NAISEIチート+ハーレムを神がOKするとしたら……?
リハビリがてらの過去未発表作品リメイク第二弾。
ベッドで寝ていたはずの俺が目を覚ますと、何もない白い空間に漂っていた。
「いや、夢にしても意味わからん」
思わず声に出せば、なんとそこに返答がきた。
「うん、夢という認識は正確ではないけど、全くの的外れとも言えないな」
「だ、だれだ! どこにいる」
反射的に声を上げれば、応じるかのように目の前に緑の火の玉が灯った。
「驚かせてしまい悪かった。君の混乱は当然であり落ち着くのを待つべきなのだが、こちらにも都合があってね、先に自己紹介させてほしい。私は”神”だ」
「……うさんくせぇ」
続いて届いた言葉に思わず本音を吐露してしまう。
すぐに本物だとしたら不敬とか言われないかと内心ビビッてしまうが、目の前の火の玉は気分を害した様子もなく、話を始めた。
「確かに突然現れた神を名乗る存在を怪しむのは当然だろう。だが出来れば私の話に耳を傾けてもらえないだろうか」
穏やかな物言いに俺も落ち着きを取り戻し、軽く息を吐いてから了承の意味を込めて頷く。
「ありがとう。本来なら姿を現して話をするのが筋なのだが、君の住む世界の神ではない私はそう簡単にそちらに顕現できないのでね。許してほしい」
電話越しに話しているようなものだとつけくわえてくるが、それよりも気になることがあった。
「俺のいる世界の神じゃないってどう意味だよ」
「言葉通りの意味で受け取ってもらって構わない。君の世界の文学に出てくる言葉でいえば異世界の神。それが私だ」
その答えに思わず声を上げそうになり、続く言葉で、
「シゲノユウキくん、君を私の世界に招きたいのだ。救世主としてね」
耐えられず、キターと叫んだ俺は、3秒後に羞恥で悶えた。
◇
とはいえ、だ。
「改めて言うわ、うさんくせぇ」
自称”神”が出現させたイスに座り、一緒に出現したテーブルに頬杖つきながらぼやく。
今度こそ不敬罪になりそうなもんだが、さっきの叫びで色々吹っ切れた俺は無敵だぜ。
「まあ、当然の疑いだね。ともあれ言葉だけでその疑惑を解消するすべがない今の私にはただ話を聞いてほしいとお願いするしかない」
テーブルの対面で揺れる火の玉は、さほど困った様子もなく答える。
曲りなりにも神を名乗るなら簡単にあきらめるなよと考えたが、神の力とかで訳もなく信用してしまうよりかはいいかと思い直す。
「だが、先んじて君の世界の神々と交わした約定があるのでね。私の事情を説明する以上のことは出来ないのだ。君の意思を無視して連れて行こうなどとすれば最悪、どちらかの世界が滅びるまで相争うことになりかねない」
後半の物騒な話は無視するとして、だ。
「じゃあ、まず俺の置かれた状況を説明してくれないか。もしかしてだが、俺って寝てる間に死んだのか?」
ネット小説とかでよく見るパターンだ。死亡理由は様々あれど死後に神の手によって異世界に行くってやつ。
「いや、君は今も自宅で就寝中だ。夢枕に立つと言う言葉があるのだろう。今の君はそれに近い状態にある。それに君の亡骸を私の世界に招いても私の目的は達成されない」
「あ、そうなのか。死んだわけじゃないんだな俺」
ほっとするもすぐに気づく。
「やっぱアンタには目的があって俺を転移させるのか」
「当然だ。でなければこのような手間をかけることはない」
「聞かせて、くれるんだよな」
さっき事情を説明するとは言っていたし、尋ねる。
「もちろんだとも。こうして落ち着いて私と対話してくれるだけでもありがたいことなのだからな、過不足なく説明するさせてもらうとも」
「そこまで言うほどのことか?」
思わず聞き返せば、火の玉は大きく揺らめき声を発する。
「当然だ。異なる世界の神に招かれるという異常事態に理解を示し、落ち着いて耳を傾けてくれる者というだけでも候補はかなり絞られるのだ。元々持っている宗教的価値観から私を異教の邪神や悪魔の誘いであると疑いをかけてきたり、逆にその者の信じる神と同一視されてはいけないからね」
「創作からの知識だとしても正しくあんたを異世界の神だって認識してくれるってことがまず重要だってことか」
「その通りだ。その誤解をそのままにして連れていくのは騙して攫うのと同じであり、君の世界の神々は激怒し列を成して私を滅ぼしに来るだろう」
まあ、こっちのどんな宗教だとしても連れて行って異世界でその宗教を広められても困るわな。
てか、俺の世界の神々って荒っぽくない?
「ともあれ君の安全は保障されているということは信じてほしい。それすらも信じられないというならば、残念ではあるが大人しく私は次の候補者が現れるのを待つことにするよ」
「いや、まずは話を聞かせてくれ。拒否するのは簡単みたいだからな。主に好奇心からだがあんたの目的とやらも気になる」
なかなか無礼な物言いかなと言ってから気づいたが、火の玉は嬉しいののか点滅を返してきた。
「ありがとう、その選択に感謝する。ではまず君を招く理由を説明させてもらおう。
私の世界は君の住む地球と同じく人間が最も繁栄している世界なのだが、その人間たちの文明の発展成長その他が行き詰ろうとしていてね。そのまま放置しておけばあと300年もしないうちに滅びてしまう状況なのだ。
その打破こそが君に求める役割だ」
「おいおい、あんたの世界って核の炎に包まれた後の世紀末な世界とか言わねえよな、荒廃してんのか?」
そういや最初に救世主とか言ってたな。モヒカンがバイクでヒャッハーしてんのか、俺に一子相伝の暗殺拳の心得はないぞ。
「うん? そんなことはないぞ。私の世界は自然豊かだし、戦と呼べるほどの争いも500年ほど起きていない。人間たちは君の世界でいう中世のような階級社会を形成しているが、王侯貴族たちはみなその地位の重さと責任を理解している者たちで治世も盤石。そのうえ貴族平民問わず日々の祈りを欠かさない信心深い者たちばかりだ。
それにな、先ほど君の言ったような人間の発展の先にある自らの生み出したものを起因とする終わりに神々は介入しない」
なんだかさらっと怖いことを言われた気もするが、追及するのはやめておいて、誰でも思うであろう当然の疑問を口にする。
「どこが問題なんだよ」
まさか戦争による技術発展を推進しろってわけじゃないよな?
「信心深過ぎるのさ、ゆえに滅びようとしている。君の世界の神々は内への干渉をやめ、私のような外側から接触してくる存在の盾となることで世界を守っているが、私は大きな不幸や災いを生まぬために事あるごとに神託を下してきたのだ。
新たな技術が生まれようとしているならば、その過程で起きるであろう事故を未然に防ぐための注意喚起を行い、人間同士の不和や誤解、行き違いから起きる不幸を防ぐためにそれを正し、犯罪や事件があればその真実を告げてきた」
「過保護か」
思わず指摘すれば、火の玉は目に見えてその明度を下げていく。
「その通りだ、反論のしようもない。私は人間に干渉しすぎたのだ。結果から言えば人間たちはみな品行方正な者たちばかりとなったが、それは神の言葉にただ従うだけの盲信者となっただけでしかない。崇め敬う絶対不可侵の支配者としてな」
「つまり、その現状をどうにかするために俺を招き入れたいってことか。だけど、そんな状況で部外者でしかない俺が役に立つのか?」
「私のしもべたる神獣たちでは神の代行者としてしか見られぬし、信者たちにその役目を与えたとしても盲信がよりすすむだけだろう。
必要としているのは神が遣わしていながら、神である私と直接関係のない、人々を肩を並べて進歩していくことのできる『人間』なのだ」
なるほど、そんな選定基準だとまず自分の世界の外から用意するしかないわな。
納得すると同時に疑問も浮かんだので、思うままに問いかける。
「だけど、その条件なら俺みたいな無職ニートなんかじゃなく、もっといい人材選べるんじゃないのか」
どっかの教徒とかは先の話で無理とわかったが、それでも候補はいっぱいいるはずだ。それなのにようやく候補が現れたみたいな言い方してなかったか、こいつ。
「今話したのは私の求める上での前提条件でしかなく、そこから私の求める能力を持った人間を選ぶ必要がある。それに連れて行くにあたって君の世界の神々から提示された除外基準、連れ出してはいけない者たちというのが定められているのだ」
「へえ、神様のお気に入りの人間は駄目ってこと?」
思い浮かんだのはとある市国のトップとかだ。
「特定個人を指名したものではない。まず施政者や有名をはせた者、またその縁者といった者などの行方知れずになることで現行社会への影響の大きい者は連れていけないのだ」
なるほど、今の社会で何の前触れもなく某大国の大統領とかお隣の総書記が行方不明にでもなれば、その混乱が国内だけで治まるわけがない。
だけどそれって逆に、
「俺がニートでいなくなっても大した混乱も起きないから選ばれたってことか」
「その通り、それも条件の一つだ」
……こうはっきり断言されると、怒りもわかないもんだな。むしろ別に気になることが出てきた。
「てかニートが条件だっていうならもっと候補者多くないか」
「現行社会への影響だけが選考条件ではないよ。個人、家族の生きているかどうかや親族とのつながりの太さなども条件の一つだ。残された家族親族が召喚者を思い泣いて暮らすようなことになるようになる場合は選べないのさ。
君の世界の神々もある意味では過保護でね。私のような外から接触する存在に対してはかなり厳しいのだよ」
つまり俺が声をかけられたのは天涯孤独だからか。
両親が事故で死んでそれで無気力になって引きこもったんだもんな俺。しかも慰謝料とか遺産とかで働かなくても暮らしていけるだけの金があったのがさらにそれを後押ししてしまった。
「それに私にも除外基準はある。例えばだが、なにか奇跡的な出来事の結果、私の選考条件を知った者がいたとして、その人間が自分の親や周囲の人間を手にかけて条件を満たすような罪人だったとしたらいくら全ての条件を満たしていてもお断りだ」
この日の玉の欲する条件があって、こっちの神の出した除外基準で選べる人間に制限がかかり、そっから犯罪者を除いた中で目的の能力を持った人間を選ぶわけか。
「で、俺はあんたの望んだ能力を持ってるからお声がかったわけか」
「その通りだ」
即答に、ぞくりと喜びの感情で背筋が震える。
うわ、ヤベェ。誰かに必要とされるってのはこんなにも嬉しいもんなんだな。
「よし、決めた。俺そっちの世界にいくわ」
「うん!? 待つんだ。まだこちらの説明は終わっていない、最後まで聞いてから決めるべきだ」
驚きの声を上げてくる火の玉、いや異世界の神がなんだか可笑しくて声を出して笑ってしまう。
「ははッ、いいんだよ。俺のようなこのままじゃヤバいとわかっているのに動けない、一人で立ち上がれないダメ人間を必要としてくれてるんだ。断る理由はないだろ」
神様が立ちあがるために手を握って引き上げてくれるなんてとんでもない幸運だ。これで立てなきゃ誰の手助けがあったって立ち上がれない。
「準備とか手続きとかが必要ならさっさと進めてくれ。俺が――」
これくらいの大言壮語は自分自身に発破をかけるために必要だよな。
「――あんたの世界を救ってやるよ」
◇
とカッコよく宣言したものの、
「では、君の仕事について説明させてもらう」
転移のための準備と手続きには若干時間がかかるらしく、その間に残りの説明を聞くことになった。
魂だけならすぐらしいんだが、体も一緒だと周囲への影響とか隠ぺいとかも必要で一瞬で移動とはいかないらしい。
なんか、俺ここで結構恥かきまくってないかと思ったが、深く考えないことにしとこ。
「あ、その前にちょっと気になったんだが、その仕事とやらをこなすための補助的なもの、てか加護とかは貰えるのか」
「気になるかい? では先にそちらから説明しようか」
やっぱあるのかチート付与。
「まず肉体強化と肉体保護。常人の3倍くらい頑丈になって力も増す。そして病気などにかかりにくくなり、怪我を負っても同じく3倍の速さで治るようになる」
「……なんか地味だな」
城を持ち上げたいとまでは言わないが、もうちょっと超人的にできなかったのか?
「言っただろう、必要なのは人間なのだ。加護を多く与えて君を人間の枠から外してしまえば、それは私が神の使徒を遣わすのとかわないからね」
「あ、そりゃそうだ。わるい」
「気にしていないよ。それにこの加護の副次的効果として若さを保ちつつ、長命になることができるから使命を終えた後は好きに生きる時間もあるだろう」
なるほど、そう考えると悪くない加護だな。
「次に言語理解と意志疎通、これは言葉通りといえる加護だね。君は私の世界の言葉や文字を日本語として認識できるだけでなく、君が日本語で書いた言葉も私の世界の人間は読むことが出来る。そのうえで意思疎通の加護の力で誤解なく君の意図を相手は理解できる」
これまた地味だけど、確かにいくら会話できても文章が理解できなきゃ文化圏どころか世界が違うんだから行き違いとか起きそうだもんな。必要な加護だ。
「その4つが君に与える加護になる」
「え!」
「どうした、何か疑問であったのかい、遠慮なく聞いてくれ」
思わず声を上げてしまった俺を、不思議そうに異世界の神が聞いてくる。
「いやいや、俺ってそっちの世界で文明の発展成長のための仕事をするんだよな。だったらこう知性を向上させる加護なんかはないのか」
「そんなものは必要ない。君たちの世界にある創作でいう『異世界知識チート無双』というのが君の仕事だ」
いきなり俗な呼び方したなこの神。
「まってくれ、俺は大学中退でそこらの高校生くらいの知識しかないぞ。そんなんでどうしろってんだ!?」
記憶力には昔から自信があるし、今この瞬間にも当時習ったことは話せるが、それだけだぞ。
「それで十分なのさ、君は工業高校の出身でそういった科学技術の基礎的な知識は学んでいるだろう。それを元に私の世界の人間たちと一歩一歩技術を発展させていってくれるだけでいい。完成品をただ渡されるだけではその安全性も危険性もなにもわからないからね」
ああ、こっちの人間に求められてた条件ってそういう感じなのか。てか、だったらもうちょっと簡単に候補者出てきそうなもんだけどな?
「私が必要としていた知識というのは複数あってね。その全てを持っていることが条件なのさ」
こっちの表情から思っていることがバレたのか、そう付け加えてくる異世界の神。
「……残りの俺が広めるべき知識っていうのも教えてくれ」
これ絶対聞いておかないと失敗する奴だ。
そう思いいたり、しっかりと聞く姿勢をとる。
「うむ、次に君に広めてもらいたいのは化粧や体を磨くといった自らを美しくする技術。特に女性向けの知識を広めてもらいたい」
「……なんで?」
しかし告げられるのは予想だにしていないものだった。
「私の世界の人間はね、その信心深さの弊害からその手の行為を神に自らを偽るものとして扱っているのだ。身だしなみと言っても体を清潔にするくらいなのさ。
私が着飾ることを禁じていないにも関わらずね。だからその辺りの意識改革もお願いしたいのだ」
「あんたの世界の女性って、その可愛いのか? 俺の美的感覚に合うかどうかという意味で」
「その辺りの価値観はほぼ一緒だよ。ただ、国一の美女だとか美姫と称えらえるような王女でも、ムダ毛とかそばかすとかが残ってるだけさ。例えるなら磨く前の宝石といったところかな。
君は中学時代、近所のおねいさんが好きでそばにいるためにされるがまま、彼女のすることを受け入れて女装してきただろう。そのときに培った知識が必要なのさ」
俺の中学時代の黒歴史を掘り返されるのか。
本気で好きだったんだよ、だから女装を強要されるとしても近くにいたくて我慢したし、気に入られたくて女の化粧の仕方も調べた。
でも二次性徴がきて体が男らしくなったら、実は男性恐怖症だったあの人はあっさりと俺と拒絶するようになった。
それでも諦めきれなかった俺は女装してあの人に家に何度も向かった。それが悪かったのだろうあの人引っ越してしまい、そのままつながりは切れちまった。
今思い出せば、もうちょっとうまく立ち回ればよかったのかとも考えちまうな。
「まあ、わかった。他に広めるべき知識はあるのか」
ちょっとアンニュイな気分になりつつ、続きを促す。
「最後は性行為の知識だ」
「……どうして?」
いやマジで意味わからん、何言ってんのこの神。
「人間たちに滅びが近づいていることは言っただろう、その理由は出生率の低下なのさ。1家族に子供が1人、多くて2人というのが私の世界の現状でね。夫婦でありながら性交の回数が生涯で両手で数えられるのがざらという困った事態なのさ」
「え、滅びの原因って少子化なん?」
しかも、それに介入するってことはこれまでの話の流れ的に原因は神にあるってことだよな。
「信心深いといっただろう、ある時に性交の快楽にはまった困った王がいてね。その王を諫めるために性交はあくまで子を望み愛し合う行為であり、その欲におぼれてはならぬって神託を下したら、王だけでなくみんなその言葉に従うようになってしまったのさ。
しかも、王族なんかはいかに少ない行為で子を成すかを誇るようになっちゃって、本当にまいったよ。」
「極端すぎだろ」
だからって性に奔放になれなんて神託も下せんのはわかるけどな。その極端ぶりだと。
「だからね、君のように性交の知識が豊富な人間を招きたいのさ。四八手とかいったかな、それを広めてほしいのさ」
今度は高校時代の黒歴史が掘り返されるのか。
あれは女装の反動で男らしさを追求して色々調べていた時の若気の至りってやつだ。
彼女が出来た時に失敗しないためにと身に着けて、いざ彼女が出来て実用の時が来たと思って試そうとしたら、彼女ドン引きで逃げられて、そのまま気まずくなって自然消滅。未だ未経験の俺。
「てか性交渉の知識を広めろって、どうやってだよ」
絵心ないから図になんて出来ないぞ。
「いや、ひとりひとり女性を寝室に呼んで手ほどきをしてくれればいい。生娘でも人妻でも、平民貴族王族問わずにね」
「人妻に王族って、いいのかよ不倫や浮気を推奨するようなことをして」
もしかしてこいつ邪神なのか。
「むしろ、それで相手の男に嫉妬心とかを持ってほしいくらいさ。特に王なんて王妃を完全に国を治めるためのパートナーとしてしか見ていない者ばかりでね。あれは夫婦とは呼べないよ。
とはいえ、結婚生活や個々人の関係性にまで神が口出しするようになれば、どうなるかんて考えたくもない」
「ああ、結婚生活はすべて神が啓示してくださるとか言い出しそうだな。下手すりゃ誰と結婚するかも神が示してくださるとか考えそう」
王と王妃の関係とかは、創作だと冷え切っているとか共同統治者みたく描写されることもあったりするから普通じゃねとも思うが、肉体関係の少なさを誇るとか言ってたし俺の考えの及ぶレベルじゃないってことかね。
「だから、君には性知識を広めてもらうことで、その辺りの意識改革を進めてほしいのさ。もちろん気に入った女性がいたら自分の妻にしてもいい。異世界ハーレムというのだろう、報酬として君には何人でも妻を娶ってもらって構わない」
「ハーレム作っていいの!?」
思わず声を上げたが、すぐにあることに気づく。
美的感覚に差異はないとか言ってたけど美姫と呼ばれるような王族であれ、お肌とムダ毛の手入れがまったくされていないという先ほどの言葉を。
思い浮かべるのはノースリーブのドレスを着たお姫様。しかし顔はそばかすまみれ、その腋からはみ出ている手入れのされてない腋毛がもっさりと………。
「つまり、なにか? 俺は理想のハーレムを作りたかったら、まず女性たちをその理想の姿になるまで磨き上げないとといけないってことか」
「君だって私の神託によって唯々諾々に妻になる女性よりも、心から好意を持ってくれる女性と結ばれたいだろう。
その点、君の知識で美しく生まれ変わった女性たちは、その多くが君を心から慕い愛してくれることだろうから、その中から選べばいいんじゃないかな」
「まあ、確かに神の言葉に従い妻になりに来ましたとか言われても嬉しかないが……」
だが、それだと知識狙いの打算で妻になる女がいそうとか考えないのかこの神。それともそんな女が出てこないと確信できるほどに信心深い真面目な人間ばかりってことなのかね。
そんなことを考えていると突然、俺の体が輝き始める。
「おっと、そろそろ君の体の転移が完了するようだ。幸いにも過不足なくすべての説明をすることが出来たし、次に目覚めれば教皇が君を迎えてくれるから、衣食住に関しては彼女が面倒見るよう最後の神託を告げてあるから安心してくれ」
「うん? ちょっと待て、今聞きづてならない一言があったぞ」
最後の神託とか言わなかったか、この神。
「今まで介入しすぎだったからね。君を降ろした後は神託は止め見守るだけにしようと思ってる」
「それは絶対にやめろ! 神に見捨てられたとか騒ぐ人間が必ず出てくる!」
「え、そうかな。彼らの普段を考えるとそこまで大事にならないと思うけど?」
「なんて異世界人招いてまで変革求めてるのにそこで楽観的なんだよ!? あんたの世界行く前にその辺りの対応決めてくぞ!」
じゃなきゃ、最悪俺が神を奪ったとか言われかねない。そうなったら俺殺されんじゃね?
「え、でもこうして話のできる時間はほとんどないよ?」
その言葉の通り、俺の輝いていた体は足から消えていこうとしていた。
「待て、ほんと待て、あと1分でいいから!! いい案出すからさ!」
悲鳴を上げながら俺は必死に対応策を考えるのだった。
◇
神の招いた人間”シゲノユウキ”
百五十年という長きに渡り生きた彼が没してから早五十年が経とうとしており、彼を直接知る人間も少なくなってきた今、私は彼についての記録を編纂する仕事を与えられた。
当時の教皇の前に降り立った異世界の人間は、かつて神により抑制された技術の開放と異世界の知識の伝達の二つを役目としていた。
しかしそれまでの神の行いを否定するともいえる一つ目の役目について、神託を直接うけた神官たちの間でも疑惑、ひいては彼が本当に神により遣わされた者であるかについて疑いを持つものは多かったという。
そこで最初の応対を任された教皇猊下は早々に彼を人前に出すことはせず一計を案じる。
代替わりしたばかりでまだ若かった彼女は、都市が近いこともあり一対一で彼と対話しその知識目的を探ったのだ。隣室に信頼のおける高位司祭たちにその様子を監視させながら。
彼という存在は下手をすれば世界を大きく変えてしまう劇薬ではないかと危惧した故の行いだ。
そして異世界人の降臨より一年後、同じく神託によってその存在を知らされていた各国の王族たちへのお披露目の日。
――世界は一変した。
各国の王族たち並ぶ中現れた異世界人、ではなく先導してきた教皇猊下のお姿に誰もが目を奪われたのだ。
それまでは身嗜みというのは清めであり、汚れを落とす行為だった。しかし、異世界の知識によって肌つやを保つ、髪に光沢を与えるなどの美しさを整えられた教皇猊下のお姿は、まるでそこだけ輝いているかのようだったと当時の参列者たちは語ったという。
別人になったかのような教皇猊下のお姿に誰もが言葉を失う中、さらに驚くべきことが起こる。
神獣、神の使いの降臨だ。
まるでシゲノユウキに寄り添うかのように降り立った神獣は、その口から神が新たな決まりを作り出したことを語る。
それが全ての人に与えられた奇跡――三顧の礼。
生涯に三度だけ、神に願い問いかけることのできる権利である。
それまで神は人々が健やかに生きていけるよう多くの助言や戒めの神託を下してきた。しかし、それでは人々の成長を阻害しているのではないかと悩んでいたというのだ。
それ故の奇跡。様々な苦難を前に人が自分の足で乗り越えていけるようになってほしいという願いと、しかして、神は人々見捨てた訳ではないという証。
神獣が神のもとへを帰っても、しばらく王族たちは放心したままだったという。
その日から始まったシゲノユウキとの交流によって世界は発展を始める。
彼はただやみくもに技術の開放は行わず、悪用や事故を少しでも防ぐためにゼロから研究しなおすという迂遠な方法で、しかし人々と肩を並べて知恵や気づきを共有しながら事にあたった。
そうすることで当時の人々が正しく知識と危険性が理解できているかを確かめていたのだ。
また、彼を語るにあたって外してはいけないのはその妻たちについてである。
彼ははじめに人々に伝えたという異世界の身嗜みの知識は、その恩恵を最初に受けた教皇猊下の存在もあり、多くの女性が求めた。
その知識は女性向けのものが主だったが、男性たちも参考にすべき事柄は多く、今の男の身嗜みの土台となった。
だがそれは表の知識とも呼ぶべきものであり、もう一つの知識、夜伽に関する知識はしばらくの間は教皇猊下一人が独占していた。
当時の彼女の様子が記された書物を紐解けば、彼女が段々とシゲノユウキの寝所へ向かう回数が増えていく姿が記録されているし、お披露目の直前の頃は平時の触れ合いも見ている者が赤面するようなものであったという。
しかし、秘密というのはどこからか漏れるものであり、異性とより深く愛し合うための知識ともいえる夜伽の知識と、彼個人の独占に対して行動を起こす女性たちがいた。
美しく生まれた変わった女性たちの中で、彼個人に好意を持っていた各国の王女たちだ。彼女たちは結託して彼へと迫るようになる。
教皇猊下はまだ正式にシゲノユウキの妻となっていたわけではなかったため、その攻勢を防ぎきることが出来なかったのは不幸と言えるだろう。
そうして彼の妻となった王女たちは祖国の茶会などで、周囲の令嬢たちに寝所でのことを語りはじめる。
そうして彼の降臨から五年後、夜伽の知識もまた人々に広まるようになる。
当時の人々は解放された技術と異世界の知識を求めて神殿へと列をなしたというが、どの知識を求めてのことであったかは彼ら彼女らの心の中で秘められるべき事柄であろう。
「あなたそろそろ寝所へ行きましょう」
おっと、妻が呼んでいる。ここで筆を置くとしよう。
顔を向ければ、胸を強調するネグリジェを纏った妻の姿がある。
昼間は神官服に隠された肢体を惜しげもなく晒し、熱っぽい視線を向けてくる伴侶にごくりと喉を鳴らす。
シゲノユウキ。彼がこの世界へと来なければ、あれほど美しく淫靡な妻が存在しなかったかと思うと、神官として、一人の男として感謝してもしきれない。
わりとノリと勢いだけの作品で、書き直してみてもちょっと話の流れが気になるところがあったりな出来。
未発表版はオチを除きセリフのみの地の文なしで書いており、そっちの方が勢いがあってよかったかなとも思ったりしてます。
彼の異世界に行ってからの四苦八苦はほぼなろうテンプレ、途中でノクターン送り決定な感じの内容ですかね。