三人でお出かけ
いつしかオレは、妹のヤエと赤ちゃんのミユの三人でお出かけするようになっている。一番には妹のヤエをさびしい思いをさせまいとオレが考えるからだ。これにお父さんとお母さんは消極的な考えだった。けれどもオレはやっぱり妹のヤエにさびしい思いをさせたくなかった。妹はすごく喜んでお出かけを楽しんでいる。オレと妹と赤ちゃん、他人から見れば親子に間違われるかもしれない。しかし、オレは妹と赤ちゃんのことをしっかり考えているつもりだ。オレは、赤ちゃんのミユを抱っこしている妹のヤエの笑顔を見つめる。よかった、妹のヤエが楽しんでいるなら。オレたちは家に帰宅中だ。オレはぼんやりとこう思う。妹のヤエはまだ逃げた男のことを待っているのか? オレはそれを妹に聞く勇気はなかった。妹のヤエの笑顔を消したくなかったから。
「あら、ハヤトくんとヤエちゃんじゃない。あら、その赤ちゃんはどうしたの?」
近所のおばちゃんに会ってそう言われた。
どうしよう? なんて誤魔化せばよいのか。
「おばちゃん、こんにちは! 私の子どもですよ。あ、もちろん旦那が別に居ますよ!」
「あらあら、おめでとう! そうよね。お兄ちゃんのハヤトくんとの子どもなわけがないものね。私ったら、おほほ」
オレはそれを聞いて、わかっていることだけど何かが心に引っかかる。
「ついつい親子に見えちゃった私。私ったら、おかしいわよね!」
オレは適当に笑顔になって見せる。妹のヤエのおかげで、近所のおばちゃんは立ち去った。けれども、この感覚はなんだろうか。オレはヤエのお兄ちゃんのはずだ。それなのに、この感覚はなんでだよ。オレは恐ろしい感覚にこの時に初めて自覚する。オレは妹のヤエのことも、赤ちゃんのミユのことも、まるで本当の親子、という家族だと錯覚している自分に気付いた。恐ろしい感覚、この感覚はオレの何かをプツンと糸をハサミで切るかのように切れ落ちる。オレは、妹のヤエの笑顔をどうしても妹の笑顔として受け止められていない。つまり、本当の親子になってしまわないかの感覚に襲われるオレ。オレはバカ野郎だ。