妹の笑顔
オレは25だけどアルバイトをしている。オレの名前はハヤト。妹のヤエは23。ヤエは生まれて間もないミユの母。オレはアルバイトを終えて夕方ひとりで帰宅している。歩いて思い出すのは、妹のヤエの旦那のこと。逃げた男のことは本当に腹が立つ。オレは妹のヤエのことを大切にしてきた。だから、この行き場のない怒りをどうしたらよいのか悩んでいる。オレは家に着いた。それからリビングのテレビをつける。しばらく見ていた。妹のヤエが赤ちゃんのミユを抱っこしてやってきた。「おかえり、お兄ちゃん」「ああ、ただいま」妹のヤエは大切にミユを抱っこしている。オレはそれを見つめる。なんだか安心するオレ。
「あれ? お父さんとお母さんはどこに居るの?」
オレの言葉にヤエはちょっと間が空いた。
「えっと、もうそろそろ帰ってくるよ、お兄ちゃん」
妹のヤエは笑顔で返事をした。すると、ミユが泣き出した。妹のヤエはミユを抱っこして、おーよちよち、と軽く左右に揺らしている。オレはそんな妹のヤエの笑顔を見て、あの逃げた男のことでイライラしていた。妹のヤエを泣かしやがって。オレは必死に怒りを落ち着かせようとする。オレはテレビの音と赤ちゃんのミユの泣き声を聞いていた。しばらくして赤ちゃんのミユは泣き止んだ。眠ったらしい。オレのとなりに妹のヤエが座る。なんだかドキドキする自分が居る。妹の横顔をチラッと見て、ああ、ヤエは大人になったなあとオレは思った。オレだったら、こんなにかわいい妹のことを捨てたりはしないだろう。あ、もちろん赤の他人と言う前提での話だけどね。妹のヤエがオレの視線に気付いてクスクスと笑っている。オレはテレビに視線を戻す。あ、もちろん妹のことは妹だと思っているからな? 家族だよ。それにしても、お父さんとお母さんが帰って来ない。オレは適当にチャンネルを変える。すると妹がクスクスとまた笑う。
「どうしたの?」
「いやー、お兄ちゃんは変わらないよねえ、って思ってさ」
そうかな? まあ、お兄ちゃんのオレが妹のヤエにドキドキすることがおかしい話だよなあ。妹のヤエはニコニコしている。オレ、絶対に逃げた男のことは許さないからね。