メルトへ
目を開けるとそこは先ほどの草原ではなく道の上にいた。周りは木に囲まれている、というより森の中に道があると言った感じだった。道幅は小さな車なら2台通れるくらいだ。だた路面はかなり悪い。ところどころに石が転がっている。この世界に車があるのかわからないがもう少し整備してほしい。
「そういえばレティシアが美咲と一緒の時間、場所に送ると言っていたがどこにもいないな」
周りをぐるりと見てみるが美咲の姿はない。レティシアが嘘をついたのだろうか?それとも何か問題があったのだろうか。そんなことを考えていたら後ろで何か光った。振り返ってみると美咲がいた。
「お兄ちゃんだ!本当に会えた!」
美咲はそう言いながら俺に抱きついてきた。突然のことだったが俺は優しく美咲を抱きしめる。
「勝手に死んで悪かったな。俺もまた美咲に会えてうれしいよ。しかしここはどこだろうな。ちょっとレティシアに聞いてみるか」
「え、レティシアさんと話ができるの?」
「出来るらしいが今回が初めてだから詳しいことはわからない。おいレティシア」
俺はレティシアの名前を呼んでみた。すると
『はいはーい。レティシアですよー。何かお困りごとですか?』
どこからかレティシアの声が聞こえてきた。確かに声だけと言っていたが突然のことに驚いてしまう。美咲にも聞こえているのか目を見開いている。
「おい、これはどういう理屈で聞こえているんだ」
『拓斗さんや美咲さんにわかる言葉で言いますと念話ですね。それに拓斗さんと美咲さんも声に出さなくても考えるだけで話すことはできますよ。話そうと思ったことだけ相手に届くので全部相手に届くことはないので安心してください』
『そうなのか。しかし俺には魔法の適正がないと言っていたが念話は魔法ではないのか?』
『一応魔法の部類になりますが、使えなくても受信はできます。拓斗さんから発信ができないだけですね。なので私を呼ぶときは先ほどのように声に出して呼んでください。受信さえすればお互い念話できるようになります』
発信はできないが受信はできて、受信さえすれば念話できる。こちらからかけることが出来ないスマホのようなものか。
『それでここはどこだ。俺たちはどこに行けばいい』
『ここはメルティアという国です。そして近くにメルトと言う王都があります。この道はメルトと他の街をつなぐ道です。拓斗さん達がいるところから太陽がある方に向かって歩くとメルトに着きますよ。治安もいいのでまずはメルトに行くことをオススメします』
『そうか、しかし行ったところで何か働ける場所とかあるのか?』
『それなら魔導師になるのがオススメです。なるのに審査が必要ですが依頼を達成して報酬をもらうお仕事ですよ』
よく言う冒険者のようなものか。魔法が発展しているから魔導師という言い方なのだろうが……
『魔法が使えない俺がなれるのか?美咲も大丈夫なのか?』
『はい、女神の私が保証しますよ。特に美咲さんはすごいです。何がすごいかはギルドに着いてからのお楽しみということで』
美咲はすごいとはなんなんだろうか。美咲の方を見てみるとなぜかドヤ顔をしている。美咲はレティシアからすでに聞いているのだろう。魔力がすごく多いとかだろうか。
『とりあえずメルトに行って魔導師になることが最初にすることだな。もしまた何かあったらよろしく頼む』
『いつどこでもお呼びください』
特に何もなくレティシアの声が聞こえなくなった。何か切れたときのような音があればいいのだが仕方がない。とりあえず太陽がある方に向かって歩こう。
「お兄ちゃんは魔法が使えないんだよね。そのかわりに刀をもらったの?」
「ああ、一番最初にレティシアがくれたんだ。この世界で作られたらしいが普通の刀らしいぞ」
「へー。ちょっと持ってみてもいい?」
「ああ、だが鞘から刀身を出すんじゃないぞ。危険だからな」
「わかっているよ」
俺は桜花を腰から外し、美咲に渡そうとしたがなぜか手から離れない。俺が手を離さないことを不思議そうな顔をしながらも美咲が柄に触れようとしたところで
「きゃっ」
美咲の手と柄の間で静電気のようにバチッと何か光った。それに驚き美咲は手を引っ込めた。
「大丈夫か!」
「うん、別に痛くなかったから。でもなんだったんだろう?」
「わからない。詳しいことがわかるまで持つのは待っていてくれ」
何か桜花から怒りのようなものを感じる。しかし俺の腰に再びつけるとそれはなくなった。不思議な刀だ。
「とりあえずメルトに行ってみよう。近くと言っていたがどのくらい離れているかわからないしな」
少し歩いたところで木々がなくなり、代わりに建物が見えてきた。その中でひときわ目立つ建物がある。先ほど王都と言っていたし、見た目からお城だろう。お城がある位置からなんとなくあの有名なテーマパークのように見える。道に沿って歩いていくと門があり、その両端に人が立っていた。
「そこの二人、止まりなさい」
右側にいた人に声をかけられ足を止める。声をかけてきた人は西洋にあったような甲冑を着ていて、40歳くらいの髭がたくましい男性だった。
「何か身分を証明できるものはありますか」
「すみません、そのようなものは持っていません」
「ではなぜここ、メルトに来たのですか」
「魔導師になれると聞いてきました」
「魔導師希望ですか。わかりました。ではこちらをお渡しします」
男性から渡されたものはカードだった。そのカードは透明で何も書かれていない。一体何なんだろう。
「これは仮身分証明証です。効果は24時間でもし切れてしまうと明るく光り、不法侵入者となってしまいますので注意してください。更新、またはギルドカードをもらいましたら再びここに来てください」
「わかりました。それでお聞きしたいのですがギルドはどこにありますか?」
「街に入ってまっすぐ行くとありますよ。王城の近くの大きな建物ですからすぐ気付くと思います」
「ありがとうございます」
「「ではようこそ、メルトへ!」」
対応してくれた男性と左側でずっと立っていた男性がそろって言った。男性の話し方もそうだったがよそ者でも親切に対応してくれる。
中に入ってみると建物は木造やレンガなどあまり魔法世界ぽくはなかった。むしろ外からでも思ったがあのテーマパークみたいだ。まさに夢の世界。たくさんのお店があり、様々な年齢、性別の人たちが行き来している。
「なんかあのテーマパークと似た感じだね。ちょっと怖いイメージもあったけどお兄ちゃんもいるし何とかなりそうだね」
「ああ、桜花について何か言われるかもしれないと思ったが何も言われなかったしな。日本なら大騒ぎだからな」
門にいた男性に桜花を没収されたりしないか心配だったが何のこともなかった。すんなり入れたし意外といいところかもしれない。そんなことを考えつつ街の中を見ながら歩いていると大きな建物が見えた。ほかの建物は大体1階のみ、たまに2階建ての建物があったくらいだがその建物は3階建てだった。そして看板に『魔導師ギルド』と大きく書かれている。大きな扉を開けて入ってみると、中は外からもわかっていたが広く、奥がカウンターのようになっていて受付のようになっている。入り口から見て左側に掲示板があって張り紙がたくさん貼ってある。右側にはテーブルが並んでいて、正面と同じくカウンターがあるが料理を作っている。ちょっとした酒場のような雰囲気だ。すでに何人か飲んでいるようで顔が赤い人もいる。
そんな風に周りを見ていたせいか掲示板に張り紙を入っていた女性が近づいてきた。
「初めての方ですね。魔導師志望ですか?」
「はい、ここに来れば魔導師になれると聞いたのですが」
「そうですね、魔導師になれますが審査が必要ですよ。もし審査が通らなければ残念ですが魔導師になれません」
「ああ、それは知っています。それで俺たちはどうすればいいですか?」
「まずはあちらの受付で書類を書いてもらいます。あ、私ここで働いていますニーナと申します」
ニーナは名乗りながら頭を下げた。美咲より背が低く、顔も幼く見えるが何歳なのだろうか。もしかしたらこの世界では年齢が低くても働けると言うことだろうか。とりあえずニーナさんの案内で受付まで行くとニーナさんは薄い板を渡してきた。
「こちらに名前、年齢、適正属性をお書きください。書き終わったらお渡しください。何か質問がありましたらお答えします」
この板にどうやって書くのだろうか。ペンなどはどこにも置いてないし、それ以前に
「すみません、適正属性が何かの前に俺は魔法が使えないのですが」
「え……本当ですか?しょ、少々お待ちください」
ニーナさんは驚きながらもそういってどこかへ行ってしまった。そりゃ驚くだろう。魔導師になりたいのに魔法が使えないと言われたら。ニーナさんがどこかへ行ってしまっている間にどうにかしてこの板に名前を書くのか考えていたら
「これ、タッチパネルのように指で直接書けるみたいだよ」
美咲がすでに書き方を見つけていた。言われた通り指で書いてみると書けた。指が太いのでペンで書くのと少し違ったせいかきれいに書けなかったが。適正属性以外書き終わったところでニーナさんが何か持ってきて戻ってきた。
「お待たせしました。こちらに手のひらを乗せてください」
ニーナさんが持ってきた物は大きな水晶玉のようなものだった。ニーナさんに言われた通り乗せてみると淡く光ったと思ったらすぐに消えてしまった。
「やはり魔法が使えないようですね。適正属性のところにはなしと書いておいてください」
「やっぱりな。まあ仕方がないことだ」
「それではお隣にいる方も触れてみてください」
「はーい。どうなるかなー」
美咲が水晶玉のようなものに触れると淡く光った後、白く光りだした。
「これは……すみません。もう一度お待ちください」
美咲の結果を見たシーナさんは再びどこかへ行ってしまった。俺たちのせいだろうが忙しないな。
「美咲、適正属性って何か知っているのか?」
「うん、知っているよ。レティシアさんから教えてもらっていたからね。私の属性は―――」
「おいおい、兄ちゃん。魔法が使えないんだって?そんな奴がよく魔導師になろうなんてしたな。それに骨董品なんかぶら下げてバカだな」
そんなことを言ってきたやつは顔を真っ赤にした少し太った男だった。それに桜花は骨董品なんかじゃない。
「別に魔法が使えなくてもいいだろ」
「いーや、魔法が使えない奴なんかゴミと同じだよ」
「お兄ちゃんをそんな風に言わないで!」
「ああ、なんだ。お兄ちゃんって言っていることは妹か。引っ込んでいろ!」
男が美咲を殴ろうとしたので俺はその拳を受け止める。初めて受け止めたが全然痛くなかった。
「俺の妹に何しようとしているんだ?」
「何だその目。俺とやろうってか?上等だ、叩き潰してやるよ!」
「おめえら、ここで何をする気だ!」
カウンターの奥からニーナさんとおじさんと言うべき人が出てきてギルド内すべてに響くような声で言った。おじさんと言ったがよく見ると体は引き締まっていて筋肉もある。かなりできる男性だ。
「あいつが魔法が使えない魔導師志望者か。ちょうどいい、そこの二人ちょっと戦ってみろ。ただし場所はここではない、ちゃんとした場所でな」
勝手に仕切り始めた男性は一体誰なんだ。そしてなぜ俺がこいつと戦うことになったんだ?しかしこいつは美咲に手を出そうとしたんだ。ちょうどいい機会だから話に乗ってやろう。