第一章 1 『悪魔と呼ばれた女』 ①
森羅万象もの極彩の世界。
千差万別もの個が生まれ、多種多様もの道を生き、死ぬ。
世界は鮮やかで、言い表せないほどの美しい極色に彩られている。··········と言われている。
今日もどこがで風は吹き、雨が降り、虹が架かることもあるだろう。森は川の潺も幾千幾万もの鼓動が命を奏でることをも忘れない。
猟銃が鳴り響き、刹那、鮮血が舞う。蜘蛛の巣に嵌められた蝶は抵抗せず命を捧げていた。
そしてまたどこかで誰かが産声をあげている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在 星暦1642年 春 クローディア帝国軍
一人の少女が甲高い·····気高き足音を響かせ長い廊下を進む。少しばかし険しい、しかめっ面と言ったところだろうか。その長い廊下の1番奥、他よりも一層に仰々しい門、ではなくそれに近い観音開きの扉をノックした。
「失礼します。」
そう言うと少女は先程まであんな表情をしていたにも関わらず、すっかり無表情になり、堅苦しい扉を開けその部屋へと入る。いかにも立派な室内は1人で過ごすには広すぎる具合だ。
少女の前にはこれまた大層な椅子に腰掛ける男が1人。葉巻の煙をゆっくりと味わう様に吐きながらその男は言う。
「やあ!『極彩の悪魔』殿。」
言われた少女は少し呆れたように翠眸を一度閉じ、一呼吸おいてから口を開いた。
「味方からそのような呼ばれ方をするのはあまりいい気分ではありませんよ。レインスコール大佐。」
少女に対して片方の口角を少し上げ、軽く笑い返す男。三十代後半と言ったところだろう。レインスコールと呼ばれるその男は帝国軍特軍総括司令官であり、陸、海、両軍に属さない特殊な軍隊を率いる。年齢にしては少しばかり貫禄のありすぎる風貌で、白髪混じりの髪をオールバックに纏めている。少し見える肌、顔や手には過去の戦闘のものだろう傷がかなりの数見られる。
レインスコールは再び葉巻を口につけた後、言葉を続けた。
「いやはや、失礼、ビビアンハート・アルヴァレット中尉。」
先程この場に呼ばれやってきた少女がこのビビアンハート・アルヴァレット、中尉である。帝国軍隠密機動士官、特殊部隊隊長で、まるで陽光を束ねたような美しい金色の髪に宝石を思わせる翠碧色の瞳、胸には藤色の首飾りを携え黒い手袋をはめている。レインスコールは彼女の直属の上官にあたる人物だ。2人とも深い赤を基調とした軍服を着ている。
「いえ、ところでどういったご要件でしょうか。」
「そうだ、実は__」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
3ヶ月前
クローディア帝国南部、パルボリウム海。
この海域には度々近隣国からの違法な海洋資源の強奪や、海賊船が入り込む。そういった輩によるクローディア帝国海域への不法侵入が後を絶えない。他国ではそうそう手に入らない豊富な資源があるからだ。
帝国軍本部 レインスコール大佐室
「大佐、彼女1人に特攻させて本当に大丈夫でしょうか。」
レインスコールに問いかけるのは彼の補佐官、デューク・スターク中佐である。これぞ真面目というような具合だ。丁寧にくすみがかった栗色の髪を七三に分け固めている。その面構えや凛とした立ち姿から察するに、彼の人生に於いて、衣服の気崩しなど1度もしたことが無いだろうと伺える。軍服の左袖口からは銀色を覗かせていた。
レインスコールは顔の傷を指でなぞりながら答える。
「問題ないだろう。彼女は1個中隊ほどの実力もある、第一、彼女は1人の方が向いている。」
同刻、パルボリウム海、海賊船 船内
「いやぁーおつかれさんですぁー!船長!」
「おぁービオラ。よぁやってくれてんなぁ。」
返事をする船長と呼ばれるそれなりに体格のいい髭面の男と、話しかけるのは溌剌とした屈託ない笑顔を浮かべる金髪の少女。
「やだなぁ。船長さん。昨日約束したやないですかぁー。」
「あぁー、そうやったなぁー。ちゃんとこれらが片付いたら一緒に暮らしよろなぁ、儂の嫁として。娘もきっと喜ばぁ。引き続き頼むぁー。」
少女は屈託のない笑顔を返し軽く一礼する。そして作業に戻ると男に伝えその場を後にした。
「よしゃ!さっさ積みこんで撤収するぁー!今日無事帰ぇればアルニアじゃ一生だらけて暮らせるぁ。」
アルニアとは、クローディア帝国東部に隣接するアルニア国である。物価の差もこの2国間では激しい上に、アルニアでは取れない資源がこのパルボリウム海域では豊富にある。
「分かってやすぁー、船長。ったく、クローディア帝国軍が来よるまで早うても1時間以上はあるんや、焦んなやぁー。」
そうだ、焦んなよ船長。と言った声や笑い声が船上に響く。船員皆、綺麗とは言えない廃れた服装で、薄汚れた黒い布を纏っている。海賊船もよく物語に出てくるものに比べるといささかみすぼらしいものである。
「まぁせやけどやぁ、焦るもんは焦んじゃぁ?ここでしくったら俺たちゃ終わりなんやでさぁー。」
男がそう言いながらも作業中これといった事態は何も起きず、帝国軍の気配もない。相も変わらず夜中でも、パルボリウム海は風光明媚の景観で波打つ水面を月明かりが銀色に照らす。
暫く時が過ぎ、積み込み等の作業も終盤に差し掛かった頃
「せーんちょう!そろそろ作業終わりそうですぁー!紅茶でもいれよるんで、自室で休んでてくださぁーなぁ。」
先程のビオラと呼ばれる少女が男に話しかけた。
「あぁ、そうかぁ。ありがとうなぁビオラ。そうするぁ。んなら、先行って待ちよるわなぁ。」
言いながら自室へと向かう男は何事もなくやり遂げたと誇らしげな表情を浮かべていた。「すぐ行きますね。」とビオラは告げ、甲板の後方へ向かって行った。船長が甲板を離れたことを確認した彼女は突然
「汝色の統一を__。」
そう小さく呟いた。纏っていた黒い布を頭まで被るとすーっと無表情になる。その場の空気の色まで変えてしまうかのような冷たい表情に。
彼女の近くに居た船員は1人急に何かを言ったようなビオラが、別人のような表情に変わったことを不思議に思い彼女に近づき声をかけた。
「どないしたんやぁ、ビオラちゃ____」
刹那、その船員は喋りきることも無くその場に倒れ込んだ。
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