第一章 3 『不本意の味』①
1642年
傷面の男レインスコールに呼び出された数日後、ビビアンハートは新しく用意された自分専用の少佐室にいた。
「ふわぁ〜〜·····。」
まだまだ欠伸をしながら先日までの自室から新しい部屋への引越し作業を進めるビビアンハート。広くなった部屋でゴロゴロとふざけながら休憩していると、勢いよく扉が開いた。
「お初お目にかかります。この度、アルヴァレット少佐殿の補佐官の命をスコールレイン大佐より仰せつかりました。アルマノフ・ブラッドベルと申します。中尉です。」
「堅いね。いいよいいよ、この間まで私だって階級一緒だったんだし。その堅さならスターク中佐とウマが合いそうだね。」
人が入って来たにもかかわらず床に転がるビビアンハート。昨日とはうってかわってだらけた面構えだ。
「は、はぁ。」
どうして寝転んでいるんだ?とでも言うかのように彼女を見つめるアルマノフ。そんな彼に彼女は言う
「いいじゃん自分の部屋だし。最近大佐に会う度いびられるから参ってんのよ·····まぁ私だってやるときゃやるさ!」
彼女は床に仰向けのまま親指を立てグッと自信ありげな視線を送るがあまりにも説得力もない姿に呆気に取られるアルマノフ。
「わ、分かりました。では、これだけは言わせて下さい。昇進おめでとうございます。」
「ん。ありがとう。ところでさ、私大人数相手に纏めるとか気張って喋るとか苦手だからさ、そういうのお願いします。」
ビビアンハートは今度は飛び起き正座に体制を変え胸の前で両手を擦り合わせながら懇願した。元気なのか、忙しい性格なのか、はたまた若い故か。アルマノフは拍子抜けのようだ。
「それは良いのですが。もともとそういったことも大佐から聞いておりますし。ところで部隊編成はお済みになられましたか?」
その言葉を聞いたビビアンハートが今度はキョトンと呆気の様で問いかける。
「え?!私がするの?」
もちろんですよ!と言わんばかりの表情で頷くアルマノフ。
「あぁー·····そういうの上がしてくれると思ってた。」
仕事が増えたことが嫌なのか再び床を転がり始めたビビアンハート。
「はぁ、大佐もちゃんと伝えといてくださいよ。一応ここにこの部隊に似合いそうな人材の資料と、募集用の貼り紙も作っておきましたので。」
レインスコールから「頼んだ!あとよろしく!」と昨日言われたことが脳裏に浮かび、無責任な上官2人に少し呆れた様子だが、ここは真面目が取り柄のアルマノフの習性が生き、事前に用意しておいた資料を彼女の机に並べた。
「はぇー·····やるねー!さすが、我が右腕!」
尾を振る子犬が飼い主に向けるような恍惚の眼差しを向けながらビビアンハートは言った。アルマノフも多少慣れてきたのか
「とりあえずこれ進めていきましょう。大佐から2ヶ月以内に編成は終わらせとけとの命令も出てますし。」
と淡々と仕事に取り掛かろうとし始めた。
「短っ!まぁ仕方ないか。あぁ、1人で今まではだらけられたのにな〜。」
「もう無理ですよ。僕が貼り紙終わらせてくるので、資料に目だけでも通しておいてください。それでは、失礼します。」
言うとアルマノフは颯爽と貼り紙をしに出て行ってしまった。ビビアンハートは起き上がりながら
「はーい。行ってらっしゃい。よろしくね〜、」
と他人事のように言う。彼にはもう聞こえていないだろうが。とりあえず言われた通り、椅子に腰かけ先程の資料に目を通す。資料に関しては履歴書みたいなものだ。
「ふーん。結構色んな人がいるねぇ。ん?でもなんか、同じような·····。まぁいっか。」
他人の名前、生年月日、出身地、特徴等など書き込まれた資料は今まで1人で居た彼女にとって新鮮で思いのほか食いつきちゃんと読み込んでいた。
「張り紙終わりました。どうですか?目を引く者はいますか?」
またもや勢いよく扉を開け入ってきたアルマノフ中尉。帰ってくるの早っ!と時計を見るビビアンハートであったが気づけば約2時間も経過していた。よほど集中していたのだろう。
「あっ!いや·····んー、まぁ何人かはいるけど、実際会ってみないとねぇ。日程とか組んでもらえる?」
「分かりました。では3日後とかでよろしいでしょうか?実はもう既にこれだけの数の応募がありまして。」
アルマノフがそう言ってビビアンハートに見せた名簿にはものの2時間でびっしりと名前が記されていた。
「まじ?早くない?多くない?だったら明日でいいよ。」
「明日ですね。では早速明日実施と追加で貼り紙してきます。では、作業進めますので、明日の15時中央で実施ということでよろしくお願いします。」
これまた仕事が出来る男なのか、言いながら既に新しい貼り紙を作り始めるアルマノフ。邪魔しちゃ悪いよねとでも言うかのようにビビアンハートは立ち上がり
「了解〜。んじゃ私はお出かけしてくるからよろしくね!」
と、どこかへ出かけてしまった。本来なら彼女の仕事でもあるにも関わらず。
「はぁ、呑気な人だ。悪魔だなんて似合わないにも程がある。まぁでも仕方ない。」
言いながらも意外と優しい表情のアルマノフであった。その日のうちにしっかりと全ての業務を1人で終わらせたアルマノフ。仕事のできる男とはこういうものなのだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日 正午
クローディア帝国中央都市クラーディナ。
ついさっき昼食としてパスタを大盛り3人前平らげたビビアンハートが今度は街のケーキ屋のDulce beatitudo通称ドルビアに来ていた。
「ぅっはぁ〜!美味しそう!新作のレアチーズピーチ白餡タルト!これにします!これください!」
ショーケースに手も顔もべったりと貼り付きながら注文をしている彼女。
「はいよ、C€1390ね。あら、昇進したの?!おめでとう。」
※C€=クーロ(クローディア帝国の通貨単位)
この店の店主の中年の女性、ダニエラがビビアンハートの胸の国花紋と肩の星章を見て言う。国花紋は官位を星章は階級をそれぞれその数で表される。ビビアンハートは双花弁・三星章であり、胸に国花であるアイリスを象った刺繍が2つ施され、肩には左右3つずつ星の肩章がある。
「ありがとうございます!」
「それにしても相変わらず凄いねぇ、1人でホールケーキ平らげちゃうんだから。」
ダニエラは愛想も面倒見もよく街の住人から好かれており、ビビアンハートのこともよく気にかけてくれている。そして彼女のことを『ビビ』と愛称で呼び、たかだか店員と客と言う関係では無い。なのでビビアンハートも足繁なくこの店に通っている。
「いやぁ、兵士たるものいつも体動かしてますので!私の財産は食費に費やすと決めているのです!1日5食とホールケーキは欠かせないですよ。」
「まったくビビったら無駄遣いしちゃいけないよ!いいわねぇそれでもそのスタイルを保てているなんて。羨ましいわぁ。でも、偏食はするんじゃあないよ。」
ビビアンハートはそう言われながらもどやりながらモデルのようにポーズを決め引き締まったスタイルを見せつける。その様を優しく笑いながら見るダニエラは慣れた手つきでケーキを切り分け盛り付け、ビビアンハートに渡した。
「やった!いただきます!!」
席に着くやいなや脇目も振らず目の前の甘味を貪るビビアンハート。「っおいひぃ!」と口いっぱいに頬張りまともに美味しいの一言ですら言えていないが、座りながら足踏みをするほどその美味しさに喜々としている。
この国は海産資源だけでなくその適度な温暖気候と湿度により農作物もよく育つ。主に小麦が主食の文化である。
これもここではよく見られる光景だが、今日もがっつくビビアンハートにダニエラは「誰も盗らないからゆっくり食べな!」という具合だ。まぁこのやり取りは茶飯事である。ビビアンハートにとってこの時間は幸せそのものである。その時間に浸っていたその時
「おい!金を出せ!これに詰めろ!」
ナイフを店員に突き立て強盗に及ぼうとする仮面の男がやってきた。
※とても大事なお願いです。
この話を読んで少しでも
『面白いかも!』
『続きを読みたい!』
と思われた方は、評価、ブックマークお願いします!
今後も更新を続ける『大きな励み』になりますので、どうか何卒よろしくお願いします。
応援よろしくお願いします。
↓広告の下あたりにポイント評価欄があります!