妹と手をつなぐ
オレと妹のヤエと二人でお出かけする。赤ちゃんのミユはお父さんとお母さんに子守りを任せている。オレと妹のヤエは近所の川沿いを歩いている。妹のヤエは笑顔でオレにいろいろと聞いてくる。アルバイトはどう? 好きな人は居ないの? お兄ちゃん、本当に変わらないね、等々と。オレは笑顔のつもりで答える。適当に。妹のヤエの逃げた旦那が憎いと思う今日この頃。オレは妹のヤエの笑顔を守りたい。だが、最近のオレはどうかしている。妹のヤエのことをこれ程までに愛しいと思うこと。オレは妹のお兄ちゃんだ。当たり前だ。しかし、このドキドキとした感情はどうかしている。オレは妹のヤエに対して持ってはいけない感情がある。オレは自覚すればするほどに苦しさに襲われる。オレは妹の笑顔を見つめる。妹のヤエも歩いてオレを見つめる。妹のヤエの方から手をつなぐ。オレはその時にこう思う。妹のヤエは聖母マリアのように美しいものなのだと。オレは妹の手を振り払うことが出来なかった。
「お兄ちゃん、私たちが小さい子どもの時に、こうやって手をつなぐことがあったよね?」
オレはその言葉を聞いて、忘れていた感覚が呼び覚まされる。妹のヤエを泣かせるようなことはしないと。けれども、オレは妹と手をつなぐことは、もうこの年齢では不自然だと思う。そうだとしても、オレは妹のヤエと手をつなぐことに安心を覚える。妹のヤエの笑顔が愛しいと。そう、オレはもう引き返せない。妹のヤエを守りたい感情は今では愛なのだと。オレは恐ろしい感覚だとはもう思わない。オレは妹のヤエと手をつなぐことが当たり前なのだと錯覚なのかどうなのか、もはや正常な判断が失われつつある。妹のヤエの笑顔はオレをそっと包み込む。オレは自覚している。それは本当に小さい子どもの時に抱いた感情。妹のヤエに対する愛情。兄と妹という家族の線を越えた愛なのだと。オレは思い出した。いつかは妹のヤエは兄であるオレから離れるだろうという感情。オレはその感情を冷たい水のなかに沈めてきていた。オレは妹のヤエの手をぎゅっと握る。妹のヤエは笑顔でオレを見つめる。オレは思い出したあの時から何も変わっていなかった。オレは妹のヤエが好きなのだと。