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あり得ないこと

 オレは今は赤ちゃんのミユの面倒を見ている。妹のヤエの赤ちゃんだ。旦那には逃げられた妹のヤエ。オレはぼんやりとそんなことを考えながら、赤ちゃんのミユの遊び相手になっている。オレはこのミユのお父さんにでもなったかのような錯覚になる。いかんいかん。オレは何を考えているのだろうか。オレは妹のヤエのお兄ちゃんだ。このミユはヤエの赤ちゃんで、逃げた旦那のことが憎いと思うオレのはずだ。それが今ではどうしたことだろうか。オレは妹のヤエの笑顔も赤ちゃんのミユの時々見せる笑みも何かの錯覚の中で感じ取る。それは、本当の親子のような錯覚。オレはこの恐ろしい感覚に支配されそうになっている。オレは思い出すべきだ。妹のヤエから逃げた男のことを。憎いと思うその感情を。オレはどうして今の錯覚に包まれようとしているのか。妹のヤエがやって来た。オレの部屋に。妹のヤエの笑顔を見つめる。なぜかドキドキする自分がある。オレはその思いを振り切ろうと逃げた男のことを憎む。しかし、オレは妹の笑顔の前では自分の感情が丸裸にされそうになっている。それが恐ろしいこと。妹のヤエが赤ちゃんのミユを抱っこする。オレはその姿を見て、兄と妹を越えそうな感情を持ちそうになる。オレはどうしても、妹の笑顔を守りたい。だが、妹の笑顔を見つめるオレのこの感情はなんだ! オレはどうして、妹のヤエのことをこれ程までに愛しいと思うのか! 憎む感情が愛しいという感情へと。オレは混乱している。オレはお兄ちゃんのはずだ。それなのに、妹の笑顔が聖母マリアのように思えるのはなぜだろうか。妹の待つべき男は逃げた男のはずだ、オレではないはずだ。妹の待つべき男は、オレではない。オレではないのだ。オレはぐちゃぐちゃとした意識のなかで、兄としての妹に対する態度を考えなければならない。オレはお兄ちゃんで、妹の本当の幸せを考えなければならない。それなのに、妹のヤエと赤ちゃんのミユの血のつながった愛の前ではオレは無力感に襲われる。オレは妹のヤエの笑顔を守りたい。オレはどうしたらよいのだろうか。

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