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第一章 2 『英雄と呼ばれる男』①

1635年クローディア帝国北西部


「っふぅー·····。」


男はその口内の香しい味を確かめると、深く深く葉巻の煙を吐き出す。眉間に皺を寄せその傷面を歪めている。軍服の襟を大きく開き、太陽の熱に汗を滲ませていた。


「少佐、戦場で喫煙などやめてください。」


男にそう話しかける青年。まだ若いその目は男を真っ直ぐに見据えていた。言われた男は表情を緩め、青年の頭を強引に撫でつけながら言う。


「んぁ?おいおい、硬いこと言うな。いつ死ぬか分からんだろ。吸える時に吸わせてくれ。」


「死ぬなんて縁起でもないことを·····。必ず帝国が勝利します。」


青年はそんな甘い態度を見せる男を見据えたまま頬を強ばらせて言った。いつ死ぬか分からない。そんなことは分かっている。そう言わんばかりに。


「いやいや、人は死ぬぞ。戦争だからってんじゃない。何時何処で何が原因で死んでもおかしくない。だからその前準備をだな。」


だが男はあっけらかんと返事をする。そう、今この場こそ紛争真っ只中の血が溢れかえる戦場だ。

クローディア帝国北西部『ヴァラディア』、この地区に隣接する『ジャシュラス王国』との国境。

ここは現在紛争の渦中である。そうなった理由はジャシュラス王国からクローディア帝国への違法入国者が表れたこと。これだけなら稀に起きうることであり、普段ならその入国者のみ捉えれば良かった。ジャシュラス王国は完全なる弱肉強食を体現したような国であり、生きるために逃亡し帝国へ違法入国すると言うのが大抵の理由だ。

しかし今回、ジャシュラス王国からの逃亡者を逃がさんとするジャシュラス側の軍小隊の介入があった。それだけでもまだ戦争までは起こらなかったはずだ。だが、ジャシュラス王国はヴァラディアの一部の森を焼き払った。そして、そこに住んでいた帝国民の1人がジャシュラス軍の1人を銃殺した。これが、この戦争の始まりだった。


青年は悲痛な様をその目に浮かべ、眉を顰める。


「それでも、少佐は生きてください……いざとなれば私を盾にしてでも!」


「いつも言ってるだろう。部下が俺より先に死ぬことは許さん。てことはだな……全員で生き残るしか無くなったな!ガッハッハッ。」


青年の肩を叩きながら男は笑い飛ばす。青年の悲痛さを吹き飛ばしてしまうかのような笑顔だ。全員で生き残るとは簡単に言ってくれる。だが、それが実際に出来てしまうのではないかと思わせる気概がその場の空気を飲み込んだ。敵からすれば恐ろしいのかもしれない。だが、青年にからすれば、心強く、心の波が静まっていくようだった。


「第一だ、スターク。お前さん俺より強いだろ、帝国からしても俺より失えない存在だと思うがな。」


そう言うと再び葉巻を吸おうとするが、火が消えてしまっていることに気付き、「…ありゃりゃ」と小さく呟きながらパチンと指を鳴らした。すると指先から小さい火が発生し、吸いかけの葉巻にもう一度その役目を果たさせる燈が灯った。


「いえ、私など…『治癒魔法』しか出来ませんから。治癒魔法と言ってもなんでも治せる訳ではありませんし。」


青年、男がスタークと呼ぶ青年は、『治癒魔法』を扱うことが出来る。自身のことを卑下するスタークに男は


「いやいや、それでもすごいだろう。帝国全域でもそこまでの治癒魔法を使える人間なんていないさ。見てみろよ、俺なんて指先からこんなしょぼい火を出すことしか出来ないんだ。まぁそれより____」


そこまで言って男は目を細め遠くを眺めた。先に戦場の真っ只中と書いたが少し語弊がある。今、彼等が居るのは戦地でも後方の部隊だ。少し丘気味の高台で、平時であれば見晴らしもよく雄大な自然が美しかっただろう。しかし今は少し遠くから銃声、爆発音、金属音。耳をすませば小さく人間の絶叫も聞こえてくる、いや、聞こえてくるかもしれない。男は深く葉巻を吸いきると、口から白煙を吐きながら言う。


「おい、お前ら、準備は良いか!」


その男の一言でスタークは立ち上がり男の前に立つ。さらにその後ろに数名の兵士がスタークと同じように立つ。その場にいた全員の顔に一気に緊張が張り詰める。奥歯を噛み締めるもの、額に汗を滲ませるもの、武者震いか、緊張か、それを沈めるために手を白くなるまで握りしめるもの。

男はその場にいる全員の目を順番に観ると


「固くなるな。それと、今起きてるのは戦争だ。死ぬかもしれん。でも約束して欲しい。必ず俺より後に死んでくれ。そして己に課せられた任を死んでも果たせ!帝国のために身命を賭せ!」


「了解!」


男が言ったのはそれだけだった。しかし、なんとも無茶苦茶なことを言う。だが、全員が迷いのない返事をした。


「あぁ、あともうひとつ、俺、今日死ぬ気ないから」


無茶苦茶だ。つまり全員死ぬなということだ。戦争。死人が出るのは前提のはずだ。身命を賭せとは、命を賭けろということ。死んでも役目を果たせとも言った。矛盾している。だが誰もがそれを受け入れ、中には待ってました、と言わんばかりに口角を上げ、身を震わせる者もいる。


「では、汝色の統一を。」


男は言った。


「汝色の__」


その場にいた全員がそれぞれの役目を果たすために、帝国ならではの文言で再度気を引き締めようと返答しようとした。しかし、それは遮られた。言うことが出来なかった。

突如上空が眩く光る。太陽のそれとは比べようもならない程に。


__眩しい、何が……


「ッ!!総員警戒!防御体制!」


男はそのあまりの眩しさに目を細めながら上空を見やり、自分の部隊に警戒を強めるように指示を出す。

よく見れば、その光を中心に何重かになった光の環、その環の傍を文字のようなものが回っている。誰もが理解出来ず呆気に取られた。ものの5秒程であった。

更に光が強まった。そう感じた。目を開けていられなかった。


刹那


爆音、轟音。時空が畝り唸り激痛に絶叫するかのような、言い表せない音が響いた。


一瞬の出来事だった。


「……っ!何だったんだ……」


男は幸いにも無傷、否、致命傷には至らなかった。先の爆音と共に全身へと衝撃が駆け抜けたのを感じた。だから流血もなく無事であったことに男は驚愕していた。ぼやける意識を正すために頭を振り大きく息を吸い周囲を見渡す。

先程までの戦場はありえない程に静かであった。耳がやられている訳では無い。しかし銃声も爆発音も聞こえない。聞こえたのはバチバチと木が燃える音。森が、その戦場のあらゆる場所がゆらゆらと燃えていた。


「ッぐああああ!」


聞こえてきた痛みの交じる声に男は振り返る。その声の正体は


「スターク!何があった!」


男のそばにいた青年、スタークであった。スタークは蹲り左肩を抱えるような体制で叫んでいる。男は駆け寄り彼に何があったのかを見る。


左腕が肩の付け根から綺麗に無くなっていた。

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