第32話ールシファー邸応接室
――ルシファー邸応接室
ガブリエルが立ち去った後静まり返った応接室にはいつもの表情に戻った幸希、どうして言いかわからずソワソワしているベルゼブブ、その横で凛とした姿勢で大智を見つめているルシファー、ミネルバに跪いたままのミカエル、ミカエルに優しく微笑んでいるミネルバ、神界の事だけに口出しできずに椅子に座ったまま事の成り行きを見守っているリズとリッキー・ダイ。
大智はこの状況を一旦整理しないと先に進めないと判断して皆に椅子に座るように促した後大智が口を開いた。
「みんな聞いてくれ……。正直俺が神の使徒として行動したり発言したりキチンとできているかはわからない。ただ、さっきも言った通り何事も言葉を十分に交わして判断しないと間違った判断を下した場合これから先もまた同じような案件が発生しかねないと思うんだ。」
そう言うと大智は立ち上がり、ルシファーを真っ直ぐ見下ろして
「ルシファー。今から神の使徒として問う。お前はこれから先も堕天して悪魔になってしまった時と同じような事をする気はあるか?それとも……」
大智の問いの途中でルシファーはスッと立ち上がり大智に向かって跪いて
「使徒様。私は堕天して悪魔になり魔王となって1000年前に勇者に敗れるまで様々な生命を奪って来てしまいました。これは到底許される事ではありません。使徒様が私のような愚か者に慈悲をかけるなどあってはなりません。」
大智は確かにルシファーに慈悲を与えるつもりで言葉を発していたのだが、当の本人がそれを望んでいないとなるとどう対応していいのか悩む所ではある。
しかし、このままでは元の木阿弥。結局の所、断罪をする必要がありその場合ルシファーは消滅させられてしまうのだ。
これは話を変える必要があると思い大智は少し賭けに出る事にした。
「そうか……。お前は俺の言葉が慈悲を与えるように聞こえたんだな?」
大智は人に対して怒りを露にする事は苦手なのだが、そんな事も言ってられないので怒りに満ちた表情をどうにか作り出し、禍々しい殺気と共に
「この野郎!この期に及んで断罪などという楽な方法で慈悲を貰おうとか随分生意気じゃねぇか!堕天して悪魔や魔王になって多くの命を奪って来たクソ野郎の分際で!決して許される事じゃない?当たり前だ馬鹿野郎!」
怒りのまま一気に捲くし立てた大智は少し息切れをしながらも続けた。
「お前には断罪ではなく贖罪をさせる!これより無期限で我々の奴隷となり考えられないほど馬車馬のようにこき使うからな!少しでも弱音を吐きやがったらその度にこの世の物とは思えないほどの苦痛を与えてやるからな!」
大智がそう言い終わると応接室はシーンと静まり返っていた。
幸希は大智がここまで怒りを露に知る所を見た事が無かったので、初めて見るその表情に少し恐怖を感じていた。
ミネルバは事の成り行きをじっと黙って聞いていたのだが、少しフウーとため息を吐いた後こう言った。
「だいちゃんの言う通りなのです。死んで終わりでは甘すぎるなのです。ルシフェルはこれからどれだけの時間が掛かっても罪を償わなければダメなのです。」
ルシファーは大智に跪いたままさらに深く頭を下げ
「わかりました!私はこれから使徒様の奴隷として贖罪を果たします。」
大智は先程の会話の中で出てきた仲間のアザゼル、ムルムル、マモンについても言及して今すぐは無理であっても早急に目の前につれてくる事を約束させた。
その時大智のすぐ隣に眩い光と共に見覚えのあるシルエットと共に何人かの護衛の様な光が現れて段々とその人物が見えるようになってくると、ミネルバ、ミカエル、ルシファー、ベルゼブブは直ぐにその人物に跪いた。
「うむ。話はついたようじゃの。」
そこに立っていたのは神界の主神ゼウスで、眷属らしき純白のフルプレートアーマーを着込んで禍々しい程の神力を宿した大槍を装備した騎士を2人随えていて、よく見るとその騎士の後ろに先程のガブリエルが跪いて深く頭を下げていた。
「大智君。このルシファーと言う者は元々神界で天使長だった者でな、訳は分かっていると思うがワシが堕天させたのじゃよ。」
そも言葉を言った後のゼウスは心の奥底に何かとても悲しい感情を持っているかのようなひょうじょうであった。
「大地君、すまぬな。この者の今後は汝に任せるとしよう。」
そう言い終わると、引き連れてきていた騎士たちと共に光に包まれ消えていった。
大智が我に返り周りを見渡すと一同はその光のあった方向に跪き、深く頭を下げていつまでも頭をあげることはなかった。
その頃ヘルダーリン皇国謁見の間にて勇者セーヤのレベリング進捗について国王ハルトヴィヒが報告を受けていた。
「…となります。報告は以上です!」
「うむ。下がってよい」
勇者として覚醒してわずかな時間しか経っていないにもかかわらず人知を超越した成長速度などこれまで聞いた事もなく、この国初の勇者の扱いを少し考える必要性が出てきたのは揺るがない事実であった。
「よもや勇者と呼ばれるものがこれほどとは…」
そばに立っていた長官は国王に
「陛下。勇者というものはそういうものです。以後は私共にお任せ頂ければ如何様にもしてしんぜましょうぞ。後の野望に向けて陛下の思うがままに。」
「うむ。頼んだぞ。」
ヘルダーリン皇国の野望はこうして動き出したのであった。




