、リリン。こうやって会うのは何十年ぶりかしら」


「ああ、久しいなリンベル。……流石に、結婚してからはレオタードを着るのはやめたようだな」


「まあね。もう三十人くらい産んだ母親なんだし、いつまでも昔みたいに……って、立ち話してる場合じゃないっての。……ところで、この人たちが今回の作戦の志願者なわけ?」


「ああ。みんなに紹介しておこう、彼女はリンベル。このフライハイトを束ねるエルダードラゴン、『金雷の竜』ヴァール公の腹心だ」


 古い友人同士のようで、リリンたちは和やかなムードで話をしている。一旦話を切り上げ、エヴァたちにリンベルの紹介が行われた。


 続いて、エヴァたちも一人ずつ自己紹介をする。一通り終わったところで、アゼルの待つ場所へと向かうことに。


「彼は今、上の浮島にある『雷帝の寝床』にいるわ。あたしが送ったげるから、みんな近くに来て」


「うー、大丈夫なんかいな? 途中で海にポイー、なんてせぇへんよな?」


「なによー、そんなことしないっての。むしろ、そんなこと言うよーな奴は海に落とし」


「えろうすんまへん、堪忍してつかぁさい! 安全運転で頼んまっせ!」


 心配症なアスカに、リンベルがからかい半分にそう答える。即座に土下座し、安全に上の浮島に届けてくれるよう懇願するアスカ。


 そんな彼女を見て大笑いしつつ、竜人の乙女は指を鳴らす。すると、エヴァたちの身体を上昇気流が持ち上げ、浮島へ運んでいく。


「じゃ、いってらっしゃーい! あたしは街の見回りしなきゃだから。じゃーねー」


「あら、ふわふわしていい心地ね。このまま運んでもらえるなんてらくちんじゃない」


「ふおおおお、アカーン! これじゃ下が丸見えやんけ! こんな大パノラマ嬉しゅうないわー!」


「やれやれ、大げさだな。おお、なかなか大きいんだなこの街は」


 リリンやエヴァ、フィリールはのんびりしているがアスカは大騒ぎ。よほど高いところが苦手なのだろう、浮島に着くまで悲鳴をあげていた。


「着いたぞ。アスカとやら、いい加減まぶたを開け。目を瞑ったまま歩くつもりか?」


「お、おお……硬い感触がある。着いたんやな、ちゃんとした地面がある場所に……!」


「本当、これじゃ先が思いやられるわね……ほら、さっさと目ぇ開けて歩きなさい! ケツ蹴り飛ばすわよホラッ!」


「あいたっ! ホンマに蹴ることないやろ!?」


「うむ……美しいフォームだ。是非私も蹴ってほしいものだな」


「……なんだこやつは。一体何を言っているんだ……?」


 アゼルが待つ島に着いたはいいが、そこからも一悶着あるのがサモンマスタークオリティ。生まれたての子鹿のようにぷるぷる震えながら、のったのたしているアスカ。


 そんな彼女の尻を容赦なく蹴り上げ、悲鳴をあげさせて悦に浸るエヴァ。その光景を見て、ドM魂を炸裂させるフィリール。


 理解不可能なものを見たリリンは、それまでのクールな態度を崩し狼狽していた。主にフィリールのせいだが、まあ仕方ないことだ。


「っと、いつまでも遊んでいる場合じゃないぞ! さっさと歩けお前たち! アゼルを待たせるな、城に入れ!」


「はーい」


「あーい」


「ああ、待ってくれ! その前に一発蹴りを」


「オラァ!」


「おっふ❤」


「ええ……」


 我に返ったリリンに一喝され、おふざけをやめて島の中央にそびえ立つ城に向かおうとする一行。が、フィリールはまだダメだった。


 エヴァに尻を蹴り抜かれ、恍惚の笑みを浮かべるフィリール。彼女を見て、得体の知れないものを見るような目を向けるリリン。


「分からん……私には分からん。この千年と数百年でいろいろと奇妙なものを見てきたが……フィリール(こやつ)が一番奇妙だ」


 そう呟き、謎の敗北感に打ちのめされながらリリンは先頭に立ってエヴァたちを城に招く。最上階にある会議室に入ると……。


「やあ、お待ちしていました。ぼくはアゼル・カルカロフ。皆さんのことは、コリンくんから聞いていますよ。はじめまして、サモンマスターの皆さん」


「はじめまして、アゼル王。アタシ……こほん。私はコーネリアス様のしもべたる大魔公、エヴァンジェリン・コートライネン。こうしてお会い出来たこと、嬉しく思います」


 会議室の中央に、巨大な円卓が設置されている。正面扉から見て、一番奥の席に一人の少年が座っていた。


 ツギハギだらけのローブをマントのように羽織り、その下には髑髏を模した鎧を着ている。そして、左目の黒目にドクロのマークが浮かんでいた。


 この少年こそが、ネクロ旅団を束ねる命王アゼル。サモンマスターを代表して、エヴァが挨拶を行う。


「ええ、あなたのこともコリンくんから聞いていますよ。さ、座ってください。じきに皆来ますから」


「お前たちは手前側の席に座るといい。手前ならどこでもいいぞ」


 アゼルやリリンに促され、エヴァたちは席に着く。少しして、残り三人のネクロ旅団死天王たちがテレポートで現れる。


「時間ピッタリですわね。あら、この方たちは……」


「例のサモンマスターとやらだろう。アンジェリカ、あまり客をジロジロ見るな。失礼だ」


 シャスティと共に現れたのは、銀色の髪を持つ格闘家風の装束を着た少女……アンジェリカ。そして、エヴァと同じ闇の眷属の女、アーシア。


「あんたは……知ってるわ、むかーしコーネリアス様のご母堂様が魔戒王だった頃の部下だった人ね」


「ああ、余を知っているようで何より。他の者は知らぬだろうから名を名乗ろう。余はアーシア。ネクロ旅団死天王の一人だ」


「同じくネクロ旅団死天王、アンジェリカですわ。以後お見知りおきを」


「アタシはシャスティ。ま、例によって死天王の一人だ。よろしくな」


「ええ、こちらこそ。さ、アゼル様。早いとこ会議を始めましょう」


「ええ、そうしましょうか。では、まずお互いに持っている情報のすりあわせをしましょう」


 顔合わせも済んだところで、早速魔魂香炉破壊作戦についての会議が始まる。現段階で互いが把握している情報を、それぞれ提示した。


「なるほど、そちらはそういう事態になっているのですね……。死者の眠りを妨げ、引き裂かれた親子に苦痛を味わわせるとは。ぼくが考えていた以上に、そのボルジェイという男は……許し難い存在ですね」


「え、ええ。アタシたちも怒ってるのよ。キルトを苦しめるあのクソ野郎にね」


 エヴァの話を聞き、それまでの穏やかな雰囲気を引っ込め憤るアゼル。その変貌っぷりに、思わず冷や汗が頬を伝う。


「こ、こわ~……。ウチ、思わず漏らすとこやったで」


「お漏らしくらいなら問題ないぞ、スケルトンがすぐに処理すっからな。ま、小じゃなくて大だと手間取るけどな!」


「ちょっと、シャスティ先輩。相手に失礼ですわよ、それに下品ですわ」


 アスカが身震いしていたが、シャスティの発言によって空気が緩む。場の雰囲気が戻っていくなあ、アゼルが話し出す。


「では、現状把握も済んだところで。皆さんに説明します。ぼくたちの立案した作戦……オペレーション・サンダーソードについて」

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― 新着の感想 ―
[一言] このシリーズは長命種や不老長寿、不老不死までゴロゴロいるから時代の経過が曖昧な所もあるんだが(ʘᗩʘ’) 時が経つのは早い物だな(◡ω◡)フィルの時はウォーカーの一族の問題があったから大人…
[一言] リリン、アレはもうスルーしたほうがいいわw ところでメレェーナはどこへ行ったん?
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